シカやサルがお出迎え! 屋久島の世界自然遺産エリア「西部林道」を歩いてみた
日本で初めて世界自然遺産に登録された鹿児島県の屋久島。3月16日、その玄関口、宮之浦港の目前に「THE NORTH FACE 屋久島」がオープンしました。同店が重視するのは、「縄文杉」や、映画『もののけ姫』の舞台モデルといわれる「白谷雲水峡」だけではない屋久島の魅力を広く伝えること。そんな想いを具現化したザ・ノース・フェイス主催の世界遺産エリア「西部林道」トレッキングツアーに参加してきました。
岩の上でも発芽するガジュマルの生命力
西部林道は屋久島の西海岸沿いに走る道路で、うち約15㎞が世界自然遺産エリア。林道の両脇は海岸から山のてっぺんまで、人の手がほとんど入っていない森林が続いている。屋久島公認ガイドで「山岳太郎」所属の藪田久美子さんらに先導され、私たちが林道から森に入ろうとしたところ……さっそく1頭のヤクシカが出迎えてくれた(上写真)。立派な角はあるものの、奈良公園などで見る雄のシカより、だいぶ体が小さくてかわいい。
「ヤクシカはニホンジカの亜種で、この島に大型の捕食者がいないことや、気候や地形の状況などから、体が小さくなり、脚も短く進化したといわれています。一見、われわれがそばにいても平気な顔をしているようですが、実は、危険を感じたらいつでも逃げ出せる絶妙なポジション、距離をとっているんですよ」(藪田さん)
ガジュマルやアコウの生命力について、説明するガイドの藪田さん
いよいよ森の中に入っていく。林道から海岸に向かって、道なき道をゆっくり降りていくのだ。いかにも南国らしい、幹や枝から無数の根っこ(気根)を伸ばしたガジュマルやアコウが目につく。藪田さんが解説してくれる(上写真)。
「これはガジュマルです。鳥がガジュマルやアコウの実を食べて、糞と一緒に種を他の太い樹木の幹の上などに落とすと、そこで発芽して葉を上に上に、根を横に下に伸ばしていきます。やがて、もとの樹木はすっかりガジュマルなどの根で覆われてしまいます。その姿が、まるで樹木に絡みながら絞めつけているように見えることから、ガジュマル、アコウは『絞め殺しの木』とも呼ばれるのです。生命力が強く、苔むした岩の上に鳥が種を落とすと、苔がたくわえた水分で発芽し、根を岩に絡みつかせるように伸ばして成長します」
右側の小さな白い花がサクラツツジ。ソメイヨシノの花によく似ている。そのすぐ脇には澄み切った川が
しばらく歩くと、かわいい真っ白な花が目に飛び込んできた。
「サクラツツジですね。屋久島では川桜とも呼ばれていて、3月ごろ川沿いに咲きます。ちなみに、この川の水はとってもきれいで澄んでいますが、魚はいません。屋久島は火山が隆起してできた花崗岩の島。山から流れてくる水は花崗岩で濾過されて、不純物がほとんどありません。硬度は8〜10で、魚が棲むには栄養分が少なすぎるのです」(藪田さん)
大岩の下をくぐったり、登って絶景を楽しんだり!
