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「ゼロ・ウェイストは、あくまで上勝町を守る“手段”」 徳島の「カフェ・ポールスター」店主がたどりついた答え
「ゼロ・ウェイストは、あくまで上勝町を守る“手段”」 徳島の「カフェ・ポールスター」店主がたどりついた答え
FEATURE

「ゼロ・ウェイストは、あくまで上勝町を守る“手段”」 徳島の「カフェ・ポールスター」店主がたどりついた答え

SDGs先進県として世界から注目されている徳島県。フードハブやゼロ・ウェイストという言葉は、もうご存じでしょう。その言葉を日本に広めた神山町(かみやまちょう)、上勝町(かみかつちょう)は、人口減少で存続さえ危ぶまれる過疎のまちです。にもかかわらず、たえず新しいものが生まれているのはなぜでしょうか。それを支えているのが「人」と「食」でした。今回ご紹介するのは、四国でもっとも人口の少ないまち、上勝町。2003年に自治体として日本で初めて、ごみをゼロにするという「ゼロ・ウェイスト宣言」をおこなったことで、世界中から注目を集めている元限界集落です。ごみをなくすことで社会は変わる──。それを本気で信じる人たちの言葉を聞きに行きました。

母の遺志から自分の意思へ

2003年のゼロ・ウェイスト宣言に尽力したひとりが、上勝町役場に勤めていた東ひとみさんだ。ごみやゼロ・ウェイストに関する業務を任され、宣言後には目標達成のために国内外で考えや知見を広めていくNPO法人「ゼロ・ウェイストアカデミー」も立ち上げた。彼女が見据えていたのは、上勝町を持続可能にすること。そのためには衣食住だけでなく娯楽や文化的な環境も必要だと、娘の輝実さんとともにカフェの立ち上げを準備していたが、オープン直前の2013年に急逝してしまう。

「将来、上勝町には世界中から人が来るようになるから、その人たちをおもてなしするサロンをつくりたいと、母は本気で考えていました」(輝美さん、以下同)

「カフェ・ポースルター」オーナーの東輝実さん。まちのゼロ・ウェイスト推進員も務める

ひとみさんの遺志を引き継ぎ、輝実さんは「カフェ・ポールスター」のオーナーとなった。母の未来予想図どおり上勝町には世界中から人が訪れるようになったが、輝実さんには実感がないという。

天井が高く、開放感のある店は今年で12年目。ゼロ・ウェイスト認証カフェで、地元の食材をつかい、おしぼりは出さない

「とにかくカフェを運営することに必死で。9年目に入ったときに、ふと、ここで何か文化を築き上げてこれたのだろうかと考えて。母の夢だったカフェを、母が亡くなったあとに私がやらないという選択肢はなかったけれど、これが本当に私がやりたかったことなのか、自分に問い直すようになりました。それで、少しカフェから距離を置こうとした時期もあったんです」

不定期で開催される食イベント「ゼロ・ウェイストキッチン」。食材はすべて地元産。この日は動物性食材をつかわないメニューだった。手前はヴィーガン・ボルシチ

近しい人たちに相談すると、「カフェはなくしたらアカン」と口々に言われたそうだ。オープン当初は「こんな田舎で1400円もするランチなんて!」という辛辣な意見もあったが、いまでは上勝になくてはならない存在になっている。そのことを知って、輝実さんは走るスピードをゆるめても、カフェはつづけたいと考えるように。

この日のシェフはフードデザイナーの小林幸さん

「お店に立つ頻度を少なくして、コラムを書いたり、ポッドキャストを配信したり、高校生や大学生たちに講演をさせてもらう機会を増やしました。そうすると、ゼロ・ウェイストって何だろうと、自分の言葉で考えるようになるんです。町内の方に『ゼロ・ウェイストって何でしょう』と尋ねると、ごみの分別と答える人もいれば、上勝阿波晩茶とか、棚田、秋祭りと答える人もいる。ゼロ・ウェイストはあくまで自然や伝統を守る“手段”なんだと気づきました。遠くから上勝にやってくる方々は、ごみの分別だけでなく、なぜ上勝でそれができたかを知りたがっているということも。やはり山のなかで閉ざされた地域なので、伝統的な暮らしや知恵、工夫は根づいているんです。上勝の先人たちは、それを守るためにゼロ・ウェイストという手段をチョイスしたんだとわかりました」

この日のゲスト、フードクリエイターMiica Franさん。以前はシェフとして参加した

輝実さんは、主に海外の人を対象にした滞在型プログラム「INOW(イノウ)」も2020年に開始。上勝に滞在したカナダ人が「上勝は世界で一番美しい」と、輝実さん宅でホームステイしたことをきっかけに、数日の滞在ではなく、暮らすことで得られることがあると考えて始めた。

手づくりのお菓子も量り売り。容器持参を推奨

「その人に合わせて上勝町での体験プログラムをつくるんです。INOWをつうじて、自分にとって何が本当に必要か、どんな暮らしをしたいのか自分に問いかけるような時間にしてほしいと思います」

ゼロ・ウェイストをベースにしながら、自らの価値観を見直したり、新しい発見をもってもらうことを目的とする。INOWはこの地域の方言で「往のう」。つまり「帰ろう」の意味。上勝町の暮らしを、つつましいと思う人がいるかもしれない。反対に、これこそがリッチだと感じる人もいる。「自分にとって理想の暮らしを考える人が増えれば、上勝町だけでなく地球の未来を救う」という輝実さんの言葉は、決して大げさではないのかもしれない。

カフェ・ポールスター

店名の由来は「唯一動かない北極星(ポールスター)のように、ゼロ・ウェイスト運動の中心地となるように」。生ごみは堆肥(たいひ)化するなど食材をムダにしない調理に取り組んでいる。

徳島県勝浦郡上勝町 福原平間32-1

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●情報は、FRaU S-TRIP 2023年4月号発売時点のものです。

Photo:Mai Kise Text:Nobuko Sugawara(euphoria factory)

Composition:林愛子

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