フィリピン・マニラの城塞都市を「竹の自転車」で巡るエコツアー
16世紀の城塞都市「イントラムロス」は、フィリピンの首都マニラを代表する観光スポットのひとつ。そこを竹製の自転車「バンバイク(BamBike)」で巡るエコツアーが、世界中の観光客から人気を集めています。バンバイクは楽しいだけでなく、環境保全や貧困層の救済などにもひと役買っているそう。トラベルライターの鈴木博美さんが、楽しく社会貢献できるバンバイク・ツアーを体験してきました。
城塞都市イントラムロスとは?
フィリピンの首都マニラにあるイントラムロスは、スペイン人が建設した城塞都市で、統治の拠点となった同市最古の地区。イントラムロスは、スペイン語で「壁の内側」の意味だ。総延長4.5kmの城壁に囲まれたこの街は、スペイン統治時代の面影を残す建築や教会が点在し、不揃いな石畳の上を馬車が走るノスタルジックな風景は、まるで16世紀にタイムスリップしたような気分にさせられる。この地は、スペインにはじまって、1762〜1764年の2年間をイギリスが占領し、1900年代にはアメリカの司令部が設けられた。第2次世界大戦中は、日本憲兵隊本部が置かれるなど、他国に翻弄され続けた。かつて日本軍が捕虜収容所としていた地下牢跡も残る、歴史的にとても重要なエリアなのだ。
竹の自転車は頑丈で超快適
イントラムロスは広範囲に見どころが点在し、強い日差しのなかを歩いて回ると激しく体力を消耗する。そこで活躍するのが竹でできた自転車「バンバイク」。 買うことも借りることもできるが、この竹製自転車に乗ってイントラムロスの名所をめぐるエコツアーがあり、人気を集めている。1.5時間で6ヵ所を巡るツアーは約2700円、 2.5時間で8ヵ所を巡る場合は約3900円で、スタッフが英語で歴史案内をしてくれる。
「竹の自転車なんて大丈夫? 走行中にバラバラにならない?」と思うかもしれないが、「鋼鉄と同程度の強度がある」竹を使用し、10万回のテストサイクルと衝撃テスト済みとのこと。ロードバイクの最高基準とされる「EN14781」を満たしおり、安全面への配慮は万全だという。
バンバイク・ショップで申し込み手続きを済ませたら、クロスバイク型やママチャリ・タイプなどから、自分にフィットする形、サイズのバンバイクを選ぶ。筆者が取材した日はアメリカ、イギリス、フランス、インド、シンガポールなどさまざまな国籍の旅行者がツアーに参加していた。アメリカから来たというひとり旅の女性は、「フィリピンの前に日本の大阪に行って友人を訪ね、おいしいものをたらふく食べてきた!」と話していた。そんな参加者たちとのコミュニケーションもツアーの醍醐味のひとつ。参加人数は最大15人までなので、事前予約がオススメだ。
ツアーのスタートはバンバイク・ショップがあるプラザ・サン・ルイス・コンプレックス。イントラムロスの中心に位置し、建物内には石畳と噴水が美しいスペインふうのパティオ(中庭)もある。このエリアには、スペイン統治時代の上流階級の人々の暮らしを再現した博物館「カーサ・マニラ」のほか、オシャレなレストラン、カフェなどが集まっている。まずはスタッフから、訪問するスポットとフィリピンの歴史の簡単なレクチャーを受ける。日本人向けに日本語で書かれた探索マップも用意されているので安心だ。
プラザ・サン・ルイス・コンプレックスから、自転車に乗っていざ出発! スタッフが先頭と最後尾を固めてくれているので心強い。イントラムロス内は道幅が狭く、車の往来も比較的多いが、自転車が安全に道路を横断できるように交通整理をしてくれているので心配は無用。風を切って走るのは、徒歩で見て回るよりはるかに快適だし、街の景色も違って見えるような気がする。
ツアー最初の観光スポットは、旧日本軍の砲台。1945年2月、日本軍とアメリカ軍との間で起こり、12万人もの死者を出したという市街戦「マニラの戦い」で使用されたという。現在は砲台の前にゴルフ場が広がり、その先にはアメリカ大使館も見える。悲惨な戦いがあったとは思えない、のんびりしたムードだ。
その後も美しい庭園や大聖堂、イントラムロスで最も重要とされる歴史スポットであるサンチャゴ要塞などを巡りながら城壁内を一周する。各スポットでは説明を受けた後に自由時間が設けられているので、のんびり写真を撮りながら見学できてうれしい限り。
ツアーのゴールは、スタート地点の向かいに立つサン・アグスティン教会。この教会は、フィリピンのバロック様式教会群としてマニラで唯一、世界文化遺産に登録されている歴史的建造物だ。1607年に完成し、その後破壊されることなく残っているイントラムロスでも貴重な建物。荘厳な聖堂は必見だ。
ツアー終了後には、冷たいおしぼりとアイスクリームのご褒美つき。アイスクリームは、各種フレーバーからチョイスできる。マンゴーやアボカドなど、フィリピンらしいフレーバーをぜひお試しあれ。
竹製の自転車を製造販売するバンバイク社は、2010年にブライアン・ベニーテス・マクレランドさんが創設した。同氏は、フィリピン人の手先の器用さと、現地で大量にとれる竹に着目。環境にやさしい自転車を開発して雇用を創出しようとプロジェクトをスタートさせたという。バンバイクは、自立を支援しながらフィリピンの貧困改善に取り組む組織「Gawad Kalinga」出身の竹自転車ビルダーによって手づくりされている。現在、バンバイク社は、学校教師と生徒のための給食プログラムの後援も行なっている。
フィリピンで育った竹でつくられた自転車に乗って現地の歴史に触れる——。マニラを訪れた際には、楽しく学びながら社会貢献もできる、バンバイク・エコツアーにぜひご参加を!
photo:佐藤良一 text:鈴木博美
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