東京スカイツリーの開業以来、いっそう賑わいを増す東京・墨田区。最新の飲食店やショップが軒を連ねるいっぽうで、伝統的な技術を受け継ぐ職人たちが手仕事でものづくりをする小さな町工場や工房が、そこかしこに残っています。人の手がつくりだすものには温度があり、物語が宿ります。それは「ものを大切にする」ことを、言葉なく教えてくれるはず。最近、伝統工芸が気になるという上白石萌音さん。江戸時代から続くガラス工芸を伝える工房を訪ね、江戸切子づくりを体験しました。

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どんなものにも、それをつくる人がいる。
それを想う気持ちを大切に持ち続けたい

以前は衝動買いすることもしばしばだったという萌音さん。でも最近は買い物に対する考え方が変わってきた。

「すぐに飽きて捨ててしまう。その行為は悲しいし申し訳ないし、お財布だって痛い。だったら買う前にそれが本当に必要か、この先５年、10年と大切にできるかをしっかりと自分に問えばいい。以前もハンモックが欲しいなと思ってから８回くらいネットやお店に見に行って、やっぱりこれは欲しいと確信を得てから買いました。大きな買い物になればなるほど慎重になっていいし、そうしたほうが自分も後悔しないので。優柔不断も、ときにはいいこともあるんですよ（笑）」

最近見たある展示も、買う／捨てるということをあらためて考える機会をくれた。

「長坂真護（まご）さんというアーティストで、ガーナのスラム街に広がるごみの山から廃棄物を持ち帰り、それらからアート作品をつくっているんです。そこは“世界最大の電子機器の墓場”と呼ばれている場所で、日本を含む先進国が捨てた電子機器が集まる場所。現地の若者たちがそれらを燃やして収入を得ているのですが、有毒なガスを吸って病気になったりしている。長坂さんは作品の売り上げでガスマスクを届けるなどの支援をしつつ、ゆくゆくはリサイクル工場を建設したいと、ごみからアートがつくれなくなる日を目指しているそうです。作品にはパソコンのキーボードとか、まだつかえそうな電子機器がたくさんあって、もしかしたら私もガーナの現状に加担しているのかなって。そう思ったら、ポンポンものを捨てるなんてできない。自分にも責任があるんだって強く感じたんです」

ものがあふれる便利な時代。わかっていてもライフスタイルを変えるのは難しい。それでも、できることはたくさんある。

「どんなものでもそれをつくる人や、そこに携わる人がいる。職人さんの仕事を見て、体験して、あらためてわかりました。手仕事に限らず、自分が手に取るものすべてに背景がある。そのことに想像を向けるだけでも、ものとのつき合い方は変わりますし、そのためにも、つくり手を見にいく、話すっていうことを大切にしていきたいですね」

すみだ江戸切子館

江戸時代から受け継ぐ伝統工芸「江戸切子」の歴史や文化を伝える工房兼ショップ。職人の作業風景もガラス窓越しに見学できる。江戸切子体験は大人¥4500（税別）。
東京都墨田区太平2-10-9　☎03-3623-4148　https://www.edokiriko.net/

PROFILE

上白石萌音　かみしらいし・もね
俳優・歌手。1998年鹿児島県生まれ。2011年第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。21年にはNHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』で主役のひとりを演じるなど俳優としてのキャリアを積む。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo：Ayumi Yamamoto　Styling：Itsumi Takashina　Hair & Make-Up：Kanae Yamada　Text：Yuriko Kobayashi　Edit：Chizuru Atsuta
Composition：林愛子