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「サステナブルじゃなきゃ、ファッションじゃない!」の時代へ【中編】
「サステナブルじゃなきゃ、ファッションじゃない!」の時代へ【中編】
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「サステナブルじゃなきゃ、ファッションじゃない!」の時代へ【中編】

これから私たちが選ぶ服には、サステナビリティの観点が外せません。それに応えるように、いまファッション界では技術革新とクリエイティビティが加速中。『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクターの向千鶴さんがサステナブルファッションの潮流を解説します。

▼前編はこちら

循環型へのシフトと
新たな価値づくり

廃棄物を減らし、ある資源を最大限に活用する循環型ファッションを目指す「H&M」。ピンクのドレスは、製造工程で出た残布やペットボトルなどを再活用したリサイクルポリエステルを100%使用。ブルーのチュールドレスも回収されたポリエステル製の衣類をリサイクルしたもの

以前、大きく報道された南アジアでの縫製工場の崩落事故。多くの従業員が死亡し、ファストファッションの問題が浮き彫りとなりました。ここから業界全体の意識が少し変わり始めます。変革が先行しているのは「H&M」「ZARA」「ユニクロ」といったグローバルSPA(製造小売業)企業。売って終わりの事業スタイルでなく回収して再利用までする循環型へのシフトが明確です。最後の責任もつくり手側が持つという動きが見られます。

H&M/あらゆる愛の形をテーマにしたコレクションでは、「ごみとして廃棄されるものも愛すべきものに変換する」という試みを続ける

一方、ラグジュアリーブランドも動きが早い。断トツはグローバル・ラグジュアリー・グループの「ケリング」ですね。2018年にカーボンニュートラルを実現した「グッチ」を核に、「サンローラン」「バレンシアガ」など。長年パリコレを取材してきて思うのですが、これまではインスパイアされたものを服で表現することが多かったのに対して、いまは社会の変化とともに新しい価値表現をブランド全体で試みているなと。メゾンが選出するディレクターやデザイナーもサステナビリティに配慮している人物が多く選ばれる傾向にある。ファッションそのものが、新しい価値を世の中に届けるための、わかりやすいツールになっているのだと思います。

ファッションは農業、
素材のイノベーションを

STELLA McCARTNEY/2001年のデビュー以来、皮革や毛皮を使用せず、サステナブルファッションを牽引する。写真は2016年より導入したフォレストフレンドリービスコースによるもの

素材に関しては「代替」が大きなテーマになっています。いま洋服に使われる素材の6割がポリエステル、2割がコットン、1割がウール、残りは他素材。圧倒的にポリエステルの比重が高い。ポリエステルは石油由来なので、その比重をどう変えていくか、さまざまなイノベーションが起きています。いま注目しているのはキノコの菌糸を活用した人工マッシュルームレザー。複数のスタートアップ企業が開発しており、「ダブレット」も新しいレザーとしてコレクションを発表しています。

STELLA McCARTNEY/無限に再生可能な菌糸体(マイセリウム)からつくられた素材のバッグ

「ステラ マッカートニー」でも2022年にバッグが発売。これからは新素材の開発や見直しが求められていくでしょう。置き換えられるものは置き換えるべきだと思いますが、一方で牛革などのレザーは耐久性もあり、素材としてはよいもの。環境問題を考えたときにずっと長くつかえるのがいいか、素材自体に配慮するのがいいか、私自身もまだ答えは出せていません。

STELLA McCARTNEY/森に生息する動物たちを消滅の危機にさらすことなく、サステナビリティ認証済みのスウェーデンの森林から採取された素材を原材料とする

服、靴、バッグ、これらの原材料を考えると、コットンやウール、レザーなど自然界にあるものからつくられ、つくづくファッションも農業なんだと思います。すべて牧場や畑からくるもので農と密接につながっている。なので実際にトレーサビリティがしっかりしている食品業界を参考にしようという動きもあります。QRコードで生産者や産地が追える仕組みをファッション業界にとり入れることで、糸や生地、染色、縫製などの生産現場がクリアになっていくといいなと思います。

“らしさ”からの解放、
心と体はますます自由に

GUCCI/2015年、10年間にわたる包括的なサステナビリティ戦略「Culture of Purpose」を発表。環境と人権の2本の軸で持続可能なビジネスモデルを構築、業界を先導する。写真はGUCCI LOVE PARADE COLLECTIONで発表したファーフリー(エコファー)のルック。Courtesy of Gucci

環境問題に対する変化と同時に、ジェンダーや人権問題もより注目されるようになりました。さまざまなことの“レス化”というのでしょうか。人権、性的指向、政治、障がいなど、決められた価値観のなかでマイノリティーが肩身の狭い思いをしていた状況が見直され、さまざまなことがボーダーレスになっています。これまではミューズ的アイコンを立て、あこがれをつくり出すこと、マネることがステータスとなる業界でしたので「みんな違って、みんないい」という考えにはなりにくかったのが正直なところ。それがようやく動き始めている感じがするのは、実際に8頭身モデルだけだったのが、さまざまな体型や人種のモデルが登場するようになってきているから。

ブランドでは、これもグッチがリードしている印象です。クリエイティブ・ディレクターのアレッサンドロ・ミケーレの最初のショーは本当に衝撃的でした。多様性やジェンダーレス、文化の盗用などをテーマに既成概念を壊しています。

GUCCI/昨年は持続可能性の高い新素材「デメトラ」を開発し、スニーカーに導入。自社ファクトリーで、高級レザーのなめし加工で培われた専門技術を活かして研究開発・製造されたもの。Courtesy of Gucci

とくに、保守的なイタリアブランドで男性は男性らしく、女性は女性らしくを求められた常識を覆したことは大きかったですね。これからのファッションを考えると、そういった価値観や思考的な面でもさらに大きく変化していきそうな予感がします。

▼後編につづく

PROFILE

向千鶴 むこう・ちづる
『WWDJAPAN』編集統括兼サステナビリティ・ディレクター。2000年にINFASパブリケーションズ入社。記者として主にデザイナーズブランドの取材を担当。『ファッションニュース』編集長、『WWDジャパン』編集長などを経て21年4月から現職。

●情報は、FRaU2022年8月号発売時点のものです。
Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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