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ごみの捨て方が今日から変わる!? 愛媛・今治「バリクリーン」で知った大事な資源のこと
ごみの捨て方が今日から変わる!? 愛媛・今治「バリクリーン」で知った大事な資源のこと
FEATURE

ごみの捨て方が今日から変わる!? 愛媛・今治「バリクリーン」で知った大事な資源のこと

自分が出したごみが回収された後にどうなるのか、じっくり考えてみたことはありますか? 現代社会で暮らすには、ごみをまったく出さないのはほぼ不可能。野菜や食肉、化粧品、文房具、洋服などなど、買い物をすれば高い確率でプラスチックの包装がついてきます。海洋プラスチックごみや、埋め立地の不足など、ごみを取り巻く問題は山積みです。生活者には、いま、どんな意識の転換や具体的なアクションが求められているのでしょうか? 「ごみを出す人の意識を変えたい」と、愛媛県の「今治市クリーンセンター」、通称“バリクリーン”で働く浅海文明さんは語ります。2018年に竣工したここは、数々の先進的な取り組みで知られ、全国の自治体が視察にやってくるのだとか。持続可能な資源の循環のヒントを求めて、筆者はバリクリーンを訪れました。

フェーズフリー”な、ごみ処理施設とは?

先代のクリーンセンターの老朽化に伴い、バリクリーンが竣工したのは2018年。瀬戸内海の島嶼部(とうしょぶ)にも広がる市内全域から回収されたごみがここに集まる。いわゆる「ごみ処理施設」のイメージとは大きく異なり、市民にも解放された開放的なエントランスが印象的だ。

2018年から稼働開始した今治市クリーンセンター(通称・バリクリーン)

廃棄物を安定的に処理するという役割に加えて、ここでは「地域を守り市民に親しまれる施設」であることも大きな柱のひとつに掲げられている。大きな体育館のような大研修室、集会やイベントでつかえる研修室なども備わっており、日中は多くの市民が出入りしている。

取材時には、卓球を楽しむ市民の姿が見られた

浅海さんとともにここで働く宮脇順一さんは、「おもに大研修室と研修室を貸し出していますが、それだけでも、年間のべ2万人の市民につかっていただいている」と解説する。

「卓球、バドミントン、バレーボール、コーラス、吹奏楽やフラダンス教室など、さまざまな目的で利用いただいています」

このように平時から多くの人々が集まるバリクリーンは、災害時には市民が避難できる防災拠点でもある。平時と災害時の時間の垣根を取り払うことで、「もしも」のときだけでなく、「いつも」役立ち、価値のあるものにするといった新しい概念を「フェーズフリー」というそうだ。 自然災害が激甚化し、大地震が想定される昨今、バリクリーンは、まさに「21世紀のごみ処理施設」として最先端の技術を有しつつ複数の役割をはたしているのだ。

ごみ処理は「人の手」による作業も多い

浅海さんと宮脇さんに見学者コースを案内いただくと、ごみ処理の過程は複雑で、いくつもの工程に分かれていることが理解できた。

まず、市内全域からごみ収集車が集結し、巨大なごみピットに次々ごみが投入されていく。その量には、ただただ圧倒される。

これとは別に、リサイクルセンター(不燃ごみ処理施設)で破砕後に機械分別された可燃ごみも、ベルトコンベアでごみピットに入ってくる。

「この破砕ごみに、リチウムイオン電池が混入していると大変なんです」と宮脇さんが教えてくれた。

さまざまな家電製品で使用されているリチウムイオン電池だが、破損したり変形すると、発熱・発火することがある。最近とあるごみ処理施設でも、それが原因とみられる火災が起きた。その報道を見た人もいるのではないだろうか。

不燃ごみとして捨てられたリチウムイオン電池が、破砕(破損・変形)後に機械選別をくぐり抜け、可燃ごみとして紛れ込んできた場合、ごみピットが火事になってしまう可能性もある。施設が焼損してしまうと、復旧までごみ処理ができず、市民の生活に多きな影響が出てしまうのだ。

ごみピット内では巨大なクレーンが常に動いている

機械だけでなく「人の手」による作業も多い。リサイクル資源として有効活用するプラスチック製容器包装に危険物や不適物が混入していないかは、作業員の目と手で選別されるのだ。ベルトコンベアの流れるスピードに合わせて次々と選別がおこなわれていくさまを見ていると、作業の大変さが伝わってくる。高い集中力を維持しながら正確に仕事をこなしていくのは並大抵ではない。

