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田中貴「音楽とラーメンで全国を巡る至福について」
田中貴「音楽とラーメンで全国を巡る至福について」
VOICE

田中貴「音楽とラーメンで全国を巡る至福について」

働き方は、生き方です。人それぞれ人生が違うように、働くスタイルも多種多様、正解はありません。会社や周りの力を借りながらも最終的には、どのように働くかは自分の意思で改革していくしかありません。今回は、ロックバンド、サニーデイ・サービスのベーシスト田中貴さんにお話を伺いました。「私の」「私のための」働き方を改革するためのヒントが、そこにありました。

年間600杯食べる“愛好家”は、
「つくり手の顔が見えるラーメンが好き」

田中さんが20年来通っていた贔屓の「びぜん亭」(2023年3月で閉店)にて。店主の植田正基さんは独学でラーメンを極めた達人。シンプルで奥深いスープの昔ながらの支那そばが多くのファンを魅了し、人なつこい大将の人柄も相まって連日連夜常連客で賑わう。そんな植田さんの一年間に密着したドキュメンタリー映画には、田中さんも出演している

「ラーメンほど、店主のセンスや個性、人間性が出るものはない。ゆえにどんなに食べても飽きることがない」とロックバンド、サニーデイ・サービスのベーシスト田中貴さんは言う。全国津々浦々、年間600杯以上のラーメンを食べ歩き、雑誌にラーメンの連載を持ったり、テレビ、ラジオのラーメン番組への出演も多数。過去には「音楽CDつき」ラーメン本まで発売するほどラーメン愛が強すぎる男の探究心と情報量は、ラーメン評論家をも唸らせる。しかし田中さんのスタンスは、あくまで“ラーメン愛好家”。その歴史はいつから始まったのだろうか?

「もともとは、おいしいものを食べるのが好き、という単純な理由。子どもの頃からラーメンは好きでしたが、食べ歩くようになったのは高校時代からかな。根が凝り性というか、ひとつのことに没頭すると止まらなくなるんですよね。好きなレコードを『掘る』感覚と似ているのかも」

大学在学中の1992年からサニーデイ・サービスとしてバンド活動を始め、その後メジャーデビューを果たすとライブで全国各地を巡るようになる。食い道楽であれば、ご当地グルメを食したくなるのが常だが、田中さんにとってのそれは、ラーメン。地元住民しか知らないようなラーメン店を食べ歩き、写真に記録。音楽活動とラーメン活動は、絶好のコンビネーションで加速していったという。

「メディアでのラーメン関連の仕事が増えたのは、ここ10年くらいじゃないかな。初めてのラーメンの仕事は、携帯のiモードでの有料コンテンツで始めたラーメンエッセイの連載。それを始めたことでラーメン評論家やラーメン好きの人と知り合うようになるんですが、僕の場合、足で稼いで食べ回っているから、彼らが共有しているような、いわゆる人気店、有名店と被らないんですよね。おいしいか否かはもちろん重要だけど、僕はつくり手の顔が見えるラーメンが好きなんです」

ラーメン店選びは
レコードのジャケ買いと同じ

いまでこそ、ネット上には名店、人気店の情報があふれているが、田中さんが食べ歩きを始めた90年代は食べログもなければSNSも普及していない時代。名店には鼻が利くというが、初めて訪れた地でどうやって店選びをするのかと尋ねると、「レコードのジャケ買いと一緒」と、田中さん。

「名盤といわれるレコードは、ジャケットもいいし、猛烈にダサいバンド名ってあんまりない。ラーメン店も一緒なんですよね。店構え、掛けられている暖簾や看板の雰囲気、掃除の行き届いた感じ。あと、店前に植木が置いてあったりすると、あ、きっと女将がいて丁寧に世話しているんだなとか、どんな店かわかってくる。そういう細部も含めて店のセンスだし、往々にして味に直結している」

一杯のラーメンからは、店主の人柄や生き様までが見えてくる、とも。

「ラーメンって、ルールがないのが面白いところ。うちがうまいと思うラーメンはこれだっ! と、店主は自信を持って一杯のラーメンを客に出す。そこに至る試行錯誤は、楽曲づくりに全精力をかけるミュージシャンに通じるものがあると、僕は思っている。その全工程がカウンター越しに見えるという意味でも、わかりやすくつくり手の顔が見えるし、人柄も隠しきれない。こんなにも一杯一杯に味の違いが出る料理って、ラーメンくらいじゃないかな。たとえば味の組み立て方で、店主がどこの出身でどんな店で修業してきたかもわかる。好きなレコードの裏ジャケットに、プロデューサーや参加ミュージシャンの名前を見つけて納得する、みたいな」

そんな田中さんのラーメン行脚は、次のフェーズに突入している。

「かつて、ノーザンブライトの新井仁さんら音楽仲間と、ワゴン車で全国を巡りながら18泊19日でライブ15本、ラーメン41杯という記録的なツアーをやったんです。ライブで出向いた先の土地でラーメン店を巡るという楽しみから、最近は食べたいあの一杯を目指してツアーのルートを組んだり、訪れた先で縁がつながって、近くの町に立ち寄ったりと、もはやどちらが主役かわからなくなってきてる(笑)。仲よしのミュージシャンたちと好きな音楽をやりながら、うまい一杯を食べるという至福。ラーメン好きなおっさんたちとイチャイチャしながら、パラレルに仕事を楽しんでいますね」

PROFILE

田中貴 たなか・たかし
ミュージシャン。サニーデイ・サービスのベーシスト。国内外のアーティストのレコーディング、プロデュースでも活躍。渋谷のラジオにて毎月第4金曜日22時~「渋谷でラララ」が放送中。「ラジオ」「ラーメン」「ラブ」がたっぷり詰まった2時間。

●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Photo:Ayumi Yamamoto Text:Chisa Nishinoiri Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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