美しさとは、限られた人だけが持っているものではありません。美しくあることに年齢、容姿、性別などは、なにも関係ない。そして美しさには正解も、基準もないのです。今回は、自分らしさを発信する声優の西山宏太朗さんに、“美”について伺いました。

好きなものは好きだと、
素直に表現できるようになってきました

「たろり」の愛称で親しまれる声優の西山宏太朗さん。アニメやゲームの声優はもちろん、アーティスト活動や、ラジオパーソナリティなど幅広く活躍。SNSでは、自身が塗ったネイルの写真を定期的にアップしており、９万以上の「いいね」がつくこともある。

「自分のなかに子どものような部分があって、キラキラしたものや、星、魔法といったモチーフが昔から大好きでした。しかし、なかなかそれを表現できなかった。以前はいい子でいたいという思いが強くて、目立たないほうが楽だと思っていたところもあります。また、子どものことを羨ましいとも思っていました。子どもは我が強く、気持ちをしっかり表現することができます。うれしいときは手を叩いて喜ぶし、嫌なことがあると地団駄を踏んで泣き叫ぶ。そんなふうに正直に自分を表現したいと、あこがれを持っていました」

そんな西山さんは最近、自分の気持ちや意見を自然に表現できるようになってきたという。仕事でキャリアを重ねていくうちに、自信がついてきたからだと自己分析している。キレイに彩られたネイルも、西山さんの表現方法のひとつだ。

「最初に爪を塗ったのは、声優のライブのとき。キャラクターに扮してライブパフォーマンスをするときに、そのイメージカラーを塗りました。ふだんは衣装を身に纏ったり、メイクをしたりするとスイッチが入りますが、爪は鏡を見なくても自然と目に入ります。よりキャラクターに入り込めました」

仕事でネイルの魅力に気づいた西山さんは、プライベートでも楽しむようになった。

「アーティストの星野源さんが、淡いパステルカラーのネイルをしている写真を見ました。これまで男性のネイルといえば黒やシルバーというイメージがあったのですが、『男性でもこういう淡い色を使っていいんだ』と固定観念を覆されたように感じました。こんな色を塗ってみたいと思って、その日ネイルポリッシュを買いに行ったんです」

うまく塗れるようになるために、ネイルチップで練習もした。いまではネイルポリッシュを120本所持し、ネイルを塗るのがリフレッシュするための大事な時間になっている。

「最初は、なぜ爪を塗っているのかと聞かれることも多かったです。そのたびに『仕事で必要だから』などとごまかしていましたが、だんだん『かわいいから！』と言えるようになりました。本当に理由はそれだけ。正直に気持ちを伝えられるようになりました」

SNSで発信していくうち、懐疑的に見られることは少なくなり、自然に受け止めてもらえることや褒めてもらうことが増えたという。

「ネイルをきっかけに話しかけてくれる人も増えました。あまり交流のなかった後輩が、ネイルを塗ってみたと見せてくれて、とてもうれしかったです。誕生日には、ネイルポリッシュをプレゼントしてくれる友人や声優仲間もたくさんいて感謝しています。最初は自分の楽しみのためだけだったけれど、いまではコミュニケーションツールにもなっています。『僕もネイルを塗ってみたい』と相談してくれる人もたくさんいます」

爪を美しく整えることは、気分を高揚させることにつながる。それだけでなく、思わぬ副産物もあったようだ。

「仕事でも、プライベートでも、僕はその場にいるみんなと一緒に、よい時間を過ごしたいと思っています。楽しい時間をつくるきっかけに、ネイルが役に立ってくれるとは思いませんでした」

「好き」を表現することによって、豊かな時間や関係性が生まれる。西山さんのネイルはそんな可能性を象徴的に表している。

PROFILE

西山宏太朗　にしやま・こうたろう
声優。神奈川県出身。81プロデュース所属。代表作に、TVアニメ『学園ベビーシッターズ』（鹿島竜一役）、『マジカパーティ』（シルヴァー役）、『RE-MAIN』（岡栄太郎役）など。2020年に歌手デビュー、21年ミニアルバム『Laundry』をリリース。
twitter.com/Koutarotaro

●情報は、FRaU2022年１月号発売時点のものです。
Photo：Masanori Kaneshita　Hair & Make-Up：ito　Styling：Toshihiro Muratome（Yolken）　Text & Edit：Saki Miyahara