米軍将校たちが愛したホテルが大進化! 沖縄「暮らしの発酵」で究極のウェルネスステイを
青い海に首里城、やんばる(山原)の森などの世界遺産、琉球時代から継承されてきた独自の文化や沖縄料理など、魅力がいっぱいの沖縄県。国内外から多くの観光客が訪れるこの地では、「エシカルトラベルオキナワ」というプロジェクトが推進されています。この取り組みは、人や社会、環境に配慮した、やさしい観光先進地を目指すというもの。このプロジェクトに賛同し、サステナブルな沖縄旅を提供している人気の施設を訪ねました【後編】。
人にも地球にもやさしいサステナブルなホテル
「EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート」は、沖縄県北部の中城村(なかぐすくそん)にある体験型リゾートホテル。「EMウェルネス」のEMは「Effective Microorganisms(有用微生物群)」の略称で、乳酸菌や酵母などの善玉菌を指す。ホテルの食や空間づくりに、こうした発酵の力を取り入れているホテルなのだ。ステイすることで、“心地よい暮らしのヒント”を自宅に持ち帰ってもらいたい、という想いがあるという。
「発酵をテーマに、“人にも地球にもやさしいサステナブルなホテル”がコンセプト。ビーチもプールもありませんが、それ以上の豊かさを体感できる、化学物質を廃した空間、安全な食べ物、汚染されていない水と空気を用意しています。ここで過ごすことで心と身体の健康を取り戻し、健康になって帰ってもらいたい。その結果、暮らしがよりサステナブルで豊かなものになり、地球への負荷も下がることが狙いです」(総支配人 西渕泰さん)

ルーツの「沖縄ヒルトン」は沖縄復帰と同時にオープン。以来、まちのランドマークとして親しまれてきた。アメリカの建築基準でつくられており、コンクリートは分厚く堅固だ
建物は築50年、1972年に沖縄初の本格リゾートホテル「沖縄ヒルトン」としてオープン。1985年に「シェラトン沖縄」にブランドチェンジし、1990年には「ホテルスタービル」として工事を始めたものの、バブルが弾けて計画は頓挫。それから13年間廃墟状態にあり“幽霊ホテル”などとも揶揄された建物を、2004年からEM研究機構が引き取り改修工事を始めた。
「建て替えたほうが安いと言われたんですが、沖縄復帰当時から残っている建物は、もうほとんどない。みんなに親しまれた建物で、ある意味文化財であるとも考え、壊さず、よみがえらせることにしたんです」(西渕さん)
そして2005年、「コスタビスタ沖縄ホテル&スパ」がオープン。けれどもコロナ禍に襲われ、観光客が激減してしまう。これをきっかけに「ウェルネスをもっと知ってもらいたい」と原点に還り、「EMウェルネス 暮らしの発酵ライフスタイルリゾート(以下、暮らしの発酵)」と改称。2021年10月にリニューアルオープンを果たす。
暮らしの発酵では、生ごみを資源に再生し、合成洗剤、化学物質をつかわないなどサステナブルな運営を徹底している。ホテル内外の清掃は発酵系の微生物が活きた洗剤をつかい、発酵液と無添加石けんでリネン類を洗濯。さらに客室からペットボトルを廃し、ピッチャーを置いて各所に設置されたウォーターサーバーを設置、竹の歯ブラシなどを採用してプラスチック製品を削減している。

客室は全195室。乳酸菌や酵母を活性化させた発酵液でクリーンに保たれているからか、入った瞬間、なぜか落ち着く
ホテルでは、地域文化と伝統を守りながら、安心安全な食の提供を心がけている。総料理長の照屋寛幸さんは、琉球料理伝承人の資格保持者。レストラン「キタナカガーデン」で、自社農園の有機野菜や発酵調味料をつかった料理をブッフェ形式で提供している。
「自社農園の“サンシャインファーム”でEMをつかって育てた有機野菜や、化学物質を抑えながら飼育した鶏の卵を提供しています。発酵調味料を多くつかい、きび砂糖やみりんを使用して白砂糖は使用していません。サラダコーナーのドレッシングは甘酒、塩麹など発酵調味料をつかった自家製で、地域の方々もおいしいサラダを食べにいらっしゃるんですよ」(副総支配人 前川幸輝さん)
とくに評判なのが、有機栽培で育てられたミニトマト。ジューシーで甘いけれど、トマト本来の力強い味わいもちゃんとあって、旨みが口いっぱいに弾ける。敷地内にはハーブガーデンがあり、料理だけでなくジンジャーエールやクラフトコーラづくりにも活用しているそうだ。

