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「“竺仙らしさ”を大切にしています」 竺仙 五代目当主 小川文男【前編】
「“竺仙らしさ”を大切にしています」 竺仙 五代目当主 小川文男【前編】
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「“竺仙らしさ”を大切にしています」 竺仙 五代目当主 小川文男【前編】

未来に向けた独自の取り組みやユニークな視点を紹介するFeature。江戸小紋や浴衣を中心に扱う呉服店・竺仙は、唯一無二の老舗である一方、今とこれからを見据えた商品づくりによってファンを増やし続けている。その秘密は伝統や品質に対するぶれない想いと、時代の変化に対する驚くほど柔軟な姿勢にあった。

撮影/明田光彦 取材・文/水谷美紀

作る側のわがままを押し付けない

天保13年(1842年)創業の老舗である竺仙は、名工の手による江戸小紋とともに、毎年50アイテム、約1000柄を販売する浴衣の名店として高い人気がある。江戸時代に始まった技法である貴重な長板中形、浴衣の王道ともいえる注染(ちゅうせん)、ワンランク上の紅梅小紋や奥州小紋に使われる引き染代々受け継がれた型紙を使って染められた竺仙の浴衣は、現代の生活に溶け込む洗練された美しさに定評があり、ひと目で竺仙とわかる個性もあって若い世代や外国人にもファンが多い。そんな竺仙が決して着飽きることがなく、21世紀になっても色あせない唯一無二のブランドに成長した背景には、五代目店主である小川文男の卓抜した経営手腕と、未来を冷静に見つめる目があった。

「竺仙の当主は代々、『物を作る側の欲、わがままを押し付けない』という考えを基本にものづくりをおこなっています。かつて名作といわれるものを作る人の多くは、商品が駄目になったとき、扱いが悪かったからだと消費者の責任にしてきました。ですが時代は変わり、現代は物が出来上がるまでの工程を知らない人や扱い方がわからない人がほとんどです。浴衣にしても昔とは違い、大人になってから初めて着る、買うという方も増えています。そういう方々に対し、無理に古い常識や価値観を押し付けるより、多くの方が利便性や良さを感じられる商品を作る方がいいと考えています」

お客様に合わせて変化しています

和服の老舗というと伝統の継承に対して頑ななイメージがあるが、竺仙には現代のニーズに合わせることを躊躇しない潔さがある。

「たとえば藍染めの浴衣は本来、生地の表と裏の両方を染めます。けれども正直これは今の人にとって、あまりメリットがありません。昔は肌着もつけずに着て、雨が降ってきたら裾をまくって帯に挟み、いわゆる尻っぱしょりをして走ったりしていました。その時に裏までちゃんと染まっていると、傍目にも粋に見えたんです。けれども今そんな風に着る人はいませんよね。それなら多少でもお値段が安くなった方がいいんじゃないかと考え、今は裏に染めの入っていない商品も多く出しています。このように、竺仙も少しずつ変化していますが、常に我々供給側の価値観で変えるのではなく、お客様の感じ方、扱い方を見て変えています」

一方で、江戸時代から簡単に変えないもの、大切にしているものも確固としてあるという。

「常に“竺仙らしさ”は大切にしています。言い換えればテイストですね。細かいところでは色々と変えていますが、コアの部分は創業時からあまり変わらずきているんじゃないかと思います。昔は親方が良いといえば良いということで話が通っていましたが、そういうことを繰り返していくなかで社員も良し悪しがわかってきて、こういうものが竺仙らしいというのを会社全体で認識できるようになってきたことは大きいと思います。毎年、展示会に向けて約1000柄の新作を出しているため、いろんな人が関わって作っています。そのためテイストがバラバラになってしまう可能性も出てきますが、おかげさまで、これまでそんな風になったことはございません。社員全員が“竺仙らしさ”を共通認識として持っているので、的外れなものは出来上がってこないんです。ここまでになるのにずいぶんと年月がかかりましたが、おかげさまで多くの方に竺仙らしい世界を届けることができています」

型紙は実はすべて昔のもの

具体的に、これはやらない、と決めていることはあるのだろうか。

「細かいことでは色々あります。一番わかりやすいところでは関西に多い疋田の柄はやりません。あと、型紙はすべて昔のものを使っています。図案は型紙をとる段階で消えていくので名前の入った原画は一枚も残っていませんが、明らかに江戸や明治の大家が修行時代に描いたと思われる柄や、これはかなりの力のある方が描いたんだろう、そう簡単に描かれたものではないというものもたくさんあります。それらはみな揺るぎのないデザインなので、それに打ち勝つだけの新しいデザインはそう簡単には出てきません。たまにデザイン画を売り込みに来る人がいらっしゃいますが、なかなか採用まで到りません。少なくともわたしの代になってからはありません」

では1000柄もの新作はどのようにして作られているのだろうか。

「新作の柄はすべて、すでにある型紙のアレンジやリライトの繰り返しです。ですが、これまた簡単なことではありません。たとえば今は身長の高い人もたくさんいらっしゃいますが、江戸時代の柄は150cmくらいの方に合うように作られているので、170cm近い方がそのまま着たら柄がうるさくて着られません。涼しく見えないといけない浴衣が暑苦しくなってしまいます。それを今の人が着てちょうど良くなるようにリライトしなくてはいけない。この作業が非常に難しい。いろんなモチーフが描かれているなかで、何を残して何を捨てるかが、とても重要になってきます。また、葉っぱや茎の描き方ひとつとってもすべて竺仙の画風で描いています。色々な柄で使われる大小さまざまな千鳥も、実はみな同じにしてあります。そんな、ほとんどの方が気づかないところにこだわることが、竺仙らしさにつながっています」

【後編】では江戸から引き継いだものをさらに未来に残すために竺仙が考えていること、取り組んでいることを紹介します。

お知らせ

とらや 東京ミッドタウン店ギャラリーで竺仙が企画協力した浴衣をテーマにした企画展が開催中。

浴衣の柄と和菓子に共通する意匠を通して、日本の四季を感じる企画展。染の技法「注染(ちゅうせん)」の紹介や、竺仙の伝統的なデザインの浴衣の反物が展示されています。展示内容にちなみ、東京ミッドタウン店限定で浴衣と共通する花の意匠を中心に、生菓子も順次、期間・数量限定で販売されています。

第 44 回企画展「YUKATA」 会 期:2021 年 4 月 1 日(木)~9 月 27 日(月)
※休日・営業時間は店舗に準じます。

場所:とらや東京ミッドタウン店ギャラリー
(東京都港区赤坂 9-7-4 D-B117 東京ミッドタウンガレリア地下 1 階)
電話番号:03-5413-3541
企画協力:株式会社竺仙
https://www.toraya-group.co.jp/toraya/news/detail/?nid=894

竺仙(本店)
〒103-0024 東京都中央区日本橋小舟町2-3
TEL:03-5202-0991
https://www.chikusen.co.jp

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