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住む場所が見つからない! 「住宅弱者」救済プロジェクト(前編)
住む場所が見つからない! 「住宅弱者」救済プロジェクト(前編)
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住む場所が見つからない! 「住宅弱者」救済プロジェクト(前編)

「住宅弱者」という言葉をご存じでしょうか? 年齢や性別、国籍、家族構成、経済状況など、さまざまな理由で住まい探しに困難が伴う人たちを指す言葉です。不動産・住宅情報サイトの「LIFULL HOME’ S」では、住宅弱者に理解があり、相談に応じてくれる不動産会社を検索可能な「FRIENDLY DOOR(フレンドリードア)」プロジェクトを運営。住宅弱者が生まれる背景やFRIENDLY DOOR立ち上げの経緯などを、事業責任者の龔 軼群(きょう いぐん)さんに伺いました。

オーナーたちの「不安」が住宅弱者を生む

住宅弱者とは、高齢者、外国籍、LGBTQ、生活保護利用者、シングルマザー・ファザー、被災者、障害者など、さまざまなバックグラウンドを理由に住まいの選択肢が限られてしまう人たちのこと。住宅弱者が生まれる背景を龔さんはこう分析する。

「不動産の賃貸は、人をフィルタリングして判断する点が住宅弱者を生む一番の原因だと思っています。不動産会社が住宅オーナーから物件を借り上げて入居者に貸す『サブリース』を除いては、オーナーが入居者を審査する。つまり自分の所有物を誰かに貸す際に、信用度を見るわけです」(龔さん・以下同)

FRIENDLY DOOR事業責任者の龔 軼群(きょう いぐん)さん。

住宅オーナーは、入居希望者が高齢の場合は健康面や今後の支払い能力に、外国籍の場合は言語などコミュニケーション面に不安を抱く傾向がある。

「そのほか、入居希望者がLGBTQですと、『性的指向に対して考え方の合わない隣人たちが退去したらどうしよう』とオーナーは考える。シングルマザー・ファザーの場合、『子どもが病気になると仕事を休まないといけないから、収入が減ることで家賃を滞納されたらどうしよう』、震災などの被災者や生活保護利用者の場合は、『生活に困窮していて、経済的な面でのトラブルが起きたらどうしよう』などという不安を抱くようです。

社会のスティグマ(間違った認識による差別や偏見)ですよね。たとえば、日本のどこかで犯罪が起きて容疑者が外国人だと報じられると、『外国人は皆、犯罪者予備軍だ』などと短絡的で誤った考えをする人が増えてしまう。これに影響された住宅オーナーが『外国人には物件を貸さない』と決めると、住宅弱者の住まいの選択肢が狭まってしまいます。

オーナーが貸し渋れば渋るほど、不動産会社としては交渉にコストと時間がかかります。そうなると不動産会社は費用対効果を考えて、『そこまで手間のかかる客への物件仲介は避けたい』となってしまう。結果、住宅を借りられない、入居できない住宅弱者が生まれてしまうのです」

身体に障害がある入居希望者の場合、手すりをつけるなど、物件をリフォームする必要が出てくるケースがある。これも、オーナーが二の足を踏む理由のひとつだ。

「国など行政から補助金は出るものの、オーナーの立場からすると、『その借主が退去したらリフォームした部屋はどうするの?』となりますよね。手すりなどを撤去して元に戻すのにも、またコストがかかるわけですから。オーナーが『これまで障害者を受け入れたことがないから入居は見送る』という思考になるのは、想像に難くありません」

実体験から生まれた「誰も取り残さない仕組みづくり」

FRIENDLY DOORを立ち上げた経緯には、龔さんのルーツが深く関係している。

「私は上海生まれの中国籍なんです。LIFULL HOME’Sに入社し、引っ越しのために物件探しをした際に、私の親が保証人になれないなど、選択肢が限られていると強く感じました。『こんな状況をどうにか変えたい』。そう思うようになったのです」

最初は、自身のルーツから外国籍の住宅弱者を救おうと考えていたが、入社後に携わったプロジェクトであることに気づく。

「生活保護利用者支援のプロジェクトに関わったとき、利用者が直面している困難が、外国籍の人たちとまったく同じだなと感じました。生活保護利用者はその行政区内でしか引っ越しができなかったり、行政区をまたいで引っ越しすると支給額が変動したりするので、不動産会社に煙たがられ、入居を断られるケースが多いのです。

住宅弱者のバックグラウンドはそれぞれ異なりますが、オーナーなり不動産会社なり、ちゃんと理解してくれる人たちを増やしていかない限り、この問題は解決しない。どの住宅弱者も包括的に救済できる仕組みをつくりたいという思いが、FRIENDLY DOORの立ち上げにつながっています」

同社のサイトより。さまざまなバックグラウンドの方に理解があり、“ありのまま”住まい探しの相談ができる不動産会社とつながれる。

龔さんが所属するLIFULLは自らを「社会課題解決型企業(ソーシャルエンタープライズ)」と称し、収益事業をやりながら社会課題を解決しようとしている。不動産・住宅情報サイトを柱に据えつつ、地方創生事業やシニア事業なども展開している。

「かつての『不動産屋さん』は、お客様が店舗を訪れても、そこで一方的に示された物件しか選択肢がありませんでしたよね。当社は、代表の井上がその情報の非対称性に異議を唱えたところからスタートした会社なので、もともと相手に寄り添おうとするスピリットがあったんです。でも、『住宅弱者の皆さんに細やかに接したいけれど、正直、まだまだ対応が追いついていない』という現場の実情もあります」

その解決のため、龔さんらがはじめたのは、画期的な試みだった……。

ーーー後編に続く

text:阿部真奈美

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