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「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第4回】早期発見につながった患者さんについてお話します
「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第4回】早期発見につながった患者さんについてお話します
COLUMN

「神の手ドクター」に聞いた 乳がんの気づき方、治し方 【第4回】早期発見につながった患者さんについてお話します

日本の女性がもっとも多くかかる「がん」。それは「乳がん」です。いま、9人に1人がかかるといわれ、毎年9万人以上が罹患しています。そんな乳がん患者さんたちと真正面から向き合い、絶大な信頼を寄せられているのが、東京女子医科大学乳腺外科教授の明石定子さん。乳がん専門のスーパードクターとして知られる明石教授による、乳がんを正しく知るための連載第4回目をお届けします

NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』でも取り上げられ、これまで3000例以上の手術を成功させてきた明石教授。先生によると、乳がんは早期発見・早期治療で9割が治るという。そこで今回は、乳がんを早期に発見できた患者さんについて、実例を挙げながら教えてもらった。

早期発見できれば、手術も術後も心身の負担が少ない

早期発見には病院での検診が重要ですが、それに加えて、近年すすめられているのが「ブレスト・アウェアネス」という考え方です。「自分で乳房を触診して、自分で乳がんを発見しましょう」という自己触診も大切なのですが、このように言われると、心理的ハードルが高くなっていやになってしまう方が多いのです。それに対してブレスト・アウェアネスは、「自分の乳房に関心を持ちましょう」という考え方です。

まずは自分の胸に関心を持って、月に1回は胸を触ってみましょう。すると、前回はなかったしこりなどに気づきやすくなります。お風呂で身体を洗うときに触ってみる程度で構いません。身体にせっけんの泡がついていると肌の滑りが良く、しこりに気づきやすいのです。

乳房に関心を持つことで、乳がんに気づく方は多くいます。乳がんが見つかった方の30%は市区町村での検診で、半数以上は自分でしこりを見つけて乳腺外科を受診された方々です。乳房に関心を持つだけで、早期発見に結びつきます。

それでは、実際に乳がんを早期発見した2人の患者さんのケースをご紹介しましょう。

早期発見の決め手は、入浴時のブレスト・アウェアネス

40代の会社員であるA子さんは、乳房のしこりに気づいて乳腺クリニックを受診。マンモグラフィ検査と生検を受けて乳がんと診断され、私どもの乳腺外科を紹介されて来院されました。

A子さんは最初の診察から「乳房がなくなるのはイヤ。どうしても残したい!」と強く訴えていました。というのもA子さんはゴルフが趣味で、プレー後に仲間とお風呂に入るため、どうしても乳房はなくしたくなかったのです。画像検査では、右乳房の下方に2㎝のしこりがあり、病期はⅠ期という早期発見。幸い希望通りの部分切除によって、しこりは取り切れる見込みでした。

A子さんが早期に乳がんを発見できた理由は、 「お風呂に入ったときに、なるべく気をつけて乳房を触ってみるようにしていました」という意識にあります。まさにブレスト・アウェアネスを実践されていたといえるでしょう。

乳がんは右乳房の下方だったので、逆T字型にメスを入れる部分切除をおこないました。横5㎝、縦4㎝程度を切りましたが、乳房の下の手術痕は見えにくいですし、傷痕も数年で目立たなくなることが多いです。脇の下に転移する場合、最初に転移するリンパ節を「センチネルリンパ節」といいますが、これを取り出して顕微鏡で検査した結果、転移なし。手術後は、週に5日ずつ、5週間の放射線治療をおこないました。比較的おとなしいがんだったので、抗がん剤ではなくホルモン剤の投与のみでOKでした。そういう方は、結構いらっしゃるんですよ。

A子さんは術後に自分の乳房を見て、「先生の説明どおり、へこみなどもないんですね」と言って、涙を流されました。この気持ちが、退院後も前向きに生きていく糧になってほしいと思います。ただ、これはあくまでA子さんのケースで、早期でも変形が起きる場合があります。

定期的な検診で「0期」の乳がんを発見!

50代のB子さんは自営業で、とても多忙な方。2年に1回の市区町村の検診以外にも、自分で人間ドックの乳がん検診を受けていました。それほど乳がんに気をつけたのは、家族に前立腺がん、肺がんなどがんの方が多く、「自分の家系はがん家系だ」という自覚があったからです。今年も、例年どおりマンモグラフィ検診を受けたところ、「石灰化」の指摘を受け、詳しい検査を受けることに。すると、乳房上方の外側に1㎝の乳がんが発見されたのです。病期はなんと0期。検診を受けていると、こんなに早くがんが見つかることがあります。

その後B子さんは職場の近くにある、私たちの病院に来られました。たとえ1㎝の乳がんに思えても、実は広がりが大きく、全摘出が必要になることもあるのでMRI検査をしました。B子さんの場合は1㎝以上ではなかったため、石灰化している周辺を切除。ただ、転移をおこさない「非浸潤がん」だったため、がんが最初に転移するセンチネルリンパ節は切除しませんでした。

脇の下に近い部分の切除では乳房の変形が目立ちにくいのですが、脇の方の肉を寄せる方法でおこない、より目立たないよう配慮しました。術後、B子さんは「変形はほとんど目立たない」と、喜びの声をあげられました。その後の放射線治療は、「神奈川県にある自宅近くの病院で受けたい」とのことで、紹介状を書きました。

乳がんの術後には、ホルモン剤の服用の有無を判断する必要があります。その理由は、以下の3つです。

①転移予防

②残した乳房にできる新しいがんの予防

③もう片方の乳房にできる新しいがんの予防

これらのためにホルモン剤を使うのですが、B子さんのがんは非浸潤がんのため①は考える必要がないものの、②と③は必要です。ただしホルモン剤には、更年期症状が出るという副作用があります。50代のB子さんは、すでに更年期症状が出ていました。そこで十分に話し合った末、ホルモン剤は服用しないことになりました。ただし、その後も年に1回の受診と、定期的な検査を受けることを約束してもらいました。

このお二人のように、乳がんは早期に発見できると、身体への負担は極めて少ないもの。ブレスト・アウェアネスと定期的な検診が、より広まっていくことを期待しています。

──第1回目はこちら──

──第2回目はこちら──

──第3回目はこちら──

明石定子(あかし・さだこ)

1990年3月、東京大学医学部医学科卒業。東京大学医学部附属病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院・乳腺外科を経て、2022年9月より、東京女子医科大学・乳腺外科教授。患者の希望や整容性に配慮した手術、治療に定評がある。NHK『プロフェッショナル〜仕事の流儀〜』、NHK Eテレ『きょうの健康』など、メディア出演多数。

取材・構成/松井宏夫(医学ジャーナリスト)

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