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ドイツのサステナブルをめぐる旅③   デュイスブルク、オーバーハウゼン、ドルトムントの産業遺産に圧倒された!
ドイツのサステナブルをめぐる旅③   デュイスブルク、オーバーハウゼン、ドルトムントの産業遺産に圧倒された!
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ドイツのサステナブルをめぐる旅③   デュイスブルク、オーバーハウゼン、ドルトムントの産業遺産に圧倒された!

環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2021でも世界6位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、そんなドイツのサステナブルを巡ってレポートします。第3回目は前回に続き、150年にわたり重工業地帯として栄えてきたドイツ西部のルール地方を探訪。閉鎖された巨大な製鉄所や炭鉱、ガスタンクなどが博物館や芸術文化活動の拠点にコンバージョン(転換)され、観光と雇用の両面で地域再生に貢献するようすをリポートします。

地上70m! 高炉の上からは圧巻の風景が

デュイスブルクは、ドイツのライン川とルール川の合流点に位置する、ルール地方の玄関口にあたる市だ。その地で1901年〜1985年まで操業していたのがティッセン社の製鉄所。東京ドーム約38個分、180haのその跡地周辺は「デュイスブルク・ノルト景観公園」に生まれ変わり、地域の人の憩いの場、観光スポットとして人気を集めている。夜は製鉄所のシンボルともいうべき高炉(溶鉱炉)などがライトアップされ、週末にはストリートフードが集結するイベントがおこなわれるなど、常に多くの人でにぎわっている。

高さ70mの高炉は、いまは展望台になっていて誰でも上れる。が、そのためには鉄色の階段を延々と上がらなくてはならない。この無骨な階段、昔は高炉の点検用だったそうで、高所恐怖症の人にはちょっとした苦行だろう。でも、その価値は十分にある。展望台からはデュイスブルクの街、ルール地方、ライン川下流域の一大パノラマを楽しめるからだ。

かつてコークスと鉄鉱石の貯蔵庫だった場所は、分厚いコンクリートの壁に囲まれている。そこには壁を突き抜けるチューブスライドや、ボルダリング用のホールドが設置されていて、子どもも遊べるようになっている。

鉄鉱石を燃料庫に運んでいたボーディングブリッジは「クロコダイル」の愛称で親しまれ、公園のアイコンになっている。敷地内の木々の多くは、アフリカ、オーストラリア、アジアなどさまざまな国から運ばれてきた石炭に付着していた種が自然と芽吹き、育ったものだという。このような自然景観を「インダストリアルネイチャー(産業的自然)」と呼ぶそうだ。広い敷地内は徒歩やレンタサイクルで散策できるほか、ガイドツアーでも巡れる。「工場萌え」の人はもちろん、そうでない人にとっても巨大な製鉄工場の建物を堪能できる貴重な施設だ。

欧州最大のガスタンクを再利用した展示場で「宇宙体験」

デュイスブルク市の東隣、オーバーハウゼン市の街にそびえ立つ直径67m、高さ117mの巨大なガソメーター(ガスタンク)。1920年代後半に建設された当時はヨーロッパ最大の円柱型ガスタンクだった。いまでも、かなり遠くからでもはっきりとその姿を確認できる。ガスタンクは1988年に操業を停止したが、オーバーハウゼンのランドマークとして残され、ガス圧盤などもそのまま残して展示会やコンサートなどが催されるイベントスペースへと変貌を遂げた。

現在開催されているのは、「THE FRAGILE PARADISE(壊れやすい楽園)」という気候変動をテーマにしたエキシビション。地球の波乱に満ちた気候の歴史を通して、動物と植物の世界がどのように変化したかを、写真とビデオによる視覚的なバーチャル旅行を体験するというもので、とても面白い。2023年11月26日まで開催されているので、機会があればぜひ寄ってみてほしい。

展覧会のハイライトは、高解像度の衛星画像でつくられた地球儀の投影映像。頭上100mにあるスクリーン(ガスタンクの天井裏)に映し出された地球を、観覧スペースに寝転がりながら見上げると、なんとも幻想的。屋上展望台行きのガラス張りのエレベーターに乗ってこの映像を見ると、まるで宇宙船から地球を眺めているような気持ちになる。

「歩くジェットコースター」と旧炭鉱のアールヌーヴォー建築を堪能

デュイスブルク市の南にある、亜鉛精錬所の跡地につくられたパブリックアート「タイガー&タートル・マジックマウンテン」は、ドイツ・ハンブルクのアートデュオ Heike MutterとUlrich Genthによる「歩くジェットコースター」というべき作品だ。採掘作業で残された亜鉛と鉄鋼をつかって制作されたレールは階段になっていて誰でも歩ける。ただし、乗り物(コースター)はどこにもない。まず入り口のスロープを上がると、すぐに突き当たり、左右どちらに行くかの選択を迫られる。右方向は緩やかに上がる階段で、左は急勾配の階段。どちらに進んでも結局は途中のループ部分で引き返すことになる。いわゆる、コースターの「宙返り」部分は歩けないからだ。もっとも高さのある標高45m地点からは、ルール地方の素晴らしい景色を眺められる。

日が暮れると白色のLEDでライトアップされ、遠目には夜空に光の描線が浮かんでいるように見える。このオブジェは、人々がスピードを重視しながら生きるいまの時代をジェットコースターに見立て、その上を、ゆっくり楽しんで歩こうと訴えているのだろうか。工業地帯から憩いの場所へ──この地の役割の変遷を象徴しているようだ。

そのタイガー&タートルから東に離れること約50km。並木道の奥に見える赤レンガの建物は、まるで名門大学か教会といった荘厳な佇まいの「ヴェストファーレン産業博物館」だ。ルール地方東部、ドルトムント市にあったツォレルン炭鉱 II/IVは、1902 年に採掘を開始し1966年に閉山になったが、市民や専門家たちの要望により、価値のある建物として後世のために保存されることとなった。1981年からはヴェストファーレン=リッペ地域協会 (LWL) によって産業文化遺産として整備され、博物館として公開されている。

1900年代に流行ったアールヌーボー様式の装飾が印象的なレンガづくりの建物は「労働の宮殿」と呼ばれている。マシーンホールは大理石製の祭壇のような仕切りと、ステンドグラスから差し込む自然光が大聖堂を彷彿とさせる。ホールに展示されている当時は最新だった巨大なエンジンやモーター類も、いま見ると現代アート作品のよう。

古い練習用トンネルには効果音とプロジェクションが装備され、簡単な物理実験やトンネルにかかる圧力を体験できるガイドつきツアー「マルチメディア・アンダーグラウンドワールド・モンタニウム」が人気を集めている。実際につかわれていた立坑(りっこう=垂直な坑道)を上っていけるほか、炭坑夫の日常生活の展示など、とにかく楽しめる。

環境保全への取り組みが盛んなドイツ。重工業が盛んだった時代の栄華に想いを馳せながらサステナブルな体験ができる旅は、この国ならではといえるだろう。

text:鈴木博美 協力:ドイツ観光局

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