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多くの人に愛されているムーミンの生みの親として世界中に知られるトーベ・ヤンソン。だが、彼女がどんな人物だったかはムーミンほどには知られていない。『TOVE／トーベ』は自由を愛し、芸術家として、そしてひとりの人間として情熱的に生きたトーベ・ヤンソンの人生と、ムーミンの物語に登場するユニークなキャラクター達の誕生の秘密に迫った物語だ。本国フィンランドではスウェーデン語で描かれたフィンランド映画としては史上最高のオープニング成績を記録するなど大絶賛で迎えられ、ロングラン大ヒットを記録。さらに第93回アカデミー賞国際長編映画賞フィンランド代表に選ばれたほか、数々の映画賞を受賞している。

現在では「ムーミンの作者」としてあまりにも有名なトーベ・ヤンソンだが、芸術家として初めから順風満帆だったわけではない。画家をめざして苦闘する若き芸術家だった頃はなかなか周囲に認められず、著名な彫刻家だった父親は娘を愛しつつも芸術に対して厳格で、ふたりの軋轢は深刻だった。そんな日々の慰めに描き始めたムーミントロールの物語が、やがて本業の絵画以上に評価されるようになっていく。

独特の世界観を持つムーミンの作者だけあって、トーベ自身もかなり個性的な人物で、自由を求め、芸術と愛に対し激しい想いをたぎらせて生きていた。そんな彼女が恋に落ちる相手はスナフキンのモデルと言われているジャーナリストで既婚者のアトス・ヴィネルタネンから、舞台演出家のヴィヴィカ・バンドラーへと変わっていく。同性愛がまだ犯罪だった時代、それでも強烈に惹かれ合う二人は互いにしか通じない言葉で会話し、愛を深め合った。ムーミンの物語に登場する、他の人にはわからない言葉で会話するトフスランとビフスランは自分たちを投影したキャラクターだったのだ。だが、あまりに真っ直ぐで激しいトーベの気持ちに対し、ヴィヴィカは同じようには応じることができず、ふたりの関係はバランスを欠いていく。やがて傷ついたトーベの前に、今度はまったくタイプの違う気鋭のグラフィックアーティスト、トゥーリッキ・ピエティラが現れる……。

のびやかな感性をもって育ち、自分の心に正直にまっすぐ人を愛し、芸術家として真摯に生きることに情熱を注いだトーベの人物像に初めて触れた人は、かなり驚くかもしれない。だが、トーベ役を演じたクリスタ・コソネンの演技力もあって、とても現代的で魅力的な人物であることがストレートに伝わるだろう。トーベ・ヤンソンはムーミン以外にも多くの小説を出版しており、トゥーリッキや母ハムとの島暮らしについて書かれた魅力的なエッセイなどもある。これを機会に「ムーミンの生みの親」以外のトーベの活動に注目してみるのも良いだろう。

また、この映画に出てくる女性達はトーベだけでなく、ヴィヴィカもトゥーリッキも戦後フィンランドを代表する著名な芸術家だ。トーベが出した『彫刻家の娘』という自伝的小説のタイトルから、両親のうち芸術家だったのは父親だけだと思われがちだが、著名ではあったものの収入が不安定だった夫と家族を経済的にも精神的にも支えたのは、商業画家だった母ハムだったりする。トーベはもちろんのこと、彼女の周囲にいた偉大な女性芸術家の存在を知るきっかけになる映画としてもおすすめの一作である。

作品情報

『TOVE／トーベ』
10月1日(金) 新宿武蔵野館、Bunkamuraル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国ロードショー

出演：アルマ・ポウスティ（トーベ・ヤンソン）
クリスタ・コソネン（ヴィヴィカ・バンドラー）
シャンティ・ロニー（アトス・ヴィルタネン）
ヨアンナ・ハールッティ（トゥーリッキ・ピエティラ）
ロバート・エンケル（ヴィクトル･ヤンソン）

監督：ザイダ・バリルート
脚本：エーヴァ・プトロ
音楽：マッティ・バイ
編集：サム・ヘイッキラ

2020年／フィンランド・スウェーデン／カラー／ビスタ／5.1ch／103分
スウェーデン語ほか／日本語字幕：伊原奈津子／字幕監修：森下圭子
レイティング：G／原題：TOVE

配給：クロックワークス

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