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世界自然遺産・西表島でエコツーリズム! 星野リゾートの先進的な試み
世界自然遺産・西表島でエコツーリズム! 星野リゾートの先進的な試み
COLUMN

世界自然遺産・西表島でエコツーリズム! 星野リゾートの先進的な試み

沖縄本島についで県内2位の面積を誇り、その80%以上が亜熱帯照葉樹林とマングローブに覆われている沖縄県の西表島。島全体が国立公園内で、2021年には世界自然遺産にも登録されています。島に住む人々は長年、イリオモテヤマネコをはじめとする希少生物との共生を実現してきました。この島で日本初の「エコツーリズムリゾート」を目指す、「星野リゾート 西表島ホテル」の取り組みをご紹介します(中編)。

ーー前編はこちらーー

「消費するだけの観光」からの脱却

西表石垣国立公園内にある島内最大のホテル「西表島ホテル」。日本初の「エコツーリズムリゾート」として、大自然を満喫できるアクティビティや希少な生態系、島の文化に触れるツアーなどを用意し、島の魅力を満喫できる滞在を提供している。

もともと星野リゾートは、軽井沢で人とクマの共存を目指して活動するエコツーリズム専門集団「ピッキオ」を擁するなど、早くから自然との共生を見据えてきた。

「西表島ホテルを長く運営していくためには、海やジャングルなどのアクティビティで遊んで楽しむという、いわゆる“沖縄リゾート”として考えてはいけないと思っています。もっとも重要なのは、自然保護と観光振興を両立すること。エコツーリズムという考え方は、このホテルにぴったりなんです」

そう語るのは、西表島ホテルの細川正孝総支配人だ。西表島でエコツーリズム施策をはじめて約2年。訪れる人々の意識は少しずつ変わってきているという。

「SDGsの考え方や価値観が広がってきたことは、ここ西表島にいても感じられます。ただ私たちとしては、まだ浸透しきれていないと考えています。欧米ではすでに、地域社会や自然環境に配慮した旅『レスポンシブツーリズム』が広がっています。けれども日本にはまだまだ、旅先で受けられるべきサービスの範囲やコストパフォーマンスへの高い期待が根強く残っているのです」(細川さん、以下同)

テラスとデイベッドが設置されたデラックスツイン。西表島ホテルは敷地内に熱帯雨林があるほか、周辺には美しい海を望む砂浜や豊かなマングローブが広がっている

西表島ホテルでは、一昨年から宿泊客にアメニティグッズを持参してもらうよう、事前に伝えているという。

「当初は30%ほどの持参率でしたが、現在こちらで準備しているアメニティを使われる方は35%ほど。つまり、65%ぐらいの方が準備してくださっているのです。この島のためになる取り組みに対して、ポジティブな意見を耳にする機会がとても増えました。ただ、アメニティをご持参いただくことに対して『サービスが低下した』というコメントをいただくこともあります」

2019年より西表島ホテルに勤務し、2021年6月総支配人に就任した細川正孝さん。「環境への配慮は、自分たちが継続できることが大切。当ホテルではまず、ごみを出さない、ペットボトルフリー、リサイクルの徹底からスタートしました」

「高級リゾートホテルのアメニティがつかえない」というのは、たしかに残念なことかもしれない。宿泊施設に対する私たちの期待は、まだ高いところにあるのだろう。

「ガマンをするような活動だけでは、レスポンシブツーリズムは浸透していかないでしょう。私たち観光事業者は、訪れる方々に楽しみを提供するため力を注がねばなりません。ストレスを感じることなく、地域や自然環境に配慮いただけるようにしていく必要があります。実際にエコツーリズムを体験した方が、『こういう滞在の仕方もあるんだ』という成功体験を得て、次に『自分ができることは何か』を考えるステップにつなげていただけると理想的ですよね」

消費するだけの観光から、持続可能な地域社会と自然環境を意識したツーリズムへ。その意識の変化は、少しずつ起こっているという。

「20代など若い世代の方々の間では、そうした旅行を積極的に楽しもうという価値観が増えてきています。持参するアメニティのケースにこだわるなど、次のステップに進んでいる感じです。そうした世代だけでなく、従来の観光スタイルを望まれる方々も楽しめるようになってはじめて、エコツーリズムは浸透したといっていいのでしょう。私たちはそうした体験を提供すると同時に、そのために発生する環境への負荷を減らしていきたい」

エコツーリズムで、旅の質も得られる価値もアップ!

西表島での滞在といえば、海に入ってキレイな魚を見たり、ジャングルで珍しい花と出合ったり、滝を訪れたりという、消費するだけの観光が主体だったという。 「ご案内する私たちが、島の本当の価値や、なぜこの島の自然が継続してきたのかということをキチンとお伝えしていなかったのです。たとえばジャングルへ移動する道中に、たくさんの希少植物があるにもかかわらず、説明もせず素通りしていた。自然や地域文化の価値を理解していない状態で、『配慮してほしい』と高負荷を与えてしまうのは問題ですよね。まずは、訪れる方々に島の価値を理解していただくことが大切だと思っています」

排水処理の負荷やごみ資源削減を目指した、“Less is more”発想のオールインワンソープ。西表島ホテルのオリジナルアメニティとして、スキンケアブランドOSAJIが開発した

西表島ホテルでは、敷地内のジャングルや隣接するマングローブのガイドウォーク、イリオモテヤマネコを知るためのプログラムなどを、無料で提供している。

「島での滞在を通じて、旅への意識が変わったという声も多く寄せられるようになりました。ツアーガイドさんがおっしゃっていたのですが、宿泊いただいているお客様からの質問がどんどん鋭くなり、一歩踏み込んだ知識をもつ方が増えているそうです。この植物はなぜここに生えているのか、ここの生態系はどう成り立っているのかという質問が増え、ご説明すると、『そうなんだ。だからここの生き物はこうなんだ』などと納得いただける。島の生物の希少性にも意識が向いてきたようです」

ガイド側にも変化がある。「遊びに行く場所に安全に連れて行き、そこでの体験を楽しんで安全に連れて帰る」ものから、現在は「この自然の価値をどう伝えるか」にアクティビティの視点が移っているのだ。

「参加者からの質問が鋭くなればなるほど、ガイドの方々もスキルと知識をさらに深める必要が出てくる。すると、ツアー自体の質が上がっていきますよね。この島の観光価値や体験価値までもが、より深いものになっていくんです」

訪れる前はイリオモテヤマネコの名前しか知らなくても、滞在を通じて「イリオモテヤマネコが生息するためには、ここにしかいない多くの生き物たちがとても重要なのだ」とは理解できる。

「そこにこそ、西表島ならではの体験の価値があると思っています。ただジャングルを眺めるのと、『この熱帯雨林にイリオモテヤマネコが暮らしているんだ。いま、クマネズミやシロハラクイナを狩っているのかも!』と思うのでは、ワクワク度がまったく違いますよね。実際に敷地内のガイドウォークでも、ヤマネコの足跡が見られるなど、島独自の生態系を肌で感じられます。そうした体験が、持続的な島の環境保全につながっていくのではないでしょうか」

――後編に続きますーー

ーー前編はこちらーー

text:萩原はるな

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