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「旨いサーモンやサバを次世代に残すため、海の生態系を守る!」ノルウェーから学ぶべきこと【後編】
「旨いサーモンやサバを次世代に残すため、海の生態系を守る!」ノルウェーから学ぶべきこと【後編】
LIFE STYLE

「旨いサーモンやサバを次世代に残すため、海の生態系を守る!」ノルウェーから学ぶべきこと【後編】

これからのものづくりにサステナビリティは欠かせない視点。地球環境は守られているか。働く人たちへの配慮がされているか。残すべき伝統がきちんと次世代へ継承されているか。私たちはつくられた背景に賛同し、応援する気持ちで選びたい。つくり手の思いを聞きに、ものづくりの現場を訪ねました。今回は、ノルウェー産シーフードに注目、その後編です。

▼前編はこちら

獲った魚にも、養殖魚にも、
ストレスを与えないスタイル

オーレスンの町から出港するのは大型のサバ漁船。船の近代化、働き方や待遇のよさで、漁師は若い世代からあこがれられる職業に

今回取材に訪れたのは、ノルウェーを代表する港町、西部に位置するオーレスン。町の規模こそ小さいが、国内屈指の漁場であり、港の周辺に加工業者や養殖業者が林立する。ここから日本をはじめ、世界中へ良質なシーフードが送り出されるのだ。主要輸出品のひとつ、サバに関しては、新しいスタイルの漁法が採り入れられている。ノルウェー通商産業水産省所管の「ノルウェー水産物審議会」(以下NSC)の日本・韓国担当ディレクター、ヨハン・クアルハイムさんは言う。

「すべての船を監視できるオンラインシステムを導入し、海図上のどこにどの船がいるかがリアルタイムでわかるようになっています。関係者なら誰もが見られるので、密漁や乱獲も未然に防げるのです」

漁船のフィッシュポンプから数百トンのサバが直接加工場に送り込まれる

漁は魚への負荷が少ない巻き網漁。網でサバの群れをとり囲み、網の底を引き上げて獲る。この漁法なら、サバが長時間、網の中に放置されることはない。その後すぐに漁船内の大型タンクに引き上げられ、冷却された海水貯水タンクにサバを保管。港に戻った漁船は加工場に横づけされ、サバはフィッシュポンプで一気に加工場へ送られる。この方法であれば、魚に必要以上のストレスを与えることなく、鮮度を保ちながら送り込めるのだ。

国がすべての漁船に対して毎年の漁獲高を割り当てているため、獲りすぎることなく、適正量が保たれる。漁獲枠を超えた場合、その分の魚はオークションで売られる。売り上げは行政が徴収し、漁場の監視強化などに使用する。超過分の報酬は漁師には入らない仕組みだ。ノルウェーの漁業が安定して発展しているのは、こうした先進的なシステムはもちろんのこと、働くための環境がきちんと守られていることも大きい。最新の大型船に乗る漁師には個室が与えられ、船内はシェフつきの食堂やカフェ完備。漁師たちには「たくさん獲った者こそが儲かる」という考えがなく、平等に安定した高収入が得られる。ノルウェーでは、漁師が若者のあこがれの職業トップだということにも合点がいく。

サーモンの海面養殖場。フィヨルドの冷たくて透明な海水は魚の養殖に最適だ

一方、養殖産業にもサステナビリティを意識した管理体制が敷かれている。日本でも人気のアトランティックサーモンは、季節を問わない安定供給が魅力で、年間を通して海面養殖場もしくは陸上養殖場で育てられる。どのサーモンも産地、加工場所、輸出業者などの情報を追跡でき、トレーサビリティ専用の「パスポート」をつけて情報を管理することで品質や安全性が保証される。いけすは水97.5%、サーモン2.5%の割合というルールもあり、魚にとってストレスのない環境を整えている。

サーモンの陸上養殖場。最新のテクノロジーを駆使し、徹底した管理で品質と安全を確保する。管理者の業務の効率化も実現。日本で人気のサーモンはビタミンA、D、B12、B2、抗酸化成分、オメガ3脂肪酸を豊富に含む

一般的に養殖サーモンは環境負荷が少ないといわれる理由は、哺乳類ほどエネルギーをつかう必要がなく、エサから摂取した分は成長するためだけにつかわれるからだ。たとえば1kgのサーモンを生産するのに、1.2kgのエサしか要しない。養殖技術が進歩するにつれ、エサの量も今後さらに減少していくと予想される。またNSCのデータによれば、魚は牛肉や豚肉に比べ、同量のタンパク質を摂れる摂取量に対する温室効果ガスの排出量が少ないという。環境にやさしいことはもちろん、今後増加する世界人口のタンパク質需要に長期的な貢献が見込まれているのだ。

世界中に出荷されるサーモンの加工場。養殖サーモンは環境負荷が少なく、品質も安定的で、効率のいいタンパク源となる。一年中手に入るのも魅力

最先端のIT技術を駆使しながら、国を挙げて海洋マネジメントを徹底し、働く人たちを守りながら、海の資源も守るノルウェーの水産業。それがひいては、食糧問題、環境問題、健康問題など世界のあらゆる課題を解決に導く可能性を秘めている。翻って日本はどうか。天然魚の漁獲量が1980年代のピーク時に比べ、約70%も減少している。近海から天然魚が減っているのは、気候変動による海水温度の上昇もあるが、乱獲の影響も大きいといわれる。

養殖のオヒョウをつかった試作寿司。日本市場開拓に向けて研究中だ

ノルウェーには、日本が学べることもたくさんありそうだ。世界の漁業水産業界が切磋琢磨しあい、“分かち合う”漁業へと変換を遂げることによって、サステナブルシーフードが未来の主要食になることを期待したい。

●情報は、FRaU2023年1月号発売時点のものです。
Photo:Norwegian Seafood Council Photo & Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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