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脚本家・吉田恵里香「恋愛しないドラマがあってもいい」
脚本家・吉田恵里香「恋愛しないドラマがあってもいい」
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脚本家・吉田恵里香「恋愛しないドラマがあってもいい」

数多くのドラマ、アニメの脚本を手掛ける人気脚本家の吉田恵里香さん。彼女は多角的な視点を持ち、多様な価値観に視線を向けて作品をつくっています。吉田さんが脚本を書いた話題作を例にあげ、作品に込めた思いを聞きました。

知らないがゆえに、
無意識に差別をする

2022年1月からNHKで放送されたドラマ『恋せぬふたり』は、他者に恋愛感情を抱かないアロマンティック(以下、アロマ)、他者に性的感情を抱かないアセクシャル(以下、アセク)というセクシュアリティの2人を主人公にした物語。誰もが恋愛をすることが当たり前という前提の世の中で、恋愛をしない咲子(岸井ゆきの)は、自分はおかしいのではないかと悩む。周囲からの何げない言葉に傷ついていた咲子はある日、同じく恋愛をしない高橋(高橋一生)に出会う。そんな2人が恋愛抜きで家族になろうとするストーリー。脚本を担当したのは、吉田恵里香さんだ。

「私がアロマ、アセクという言葉を知ったのは、5年ほど前に海外ドラマを観ていたときでした。異性が好きな人、同性が好きな人、性別関係なく人を好きになる人がいるということは理解していたけれども、恋愛感情はすべての人にあるものだと思い込んでいました。私は、これまでドラマを書くなかで、この人たちの存在をないものにしてきてしまったと痛感したんです。一番怖いのは無意識や、悪意なき『ふつうの押しつけ』。知らないがゆえに、そのつもりはなくても差別をしてしまっていることがあります。その存在を書くことで、多くの人にとって『知る』という第一歩になればと思いました」

セクシュアリティやジェンダーについて、本を読んで知識を深める。読んでいるのは、エリス・ヤング著『ノンバイナリーがわかる本 heでもsheでもない、theyたちのこと』(明石書店)。今後は性自認が男性にも女性にも当てはまらない人の作品を書きたいという

当時まだ日本語でのアロマ、アセクの情報は少なく、知人の助けも借りながら英語の文献やニュースを訳読し理解を深めていった。そしてそのセクシュアリティをテーマにしたドラマの企画も提案。しかし認知度がほとんどないテーマの企画はなかなか通らなかった。

多様なキャラクターを意識して書いたのは、2018年に放送されたアニメ『DOUBLE DECKER! ダグ&キリル』(TOKYO MX)。吉田さんはサブ脚本を務めた。

「メインの脚本家の鈴木智尋さんやプロデューサーともお話しして、フラットな世界観を書こうと決めました。登場する4人の女性キャラクターの恋愛描写はほぼなく、恋愛に振り回されない。他にもゲイのキャラクターもいて、ふだんアニメを観ていても出てこないワードや価値観を出していくことを意識しました」

執筆中の吉田さん

2020年に放送されたドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(テレビ東京)にも恋愛をしないキャラクターが登場する。このドラマは、人の心を読めるようになった主人公の男性が同じ会社の同期の男性と心を通わせていくラブストーリー。国内外で大ヒットした。

「原作漫画ではボーイズラブ好きの女性キャラの藤崎さんを、ドラマでは恋愛がなくても楽しく生きている人という立ち位置に変更しました。原作者の豊田悠先生にも快諾いただいて実現しました」

日本のラブストーリーに恋愛をしないキャラクターが出てくるのは、実は珍しいことだった。そこから、ドラマ『恋せぬふたり』につながっていったという。

これまで手掛けたドラマの台本

「『恋せぬふたり』は、アロマ、アセクの知識がある人が見たら、いまさらという内容かもしれない。でもエンターテインメントで扱うことによって、知る機会がなかった人たちが観てくれて『そういう人もいるんだ』と思ってもらえるかもしれません。そのためにあまり説教臭くならないことを意識していました」

興味がある人は自ら調べて情報を得るが、知らない人は知らないままになってしまう。エンターテインメントの題材になることによって、より多くの人が知ることにつながる。

「ドラマの長さの都合上書ききれなかったことも多かったけれど、いまできる最大限を尽くしました。視聴者の方から2人を取り巻く環境や関係性についてご意見をいただくことも多かったです。書くものには、私自身の考え方や視点が反映されてしまうので多くの価値観を知ることが大事ですね。そして間違ったことを書いてはいけないので、少しでも勉強しようと取り組んでいます」

多様性について関心を持ち、日々勉強を続け、多くの人にその存在について知ってもらう。知られていなかった価値観だからと珍しがるのではなく、丁寧に心情を描写する。吉田さんの真摯なまなざしから意義のあるエンターテインメントが生まれている。

「ラブコメやラブストーリーを書くことが好きなので、これからも書いていくと思います。しかし登場人物全員が恋をして、みんな異性愛者というのはリアリティがない。多様なセクシュアリティや性自認の人たちで社会は成り立っています。いろんな立場の人々をたくさん登場させたいです。そして視聴者の方々が何か辛いことがあっても、作品を観たときにひと筋でいいから光が差すような、そんな作品を書いていきたいと思っています」

PROFILE

吉田恵里香 よしだ・えりか
1987年神奈川県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科在学中から脚本を書きはじめる。映画『ヒロイン失格』やドラマ『花のち晴れ~花男Next Season~』(TBS)など漫画の実写化を数多く手がけ、ドラマ『ブラックシンデレラ』(ABEMA)では外見至上主義に立ち向かう女子高生を描いた。2022年にNHK総合で放送されたドラマ『恋せぬふたり』で第40回向田邦子賞を受賞。

●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Masanori Kaneshita Text & Edit:Saki Miyahara
Composition:林愛子

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