山の上から転がり落ちてきて割れたと思しき大岩。あとひと転がりされたら、われわれ一行はひとたまりもない
さらに海岸に向かってジグザグに降りていくと、真っ二つに割れた大岩が現れた。で、でかい! こんな感じで海に近づくにつれて、大小の岩がゴロゴロ。そんななか、大岩の下をくぐったり、小さなものを跳び越えたりして進む。苔むした岩が多く、滑りそうで怖いが、このへんの岩はすべて花崗岩。表面がザラついていて、滑って足をとられることは、あまりないそうだ。
崖から突き出るように鎮座する大岩で休憩タイム。気を抜くと転がり落ちそうで、皆、ゆるゆると慎重に移動し、腰掛ける
さらに歩き、海と山を一望できる大岩でひと休み(上写真)。といっても、崖に突き出たような岩で、登り口からはかなりの急傾斜。腰掛けられるてっぺんにたどりつくまで皆、はいつくばるようにゆっくり移動する。平気で立っているのはガイドさんたちだけで、かなりの恐怖感だが……それでも、この岩の上から見えるのはまさに絶景だ。屋久島では珍しく晴れわたった空、標高1900mほどの山頂から800mまでのあたりはややグレーがかった屋久杉などの針葉樹林、その下は緑深い照葉樹林。そして眼下には清流と真っ青な海! ああ、これを見ずに屋久島に来たなんて言えるだろうか(縄文杉も白谷雲水峡も見たことないのに言ってます)!
天然のプールもある海岸に降りて、待ちに待ったランチタイム。朝、あれほどご飯を食べてきたのに、木々をスリ抜け、岩から岩へ歩く間にすっかり腹ペコだ。
絞め殺しの木、ガジュマルの大木を下から見上げる。なんとも奇妙な形だ
ランチを終えると、再び海岸から森に戻り、西部林道へと登っていく。途中、ようやく人ひとりが通れるほどの、ガジュマルの幹の隙間を順番にスリ抜ける。天然のフィールドアスレチックは大人でもホントに楽しい。
西部林道で人間どものようすを眺めるヤクザルのファミリー
そして西部林道に戻ると、今度はヤクザルの家族に出会った。最初は両親が毛づくろいをしていたのだが、そこに2頭の子どもザルが登場。さかんにこちらを見ている。
「人間への警戒は怠っていませんね。屋久島のサルは本州などのニホンザルより体は小さいですが、目が合うだけで、襲いかかってくることもあるので、皆さん注意してくださいね」(藪田さん)
というわけで、早々に立ち去ろう。
ウミガメが産卵する浜と、岩山を望むスムージー
永田地区の「いなか浜」。ウミガメが産卵する美しい砂浜だ
次に立ち寄ったのは、屋久島の北部、永田地区にある「いなか浜」。ここはウミガメの産卵地として有名なため、外国人観光客も多い。南国とはいえまだ3月、肌寒いのに、海に入っている女性もいる。ただただ美しい白砂の浜に見入っていると、ガイドのひとり、内室紀子さんが「あったあった」と何やら白いプラスチック片みたいなものを手のひらに載せている。海洋ごみ?
「いえいえ、これがウミガメの卵の殻なのです。触ってください、やわらかいでしょう? 海風に吹き飛ばされて、浜の端っこのほうに、まるでプラごみみたいに転がっているので、気づく人は少ないのです」(内室さん)
浜を堪能したあとは、島の東側の安房地区へと車で移動。絶景スポット、松峯大橋に到着した(下写真)。
屋久島東部、安房川にかかる松峯大橋から安房山を望む
松峯大橋から安房川の水面までは約70m! 恐怖感を覚えるほどの高さだ。山側の川では、ちょうどカヤックのツアーがおこなわれていて、手を振ると、ちゃーんと振り替えしてくれた。そして反対側、海のほうを望むと、川面ではSUP(スタンドアップパドル)のレッスン中。こんな大自然の中でのアクティビティは、一生の思い出になるに違いない。
雄大なモッチョム岳を眺めながら、いただくスムージーのおいしいこと!
そして一行は島の南、尾之間(おのあいだ)地区にある、ガイドさんイチオシのカフェ&ショップ「やくしま果鈴」へ。屋久島産フルーツをつかったスイーツなどが評判の店らしい。目の前には切り立った岩山、モッチョム岳。いただいたマンゴースムージーは、それはそれは……五臓六腑に染みわたった。感激して「屋久島フルーツバター・たんかん」をお土産に買って帰ったのは言うまでもない。
photo:横江淳 text:舩川輝樹(FRaU)
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