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はるな愛「心のポケットにできた“アメちゃん1個ぶん”の余裕を誰かのために」
はるな愛「心のポケットにできた“アメちゃん1個ぶん”の余裕を誰かのために」
VOICE

はるな愛「心のポケットにできた“アメちゃん1個ぶん”の余裕を誰かのために」

困っている人に手を差し伸べるのは、意外と勇気がいること。東日本大震災のボランティアや、こども食堂の開催など、さまざまなアクションを続ける、はるな愛さんに行動する勇気、パワーの源について聞きました。

自分の心が満たされたとき
誰かに手を差し伸べられた

まだ記憶に新しい東京パラリンピック開会式。はるな愛さんは一般公募のオーディションを経て、ダンサーのひとりとして舞台に上がった。2017年からは自ら経営する飲食店でこども食堂を展開するなど、さまざまな社会課題に対してアクションを続けている。大きなキッカケは東日本大震災だった。

「当時はエンタメの世界が完全にストップして、仕事がほとんどない状態。いま、私は何をすべきなんだろうって思ったときに、その前年の2010年に出演した『24時間テレビ』のことを思い出したんです」

はるなさんは「24時間マラソン」のチャリティランナーとして85㎞を走り切った。

「練習中も当日も、全国からあふれんばかりのエールをいただきました。困っている人が大勢いるいまこそ、私が返さないといけない。その一心で、地震の10日後には車に支援物資を積んで福島県の相馬市に向かいました」

ただ、心中には葛藤もあった。

「芸能人のパフォーマンスと思われたらどうしようって。そんななか忘れられないのは、被災者の方が、『愛ちゃんが来てくれて、はじめて涙を流せた』とおっしゃったこと。避難所ではボランティアの方も含め全員が被災者だから泣いてる場合じゃない。そんなとき、第三者の私が訪れたことで、正直にツラい思いを吐き出すことができたんだって。『愛ちゃん、私は津波のなかで子どもの手を離してしまったの』と話してくださる方もいて、やっぱり動いてよかったなって思ったんです」

迷いを感じつつもアクションを起こしたはるなさん。何がそれを後押ししたのだろう。

「子ども時代に家が貧しかったこと、トランスジェンダーであることから、なかなか自分らしい人生を歩めなかった。心のポケットに他人のためにつかえる余裕なんて1ミリもない人生でした。でも夢がかなって、テレビに出るお仕事ができるようになった。心のポケットって自分が満たされたときにスペースができるんですよね。それをどうつかうか考えたら、困っている人の力になりたいなって」

こども食堂をはじめたきっかけは、その普及と支援を行うNPOの理事長・湯浅誠さんとラジオ番組で共演したことだった。

「ものがあふれているこの時代に満足に食べられない子どもがいる。そんな現実をはじめて知って……衝撃でした。すぐに自分が経営する飲食店でも何かやらせてくださいとお願いして、最初は手探りでスタートしました」

はるなさんが経営する東京・世田谷区のたこ焼き店「たこはる」には、こんな貼り紙が

コロナ禍では開催中止を余儀なくされているが、たこ焼き店「たこはる」では、たこの絵を描いてくれた子どもに無料でたこ焼きをプレゼントする取り組みを続けている。

「記事を読んでお米を送ってくださる方がいたり、芸人の先輩が、『これ少ないけど、食材買って』って寄付してくださったり。ひとりでは一歩を踏み出せなくても、身近で行動している人を応援することで、大きな輪ができていくんだと実感しました。みんなが少しずつ自分のポケットの余裕を出し合うみたいな感じ。それってすごくいいことだなって」

活動を通して、世界にはさまざまな境遇にある人がいることを知った。東京パラリンピック開会式への出演は、より広い視野を与えてくれた、かけがえのない経験だ。

「練習中、立ち位置をメモすることがあったのですが、隣の子のメモをとる手には、みんなが当たり前に持っている5本の指がない。車椅子の人、体が小さい人、いろいろな方がいて。私だって性別のことで抱えているものがあるし、だからこそ、すごく居心地がよかったんです。みんな同じじゃなくて当たり前。世の中がこんなふうであったらいいのにって」

子どもたちによるたこの絵はラミネート加工して店内に飾ってある。「コロナが落ち着き次第、他の飲食店でもこども食堂を再開したい」とはるなさん

ある日、こんなこともあった。

「楽屋にその日の練習スケジュールが貼ってあったのですが、ちょうど私が立ったときの目線の高さに掲示してあって。そしたら身長が伸びない障がいのある子が、テーブルに乗ってそれを見ていたんですね。『ああ、ごめん。もっと下に貼って、私たちがヒザをついて見たらよかったよね。そしたら車椅子の子たちも楽だったよね』って言って、すぐに貼り直したんです。そんなふうに、最初は気づかいができなかったとしても、すぐに行動できるっていうのがいいなと思ったし、大切なことだなって痛感しました」

最初は小さな空きスペースしかなかったはるなさんの心のポケット。さまざまな人に出会ううち、より大きく、深くなってきた。

「アメちゃん1個が入るくらいのスペースでもいいんです。相手に気持ちが伝わったとき、自分が救われる。そしたらまた何かしたいと思えてくる。その繰り返し。いま、自分のポケットにはどのくらい余裕があるかな? それを考えてみるだけでも、行動を起こすキッカケになると思うんです」

PROFILE

はるな愛 はるな・あい
タレント・歌手。1972年大阪府生まれ。2008年、松浦亜弥のものまね「エアあやや」でブレイク。「ミスインターナショナルクイーン2009」で優勝し、世界一美しいニューハーフの称号を手にする。自身の経験を語るなど、LGBTQ+にまつわる発信も積極的に行っている。東京2020パラリンピック開会式でのパフォーマンスでも注目を集めた。

●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Photo:Yuri Manabe Styling:Evi Fujii Hair & Make-Up:Toshihito Tamura Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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