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宇宙ロケットの燃料タンクをアップサイクル! ロマンあふれる“360度音が出るスピーカー”「DEBRIS 」とは?
宇宙ロケットの燃料タンクをアップサイクル! ロマンあふれる“360度音が出るスピーカー”「DEBRIS 」とは?
FEATURE

宇宙ロケットの燃料タンクをアップサイクル! ロマンあふれる“360度音が出るスピーカー”「DEBRIS 」とは?

乃村工藝社グループのプロジェクトから生まれた、ロケット廃材でできたロケットタンクスピーカー「DEBRIS(デブリ)」。宇宙産業が盛んな北海道大樹町(たいきちょう)の協力のもと、ロケット開発の過程で試験使用されていた燃料タンクをアップサイクルしたものです。このスピーカーの誕生に合わせて大樹町で“フィールドレコーディング”をし、オリジナル楽曲も制作したそう。なぜそこまで? 開発者たちを直撃しました。

環境は理想的なのに、日本の宇宙産業は大きく出遅れている

北海道の十勝地方南部に位置する大樹町は、知る人ぞ知る航空宇宙のまち。町内にある「北海道スペースポート(HOSPO)」では、JAXAをはじめ民間企業や大学が日々さまざまな実験をおこなっている。そんな実験でつかわれた宇宙ロケットの燃料タンクを、スピーカーにアップサイクルするプロジェクトがいま話題だ。開発にあたったのは、乃村工藝社グループの研究開発プロジェクト「noon by material record(以下noon)」の後藤慶久さんと、宇宙ロケット廃材を活用したアップサイクルプロジェクト「&SPACE PROJECT(以下&SPACE)」の中井章郎さん、デザイナーの小山田創さんたちだ。

後藤:noonは、建築デザイン業界で大量に消費されている建築素材に対して、新たな視点を投げかけることを目標にしています。地球資源をコンセプトに、いろいろな廃材をつかってスピーカーをつくっているのです。スピーカーは素材によって音色が変化します。ポジティブな音響体験を通じて、それぞれの音の違いが、地球資源に思いを馳せるキッカケになればいいなと思います。

中井:近年、宇宙開発はすごいスピードで進んでいますが、日本のロケット産業は世界に比べて発展速度が遅い。いま、月曜日から金曜日まで、毎日世界のどこかでロケットが発射されているんですが、日本では年間3本、多い年でも6本しか飛ばされません。国民の意識が上がらないと、宇宙開発の推進はなかなか難しい。&SPACEでは、宇宙産業から出る廃材をつかったプロダクトを通じて、宇宙をより身近に感じてもらおうという活動をおこなっています。

後藤:中井さんとは以前、仕事をご一緒していました。私も&SPACEの活動は知っていたんです。宇宙って、ロマンの塊じゃないですか。そこで、「ぜひ一緒に、ロケットをつかったスピーカーをつくろう」と、声をかけたんです。

東京日本橋のDJラウンジでお披露目された、ロケットタンクスピーカーDEBRIS。宇宙を思わせるメタリックな質感がクールだ

中井:今回のプロジェクトは、宇宙産業が盛んな大樹町の協力のもと進めていきました。この町には、アジアで初めて、民間に開かれた商業宙港「北海道スペースポート」がある。日本は実は、ロケットを飛ばすには絶好の場所なんです。ロケットは地球の自転の力をつかって東に向けて飛ばすのが一般的で、人が住んでない場所が東側にないと発射できない。ロケット発射に適した国は、東側が海の日本など10ヵ国ぐらいしかないといわれています。さらに日本には、自国にエンジンをつくれるサプライチェーンを持っている。宇宙産業は、日本の次世代の基幹産業になるべきなんです。そうしたことを、もっと皆さんに知ってほしいですね。

後藤:われわれは、廃材は「ものの終わり」ではなく、「新たな可能性の始まり」と考えています。今回のスピーカーで使用したのは、開発の過程で試験使用されていたロケットの燃料タンク。宇宙に飛び立っていくロケットのサクセスストーリーの裏には、いくつもの試験用ロケットの存在がある。DEBRISには、そんな物語も隠されているんですよ。

宇宙ロケットのタンクを使用したスピーカーに、お披露目イベントの参加者は興味津々。実際にスピーカーから流れる神秘的な音を聞き、感慨深げだった

後藤:ロケットタンクスピーカーのデザインを担当した小山田くんには、宇宙空間をイメージしながら進めてもらいました。

小山田:宇宙空間では、上下左右の方向感覚がすごく曖昧になりますよね。一般的なスピーカーはいわゆる正面があって、そこから音が出るわけですが、宇宙では正面はなく、360度あらゆる方向に音が出ていく。どこから音が聞えてくるかわからない、音に包まれているような循環が感じられるデザインにしました。ロケットに搭載されたときの溶接跡をそのまま残したのは、素材の記憶を想起させる音楽体験をつくりたかったから。そんなロケット実験の廃材から出る音を、ぜひみなさんに聞いていただきたいです。

写真左からnoon by material recordデザイナーの小山田さん、&SPACE PROJECT代表の中井さん、noon by material record プロジェクトリーダーの後藤さん

後藤:いままでつくってきた廃材を活用したスピーカーとは違い、、ロケットタンクは取り扱いが難しい素材でしたね。宇宙開発会社さんなど、いろいろな企業や機密情報が関わっているので、細かく調整しながらさまざまな規約をクリアしていく必要がありました。

小山田:ロケットタンクはジェラルミン製なんですが、華奢(きゃしゃ)に見えてすごく分厚いんです。当初は北海道で加工しようとしたんですが、タンクをカットできる機械が見つからなくて。橋をつくっている橋梁(きょうりょう)メーカーに持ち込んだんですが、それでも厳しかったですね。

後藤:振動さえすれば、どんな素材もスピーカーとしてつかえるんですが、ジェラルミンはいい素材でしたよね。強度が高くて体積が大きい分、音に包まれるようなスケール感のあるスピーカーになりました。「スピーカーはかくあるべき」という固定概念がありますが、違う素材でつくってみるとそれぞれの音にいい個性が出るんです。

中井:素材の音を聴く、っていうね。DEBRISではロケットの音。今回、東京で初めてロケットタンクスピーカーをお披露目したわけですが、いずれ故郷の大樹町で音を鳴らしてみたいですね。ロケット燃料タンクが生まれた場所の空気や風景を音楽にできないかと、 大樹町でフィールドレコーディングをおこなったんですが、牛がなかなか鳴かなくて音が録れなかったんです。やっと鳴いた!と思ったら、それに被せて酪農家の方から「君たちは何をしてるんかね」なんて話しかけられたりして(笑)。そうしてつくった音楽をDEBRISで聞けたときは、感無量でしたね。ぜひ里帰りさせたいです。

後藤:DEBRISは宇宙、音楽、環境というテーマを持っています。ファッションイベントにも親和性を感じるので、音楽や環境だけでなく、さまざまなイベントで活用したい。実際に10月31日から11月9日まで、渋谷でDEBRISが体験できるイベントを開催するんですよ。そうして宇宙やサステナブルデザインに、より多くの方に触れてもらいたいと考えています。

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