プラスチック製容器包装が人手で選別されているようす

ごみの選別はさらに続く。不燃ごみの場合、手選別され、細かく粉砕されたのちに、さらに細かく分別ができるよう、磁力選別機、粒度選別機、アルミ選別機などの工程を経ていく。そしてアルミ類と鉄類は回収業者へ、不燃残渣(ざんさ)は最終処分場へ、可燃残渣は可燃ごみ処理施設のごみピットへ運ばれていくのだ。

その工程の細かさ、複雑さを目の当たりにして、これまで何も考えずにごみを捨てていた自分の不明を恥じた。

ごみではなく資源」という考え方

浅海さんは「ごみを出す人の意識を変えたい」と語る。

「物理的に火を加えれば燃えるのは当たり前のことなんですよね。その結果として発電というエネルギー創出にもつながるわけですが、地球規模での資源の枯渇やプラスチックごみ問題などを考えないわけにはいきません」

「プラスチック製品をリサイクルして商品化するためには、やはりきれいな状態で出してもらわないとダメなんです。そもそも、うちではごみではなく『資源』と位置づけしてるんですよ。空き缶も、ペットボトルも、プラスチックも、白色トレイも、ビンも、みんな資源です」

ここで働いているとごみ処理にとても詳しくなるため、日頃物を買うときに必ず「これは処分される時にどうなるだろうか?」と考えるクセがついたそうだ。「処分に手間がかかりそうだから、別のものにしようか」と購買行動も変わるという。

ごみピットに投げ込まれる大量のごみ

たしかに今回の見学を経て、「作業員の皆さんが手作業で選別している」「リチウムイオン電池は収集袋に絶対に入れないようにしないと危険」と知ったことで、ちゃんと推奨される方法でごみを捨てよう、分別をしよう、というモチベーションが高まった。

市民の意識改革を促すべく、バリクリーンでは啓発活動にも力を入れている。印象的なのは、まだつかえそうな家具を修理して再生品として市民に販売する活動や、「いまばり環境フェスティバル」の開催などだ。「いまばり環境フェスティバル2024」では、リサイクルフェアや会場内の環境、フリーマーケット、フードの各エリアへのブース出展、バリクリーン見学会の実施があり、一日で1300人以上の市民が来場したそうだ。

全国津々浦々、私たちが日々ごみを出すどの地域にも、必ずクリーンセンターなどでごみ処理に従事する人たちがいる。ものを捨てるという行為から逃れられない社会のなかで、いかに「よりよい」選択をするか。それは私たち生活者一人ひとりにかかっていることを実感した。

ここまで記事が完成し、公開準備をしていたとき、今治市林野火災の情報が舞い込み、編集部一同、心を痛めました。この火災でも、バリクリーンは避難所として機能したのです──。

今治市林野火災で、のべ19世帯59名がバリクリーンに避難

3月23日に発生した今治市林野火災は、強風も災いし、28日までの6日間で隣接する西条市とあわせて442ヘクタールに燃え広がった(市による鎮火宣言は火災発生から23日後の4月14日)。

黒くなっている部分が火災跡。住宅のすぐそばまで火の手が迫ったことがわかる

バリクリーンは、火災発生現場からは少し離れていたため、当初は避難所として稼働しなかったものの、延焼面積の広がりを受けて3月25日夕方から避難所として被災者の受け入れをおこなった。避難してきたのはのべ19世帯59名と、バリクリーンの規模からすると多くはなかったが、毛布や簡易ベッドが提供され、みな安堵の表情を浮かべていたという。

バリクリーンには非常時の活用を想定した備品が用意されている。広い空間と簡易ベッドは被災者に最低限の安心をもたらしてくれる

対応に当たった今治市環境施設課の井原 綾さんに話を伺った。

「バリクリーンは、ごみを燃やした際に発生する熱エネルギーを利用して発電をおこなっているため、周辺地域が停電になった場合でも、ごみ処理発電により施設内に電力を供給できるという強みを持っています。緊迫感に満ちた状況でしたが、避難してこられた方には少し安堵いただけたのではないでしょうか。市の職員として今回感じたことは、とにかく初動が大切だということ。誰もがいつでも対応できる体制をつくっていくことの重要性を、あらためて実感しました。」

多機能なごみ処理場として市民の日々の暮らしを支えながら、いまばり環境フェスティバルなどを通して市民の意識向上にも寄与、さらに非常時には防災拠点として機能する。そんなバリクリーンに倣って、全国でフェーズフリーな公共施設が次々と生まれているという。これからの時代、移住や転居を考える際には、フェーズフリーという考え方が重要な指標になってきそうだ。

Text : 清藤千秋(バリクリーン) 編集部(今治市林野火災対応) Photo : 大坪尚人

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