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「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第5回】乳がんの治療法についてお話します
「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第5回】乳がんの治療法についてお話します
FEATURE

「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方【第5回】乳がんの治療法についてお話します

日本の女性がもっとも多くかかる「がん」。それは「乳がん」です。いま、9人に1人がかかるといわれ、毎年9万人以上が罹患しています。そんな乳がん患者さんたちと真正面から向き合い、絶大な信頼を寄せられているのが、東京女子医科大学乳腺外科教授の明石定子さん。乳がん専門のスーパードクターとして知られる明石教授による、乳がんを正しく知るための連載第5回目をお届けします。

NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』でも取り上げられ、これまで3000例以上の手術を成功させてきた明石教授。先生によると、乳がんは早期発見・早期治療で9割が治るという。そこで今回は、乳がん発見後の治療について話を伺った。

乳がん治療の第一歩は、ステージとがんのタイプを知ることから

乳がんが疑われたらまず検査を行い、進行具合の「ステージ(病期)」と「乳がんのタイプ」を調べます。ステージは0期~Ⅳ期の5段階で、「しこりの大きさ」「脇の下のリンパ節転移の有無」によって分類されます。ステージが早いほど治癒の確率はアップするので、しこりが小さくリンパ節転移のない段階で見つけることが重要です。

乳がん発見時のステージは、Ⅰ期とⅡ期で70~80%を占めますが、それより早期の0期で発見される方も15%程度います。乳がんの多くは早期に発見されているわけですが、その理由は、自分で胸を触ることでしこりを発見できる乳がんの大きさが2~3センチだから。この大きさはちょうど、ステージⅡA期、ⅡB期にあたります。この段階までで発見できると完治の確率は高いでしょう。さらに、Ⅳ期で発見されたとしても、乳がんの場合は約40%の患者さんは5年間生存されています。この確率は、乳がん以外のがんでは考えられないほど高いのです。

乳がんの場合、治療法の選択においてステージ以上に重要なのが「乳がんのタイプ」です。がんの組織を採取し、タンパクを調べて「ルミナルA」「ルミナルB」「ルミナルHER2」「HER2陽性」「トリプルネガティブ」の5つのタイプに分けます。治療法を選択する際には、この分類が最も重要になります。

進行状況とタイプが分かったら、乳がん治療の開始です。治療は「局所治療」と「全身治療」が行われており、局所治療はがんのできている部分に対して行う「手術」と「放射線療法」のこと。全身治療は「薬物療法」にあたります。

乳がんの状態によって「乳房温存手術」または「乳房切除術」が行われる

局所治療の基本は「手術」で、「乳房温存手術」と「乳房切除術」の2種類にわけられます。まず、乳房温存術からご説明しましょう。

乳房温存手術は、乳がんのしこりを中心に、ぎりぎりでなく少量の周囲の乳腺組織を含めて切除します。部分切除なので、乳房のふくらみは残すことができます。残した乳房には放射線を照射。これで、乳房をすべて切除したときと同じ生存率になります。

乳房温存には、「がんを切除しても、乳房の形をある程度残せる」場合のみ行われます。通常、がんが3センチまでであれば温存手術ができますが、3センチ以下でも温存できないケースもあります。母乳を運ぶ「乳管」に沿ってがんが伸びており、がんの範囲が広い場合は、しこりが3センチ以下でも全摘になるのです。また、しこりが乳頭の近くや乳房の下半分にできた場合は、部分切除を行うと変形が大きくなりやすいので、しこりが小さくても乳房温存手術ができないことがあります。

逆に、乳がんがある程度大きくても、手術前に薬物療法によってがんが小さくなり、乳管に沿ってがんが広がっていなければ、乳房温存手術ができることもあります。乳房温存手術にもメリット&デメリットがありますので、主治医と十分に話し合うべきだと思います。

次に乳房切除術です。乳がんが乳管に沿って広く広がっている場合、乳房部分切除では乳房の変形が大きくなるので、乳房すべての切除を行い、希望があれば乳房再建を同時でも後からでも行うことは可能です。このほか、乳房にがんが複数できている場合も乳房切除術がおこなわれます。このほか、乳房切除術を選択するケースが多いのは、遺伝性乳がんの患者さん。がんが小さい段階で発見できたとしても、乳がんができやすい体質なので温存術で残した乳房に別の新しいがんできる可能性が高いのです。再手術が必要になる可能性が高いことを考えると、全摘手術を行い、希望があれば乳房再建に進むことをおすすめしています。

手術前に、外来で重要な検査が行われます。がんが最初に転移するリンパ節に転移がないかを調べる「超音波検査」「MRI検査」「CT検査」がそれ。その結果、脇の下のリンパ節に転移がないとされた場合は、「センチネルリンパ節生検」を行います。センチネルリンパ節とは、乳がん細胞が転移する場合に最初に流れ着くリンパ節のことです。手術中にセンチネルリンパ節を取り、顕微鏡でがん転移の有無を調べます。転移の有無は、今後の再発を予見するため、また治療法を選択するうえでも重要。センチネルリンパ節にがん転移がなければ、残りのリンパ節の切除は行いません。転移がある場合はリンパ節郭清(脇の下のリンパ節を脂肪ごと一括で取ってくること)をするのですが、「脇の下の痛み」が出やすく、20%程度の患者さんに「腕のむくみ」などの後遺症が出ることがあります。

再発を防いで生存率を高める「放射線療法」

2つ目は、乳房を全摘する乳房切除術を受けた後です。4個以上のリンパ節に転移がある患者さんや、皮膚にがんが広がっている患者さんには、胸壁に放射線を照射することをすすめています。なぜなら、術後の放射線照射が生存率を高めることが報告されているから。術後放射線照射は週5日を5週間、25回行うのが標準で、1回の照射時間は数分です。最近は3週間で行う方法もありますので、担当医に相談してみましょう。放射線の副作用を気にされる患者さんが多いのですが、「少し胸が硬くなる」「赤くなる」ことがありますが、半年程度でよくなります。「髪は抜けますか?」という質問をよく受けますが、胸に対する放射線では髪が抜けることはありません。

次回は、3本柱の3本目「薬物療法」についてお話します。

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明石定子(あかし・さだこ)

1990年3月、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院・乳腺外科を経て、2022年9月より、東京女子医科大学・乳腺外科教授。患者の希望や整容性に配慮した手術、治療に定評がある。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、NHK Eテレ『きょうの健康』など、メディア出演多数。

取材・構成/松井宏夫(医学ジャーナリスト)

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