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起業家を育てる高専の開校も! 若者を応援する徳島県「神山町」のSDGs最新事情
起業家を育てる高専の開校も! 若者を応援する徳島県「神山町」のSDGs最新事情
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起業家を育てる高専の開校も! 若者を応援する徳島県「神山町」のSDGs最新事情

SDGs先進県として世界から注目されている徳島県。フードハブやゼロ・ウェイストという言葉は、もうご存じでしょう。その言葉を日本に広めた神山町、上勝町は、人口減少で存続さえ危ぶまれる過疎のまちです。にもかかわらず、たえず新しいものが生まれているのはなぜでしょうか。それを支えているのが「人」と「食」でした。前回に引き続き、神山町のいまをご紹介します。

▼農と食で地域循環をめざす、神山町の取り組みはこちら

若者を応援する風土と、食への理解を深める教育

上一宮大粟神社本殿の裏山に登り、見晴らしのいい場所から見た神山町

「神山町には、新しいことを受け入れてくれる土壌があると思います」

いよいよ2023年4月に開校する〈神山まるごと高専〉事務局長の松坂孝紀さんは力強く言った。日本で19年ぶりに新設される高専で、クリエイティブな起業家を育てるというコンセプトが話題を集めている。なぜ神山町だったのか、には明確な答えがある。

神山まるごと高専の事務局長・松坂孝紀さん

「神山町がこれまで育んできたものが、本校のビジョンとマッチしていました。神山町は30年もの時をかけて独自の文化風土をつくってきた。われわれはその肥沃な土壌で、社会に変革を及ぼしていく人を育てていきたいと考えています。一般の学校では浮いてしまうような学生も、のびのびと学べる理想的な環境が神山町だったんです」

この高専の給食を担当するのはフードハブ・プロジェクト。生産者が近くにいて、調理師の顔が見えて、身近に豊かな食環境があることを知るのは、学生にも有意義に違いない。

鮎喰川を背景に、NPO法人 まちの食農教育の代表理事・樋口さん(右)と、理事・事務局長の安東迪子さん(左)

「地産地食を掲げるフードハブ・プロジェクトが関わることは神山町にとって追い風だ」と語るのは、NPO法人〈まちの食農教育〉代表で前出の樋口明日香さん。小学校教員だった経験から、給食を変えることの難しさを痛感しており、だからこそ給食が変われば他のものごとも変わると信じ、日々奔走している。

「学校に行けばちゃんとした食事が摂れることは日本の素晴らしいシステムですが、もっとうまく活かせるのではないかとも考えています。食育というと、栄養素とか、バランスよく食べましょうとか、家庭科で習うようなお勉強のイメージが強いですが、知識だけでは食というものの実感が伴わないですよね。その食材がどう育ったのか、どうつくられたのかを知ることができたら子どもたちの自信につながるし、食に対する認識も変わると思うんです」

学校のなかからは難しくても、外側からであれば変化に携われるのではないか。初めはフードハブのスタッフとして、先生に向けたスタディツアーのなかで課題や希望をヒアリングしたが、地産地食は地域みんなで合意形成しながら行っていくもので、フードハブ・プロジェクト以外の農家とも関わっていくからと、独立してNPOを立ち上げた。高専とも、学校と地域のつながりを強くしていくために協働したいと意気込む。

そばと神山小麦の栽培、脱穀などをした、食農プロデュースコースの山口涼香さんと佐々木崇善さん。環境デザインコースで木の伐採、剪定を行った影紗那さんと、棚田の石積みに取り組んだ竹田凌さん。作物をつくるための環境を地道に整え、先輩から渡されたバトンを彼らもまた後輩へとつないでいく

城西高校神山校の生徒たちが、神山小麦やそばを栽培するため、まずまちの耕作放棄地を再生させる取り組みを始めたときも、樋口さんが関わっていた。「神山創造学」として、生徒自らまちに出て神山町の人に出会い、その仕事に触れ、プロジェクトを実行していく授業である。環境整備に収穫、食品加工……。生徒たちの自主性を重んじ、積極的に地域と関わる。どうしてこの地にはどんどん新しい取り組みが生まれるのか、樋口さんにも聞いてみた。