「スパでリフレッシュしてランチブッフェを利用し、ショップで調味料や野菜なんかを買って帰る地元の方も多いんですよ。じつは施設利用者の35%が、沖縄県民なんです」(前川さん)

ドレッシングはすべて自家製。館内のショップで量り売りしている
総料理長の照屋さんがとくに力を入れているのが、ブッフェスタイルの朝食。発酵調味料で季節の素材を調理した、健康とおいしさを兼ね備えた食事が並ぶ。「ぬちぐすい(命の薬)」コーナーでは、海藻、豆類、島野菜を中心にした伝統的な沖縄の食事を再現。豆腐やヨーグルト、パン&コーヒースプレッドも自家製で、ハムは添加物を加えず塩麹をつかってつくっている。
発酵パワーを活かした新鮮な野菜たっぷりの朝食は、パワーチャージに最適。これぞ腸活!というべき内容で、数十分後にその実力を身をもって体感できた。

大人気のショップには、選りすぐりのエシカルな商品、発酵アイテム、オーガニック野菜などがズラリ。添加物が入っているものはひとつも置いていないとか
地球からもらったものを土にして還し、その恵みをいただく
おいしい野菜や発酵調味料を買いこんだ後に、発酵ホテルの食を支える自社農園、サンシャインファームにお邪魔した。約1000坪のファームを取り仕切るのは、有機栽培のエキスパートである泉田貴幸さんだ。

「微生物をつかった有機栽培を、すべて手作業でおこなっています」(泉田さん)
ファームではホテルから出る食料残渣(ざんさ)や鶏のフンなどを肥料にし、畑につかっている。驚くのは、平飼いされた鶏が暮らす鶏舎がまったくにおわないこと。
「ここでは抗生物質はつかわず、発酵飼料を食べさせています。微生物に注目して育てており、腐敗ではなく発酵が優勢なので、イヤなニオイがしない。免疫とか微生物層が乱れて腸内環境が悪くなると、鶏たちの機嫌が悪くなったりするんですよ。だからうちのニワトリたちは、とっても落ち着いているんです」(泉田さん)
たしかに、奇声(!)を上げたり落ち着かずにウロウロしていたりする鶏は、一羽もいない。ご機嫌の鶏たちが生む卵だから、あんなにコク深くおいしかったのか。ストレスフリーだから、みんな元気で産卵率も通常より高いのだという。

ファームには1400羽ものモリスブラウン種が飼育されており、穏やか(!)に来訪者を迎えてくれる
鶏舎の床には木のチップを敷き、菌の力でフンを分解、発酵。ホテルの生ごみや野菜からつくった堆肥(たいひ)とまぜ、野菜をつくっている。ここ沖縄は冬でも温度が下がらないため、堆肥を培養しやすいという。
畑では数種類のレタスやトマト、インゲン、ナス、ゴーヤなど、シーズンごとに30品種ほどの野菜が収穫できる。夏にまいた種が一気に実る、秋から冬の終わりにかけてがゴールデンタイム。米は3月に田植えをし、七夕ころには収穫できる。ファームの会員になると農作業が体験でき、収穫した米や野菜は無料で持ち帰れるそうだ。
「月会費500円で、コミュニティに参加できます。二世代、三世代で作業をして収穫し、それを持ち帰ってみんなで食べる。そんな“畑がある暮らし”の豊かさを知ってもらいたいと考えています」(泉田さん)

左奥にある白い建物が鶏舎。その奥の堆肥場で肥料をつくり、畑に還元している
土曜日のオープンデイは、会員でなくても畑での作業やワークショップに参加できる。近隣の人も参加し、焚き火クッキングやハーブをつかったルームフレグランスづくりなどを楽しんでいるそう。
「地球からもらった恵みを、土にして還すことを大事にしています。子ども向けのワークショップでは、ニワトリが産んだ卵を持ち帰って親子丼なんかをつくってもらい、出た生ごみをまた持ってきてもらって堆肥に混ぜる、なんてこともしているんですよ」(泉田さん)
ホテルでは、こうしたワークショップつきの宿泊プランも用意。発酵ホテルの目標は、沖縄全体を“ウェルネスな島”にすることだという。もともと沖縄県北中城村は、全国的にも有名な「長寿の村」。村に伝わる長寿の知恵と発酵のパワーを、ぜひ体感しに行ってみよう。
Photo & Text:萩原はるな




