“ほめない、叱らない、認める”徳島の「自由な学校」が育くむ、子どもの多様な好奇心
生き方も働き方も多様性に富む時代。多様であることを受け入れ、多様なことを学ぶ、SDGs先進県・徳島のさまざまな「学び舎」の形態を紹介します。
「ありのままの自分を好きになってほしい」

平日の朝。通勤ラッシュで混み合う国道を外れて土手を下ると、あぜ道の先に「自然スクールトエック」があった。子どもたちが、でこぼこした地面の上で一輪車を器用に乗り回し、大根を干した田んぼで鬼ごっこをしている。園内の一角には薪(まき)がくべられ、火が揺れていた。
「子どもたちがいつでも入れるように、朝から薪でお風呂を沸かしているんです」
こう語るのは、1985年に“自然体験活動を軸に、子どもたちとともに育ち合う場”としてトエックを立ち上げた伊勢達郎さんだ。幼児対象のフリースクールと私設小学校「自由な学校」を運営するが、いわゆる不登校生を対象にしたフリースクールとは一線を画す。
朝9時半、自由な学校で「モーニングミーティング」が始まった。子どもたちは輪になって座り、ひとり一人今日のプランを話す。サッカーをしたいという子もいれば、将棋をやりたいという子も。解散すると、それぞれ好みのことをして自由に過ごす。ここには教科書も時間割りもない。調理場から漂う出汁(だし)の香りに誘われて、「昼ごはんの準備を手伝いたい」と思えば、それも自由。

「モーニングミーティングで発表したプランを実行することが目的ではありません。大事にしているのは意志や気持ちを自分に問い、互いに聴き合うことです」
トエックでは、“ほめない、叱らない、認める”という理念に基づき、個人の好奇心や主体性を尊重する。「のびやかに自分を生きてほしいのです」と伊勢さん。
「ここでは、その子はその子のままでいいと認めるので、いい子も悪い子も存在しません。ありのままを認めることで、自分のことを好きになってほしい」

11時半頃、調理場のようすに気づいた子どもが「ごはんができたよー」とみんなに声を掛けた。水遊びを終えた子どもは焚き火に向かってウチワをあおぎつつ、暖をとっている。日々、遊びから学んでいく子どもたちの姿がそこにはあった。
NPO法人自然スクールトエック:徳島県阿南市柳島町高川原6 toec.jp
●情報は、FRaU S-TRIP 2023年4月号発売時点のものです。
Photo:Masataka Namazu Text:Kanako Mori Composition:林愛子