「神山町には新しいものごとがほどよく生まれる状況があると感じます。新陳代謝が活発で、若い人たちを応援する風土があるんです」

過疎化も教育問題も、費用を投じれば解決する話ではない。タネをまくにはまず雑草を抜いて土を耕さなければならないし、収穫するには待つ時間が必要だ。学校も、子どもも、地域も同じ。タネをまきつづける彼らの取り組みは、未来を信じているからにほかならない。

城西高校神山校

神山校独自のプログラムに、「神山創造学」というオリジナルの授業がある。社会人講師を授業に招き、学校を出て神山町の課題や現実を知るのが目的だ。

そのひとつとして、耕作放棄地を高校生たちが開墾した〈まめのくぼ〉でのそばや神山小麦の栽培、神山町の棚田の景観の特徴である石積みなどを、年間を通して体験する授業がある。

NPO法人 まちの食農教育

フードハブ・プロジェクトの食農教育部門が2022年にNPOとして独立。子どもたちの農業体験をつうじて、「食」への関心を育てようと学校と連携しながらプログラムを企画、実施している。樋口明日香さんは2016年にフードハブの設立後まもなく参加。かまパン&ストアの立ち上げを経て、城西高校神山校の文化祭でお弁当づくりをしたり、小学生と米づくりを行ったりと、フードハブの食育部門担当として地域の農業者と学校をコーディネーターとしてつないできた。それをより幅広く行うためにNPOとして独立。神山まるごと高専にも「食と農」で関わっていく。

www.shokuno-edu.org

長く県外の業者が携わっていた神山町の学校給食を、調理体制の確保や食の安全性、災害時の対応などをふまえて、2022年度からフードハブ・プロジェクトが受託するように。給食の食材はなるべく地元産でという目標があり、2022年度の統計(全2回)は76.1%と68.1%だった。「課題が見えたことが収穫です」と、学校給食センター所長の高橋成文さん(後列中央)。つくる人、食べる人の顔が見える関係性が築かれることで、子どもたちの食への関心の高まりが期待される。

鮎喰川コモン

神山町で暮らしたい人が増え、町も歓迎したいが、あらたに家を建てられる土地や借りられる家が少ない。その解決策として、神山町の森林資源を活用し、町内の建築士と工務店でつくる町営の集合住宅プロジェクトにより2021年3月に完成したのが〈大埜地住宅〉。

隣接する共同コミュニティスペース〈鮎喰川コモン〉は、放課後の遊び場や、図書館的役割を担う空間として、地域のみんなで子どもを育てるリビングルームのような場として賑わう。

DATA:徳島県名西郡神山町神領字大埜地374-1 ☎050-2024-4990

神山まるごと高専

起業家の育成を目指す高等専門学校として2023年4月に開校。全寮制で、学費は5年間無料! テクノロジーとデザイン、起業家精神を学べる高専として注目を集めている。大学受験用の勉強に中断されることなく、自分が社会に出るための勉強に集中できる環境が整う。校舎は「オフィス」と呼ばれ、寮は旧・神山中学校舎をリノベーションした「ホーム」。給食はフードハブ・プロジェクトが担当する。

事務局長の松坂孝紀さんは、「新しく社会に変革を及ぼしていけるような人材を育てたい。ようやく、そのスタート地点に立ちました。国道沿いに『高専を歓迎します』という横断幕が掲げられていますが、あれは神山町の皆さんが自発的に行ってくれたこと。うれしいですね」。1期生は44人で、初年度の受験倍率は9倍だったという。

DATA:徳島県名西郡神山町神領字西上角 ☎088-677-1776 kamiyama.ac.jp/

●情報は、FRaU2023年4月号発売時点のものです。

Photo:Mai Kise Text:Nobuko Sugawara(euphoria factory)

Composition:林愛子

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