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「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方  【第3回】遺伝性乳がん、卵巣がんを知ろう
「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方  【第3回】遺伝性乳がん、卵巣がんを知ろう
COLUMN

「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第3回】遺伝性乳がん、卵巣がんを知ろう

日本の女性がもっとも多くかかる「がん」。それは「乳がん」です。いま、9人に1人がかかるといわれ、毎年9万人以上が罹患しています。そんな乳がん患者たちと真正面から向き合い、絶大な信頼を寄せられているのが、東京女子医科大学乳腺外科教授の明石定子さん。乳がん専門のスーパードクターとして知られる明石教授による、乳がんを正しく知るための連載第3回目をお届けします。

NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』でも取り上げられ、これまで3000例以上の手術を成功させてきた明石教授。その手腕は「神の手」と賞賛されている。そんな明石先生に乳がん発症のリスクについて伺った。

乳がんの約5%は「遺伝性乳がん

前回、乳がんの発症リスクの高い人について、

①自分の努力で改善できる項目

②自分の努力では、変えることのできない項目

に分けて解説しました。その②であげたひとつが、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の人」です。

実は、乳がんの約5%は遺伝によって発症する「遺伝性乳がん」。そのなかでも代表的なのが「HBOC」なのです。「BRCA1」または「BRCA2」という遺伝子は誰もが持っているのですが、これが生まれつき変化している人は、乳がんを発症しやすいことがわかっています。もちろん、乳がんのみならず卵巣がんも発症しやすいので、「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)」と呼ばれているのです。

遺伝子に変異があるか否かを知るために行うのが「遺伝学的検査」。血液を採取して行う検査で、2020年4月に保険適用になりました。保険適用で検査が受けられるのは、現状では乳がん、卵巣がんを発症している人のうち、乳がんや卵巣がんの家族をもつ方など、いくつかの条件があります。2020年4月以前は、検査は保険適用ではなく自費でしたから、20万円程度もかかっていました。それが保険適用になったことで、患者さんの負担は6万5000円ほどになりました。遺伝学的検査が保険適用になったのは、「科学的に必要性がある検査」だと証明されたからです。

遺伝学的検査は通常の採血によって調べられます。結果、遺伝性乳がんとわかった場合、その患者さんの乳がん治療の方法が変わってきます。遺伝学的検査で、患者さんはよりベストな治療を受けられるのです。

遺伝性乳がんの治療には、以下3つのポイントがあります。

その①

遺伝性乳がんではない人には効果が見られないものの、遺伝性乳がんの人には効く薬があり、それがつかえるようになります。「PARP(パープ)阻害薬」のひとつ、「オラパリブ」という薬です。PARPとは「PARPたんぱく」のこと。損傷したDNAを修復する酵素です。PARPたんぱくの働きを阻害することで、がん細胞の増殖を抑える薬なのです。

その②

遺伝性乳がんの人は、卵巣や反対側の乳房にもがんができる可能性が高いので、予防的に乳房や卵巣を切除することが保険をつかってできるようになりました。これはひとつめのポイントと並んで、患者さんにとって大きなメリットです。

その③

最後のポイントはご家族に関することです。遺伝性乳がん患者さんのお子さんは同じ遺伝子を持っている確率が2分の1になるので、患者さんが遺伝性乳がんとわかったときは、お子さんも遺伝学的検査を受けるかどうか選択してもらいます。検査を受けて遺伝子の変異がわかると、お子さんはがん年齢になったら、専用の検診を受ける必要があります。ただ、人によっては遺伝子に変異があることを「知りたくない」というケースもあります。そうした気持ちも、尊重すべきだと考えています。

遺伝性乳がんが子どもに遺伝する確率は50%

ここまで女性患者さんの話をしてきましたが、HBOCは実は女性に限ったものではありません。乳がんの年間罹患者数は約9万8000人で、その0.5%程度が男性です。つまり、男性の乳がん患者は年間450~500人程度。男性乳がん患者は、遺伝性乳がんの方が多く、約20%にのぼります。保険をつかって遺伝性乳がんかどうかを調べる検査を受けられるので、検査のメリット、デメリットなどについて専門医にしっかり相談し、納得したうえで検査を受けましょう。

検査の結果が陽性であれば、乳がんのみならず前立腺がんや膵臓がんに罹患する可能性も高まるので、積極的に検診を受けていく必要があります。そして、お子さんに遺伝している可能性もやはり50%の確率。成人後でよいので、検査を受けるかどうか、しっかりと専門医と相談をすることが重要です。

取材・構成/松井宏夫(医学ジャーナリスト)

明石定子(あかし・さだこ)

1990年3月、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院・乳腺外科を経て、2022年9月より、東京女子医科大学・乳腺外科教授。患者の希望や整容性に配慮した手術、治療に定評がある。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、NHK Eテレ『きょうの健康』など、メディア出演多数。

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