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シカを「憎むべき害獣」から「町の財産」に変えたハンターの試み(後編)
シカを「憎むべき害獣」から「町の財産」に変えたハンターの試み(後編)
PROJECT

シカを「憎むべき害獣」から「町の財産」に変えたハンターの試み(後編)

シカによる農作物への被害が甚大な岩手県・大槌町で、ハンターとしてシカの捕獲をしている兼澤幸男さん。捕獲をしていくなかで気持ちに変化が生まれ、そこから新たな事業を展開しています。

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「奪った命を粗末にしてはいけない」

農家を泣かせる憎いシカを駆除するためにハンターになった兼澤さんだが、捕獲の経験を積むうちに、心境の変化が訪れた。

「先輩ハンターの『奪った命はありがたくいただくんだぞ』という教えがあって、駆除をするうちに命を粗末にしてはいけないという意思が強くなっていきました。それで、ジビエ事業を考えるようになったんです」

原発事故の影響で、岩手県では野生鳥獣肉の出荷が制限され、捕獲されたシカは焼却処分されていた。しかし令和2年4月、全頭検査などを条件に一部で制限が解除となる。

その1ヵ月後の5月、兼澤さんはシカ肉加工工場を稼働させた。現在は町内、県内はもちろん、県外の飲食店にもシカ肉を卸している。

「シカの命をきちんと活用したい」との思いから、大槌町産のシカ革である「大槌ジビエレザー」を使ったアイテムの製作にも乗り出した。町内の女性たちが日本の伝統手芸「刺し子」をほどこし、手仕事の温もりを伝えているブランド、大槌刺し子とのコラボレーションアイテムだ。

大槌町の「ふるさと納税」の返礼品としても好評を博している。
「大槌刺し子」はひと針ずつ丁寧に刺していく、昔ながらの伝統工芸品だ。

「私自身、大槌町で暮らしていて、震災以降シカを目にする機会が増えたと感じています。『シカの命に感謝し、あますところなく活用したい』との思いに賛同し、私たちも『一度は失ってしまった生命に新しい息吹を吹き込んであげたい』という思いで商品開発に携わりました。

シカ革は捕獲した個体の年齢で柔らかさや厚さなどの質が違うこと、皮を剥ぐ作業がとても重要なことなど、レザー素材に関してはわかっていないことが多く、商品開発にはとても苦戦しました。でもシカ革の厚さを調整したり、切り口を加工したり。私たちなりに工夫した結果、いい商品ができたと自負しています」(大槌町の刺し子・黒澤かおりさん)

新たな販路、つくり手の開拓が今後のカギ

命をムダにしたくないという思いが共感を生み、大槌ジビエソーシャルプロジェクトに参加する仲間は増えている。けれども、兼澤さんは「まだまだ課題がたくさんある」と語る。

「シカ革アイテムは、原皮(剥いだ皮が腐敗しないよう塩蔵にした皮)をなめし加工業者に送り、戻ってきたシカ革をつくり手に買い取ってもらったり、ときに無料で提供したりしてアイテムをつくってもらいます。

さまざまな工程には当然コストがかかるので、肉も皮もすべて利活用するのは難しいという現状があります。販路をどう開拓していくか、新たなつくり手を見つけて、どう関係性を築いていくかが、これからの課題ですね」

MOMIJIの代表を務める兼澤幸男さん。

今後はシカの処理頭数を増やすため、新たな工場建設を計画中だ。

「シカ肉にしてもシカ革にしても、ジビエを町の産業にしたいというのが私たちの一貫した思いです。町の産業、新名物を名乗るためには、ある程度の数が売れないとダメですし、そのためにはアイテムの種類も生産数ももっと増やしていかないといけません。

ハンターの高齢化も取り組むべき問題です。僕はまだ中堅ですが、自分が持っている技術やノウハウは惜しみなく若手に伝えていきたい。ベテランと若手をつなぐパイプ役になれたらと思っています」

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photo: MOMIJI株式会社、大槌刺し子 text:阿部真奈美

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