日本一のラーメン店「飯田商店」が、ロンドンの王室御用達レストランで英国セレブたちを唸らせた!
2021年に「TRYラーメン大賞」で4連覇を達成、殿堂入りして以来、全国からファンがつめかける神奈川県・湯河原の「らぁ麺 飯田商店」。店主の飯田将太さんは、日本に逃れてきた難民にラーメンを無償でふるまうイベントを開催したり、ファミリーレストランや野球スタジアムのスタンドのメニューを監修したり、カップラーメンを開発したりと、多方面で活躍中です。そして 2024年夏、ついにイギリスはロンドンにも“進出”! しかも英国王室御用達の超一流レストランで、セレブたちに醬油ラーメンを振る舞うというのです。これは見逃せないと、筆者もロンドンに飛び、一部始終を追いかけました。
チャールズ国王が愛する「モシマンズ」に“ニッポン代表”として降臨!
「らぁ麺 飯田商店」がある湯河原は、いまやラーメンファンの聖地ともいわれ、全国から多くのファンが訪れている。整理券制からネット予約に進化しても、予約開始直後に席が埋まってしまう“幻のラーメン”。この“日本一のラーメン“をつくる飯田さんが、ついに海外進出を果たした……。といっても、海外に出店したわけではない。日本が誇るしょう油ラーメンを、英国王室御用達レストランである「モシマンズ」のイベントで提供したのだ。
ロンドンの会員制プライベートダイニングのオーナー、フィリップ・モシマンさん(写真左)と飯田さん
ロンドンのモシマンズといえば、イギリスのロイヤルファミリーはもちろん、世界中のVIPが訪れる超名門店。1988年に伝説のシェフ、アントン・モシマンによって、スコットランド長老教会を改装して創設されたダイニングだ。チャールズ国王が長年愛用し、ウィリアム王子とキャサリン妃の挙式などのケータリングを担当するなど、王室とは切っても切れない関係を築いている。
館内には吹き抜けの美しいメインダイニングのほか、7室のプライベートルームを用意。それぞれ万年筆のモンブラン、高級車のベントレー、葉巻のダビドフ、クリスタルのラリックという、そうそうたるブランドがデザインを手がけている。
レストラン内の階段に飾られたメンバーの写真。ロイヤルファミリーやマーガレット・サッチャー元首相、ビル・クリントン元大統領、ヤーセル・アラファト元大統領といった各国の要人のほか、マリリン・モンローらハリウッドセレブの姿も
この日はイギリスの伝統的なスポーツ、ポロの大会「The Royal Windsor Cup」決勝の前夜祭がおこなわれていた。試合観戦にかけつけたVIPたちに、モシマンズのコース料理のなかに、飯田商店のラーメンを組み込んで提供するという異例の試み。創始者のアントン・モシマンズの長男にして現オーナーのフィリップさん全面協力のもと、同店の厨房を起点に、ラーメン食材の仕入れから調理までをおこなった。
「さすがは王室御用達の名門レストラン、空間もサービスも料理も超一流。もちろん仕入れ先も食材の管理も完璧で、ずいぶん助けられています。フィリップさんやシェフ、スタッフのみなさんも本当にいい方ばかり。『必要なものがあったら、何でも言って!』とすごくフレンドリーに接してくれています。ラーメンをつくるにはコンロの火力が弱かったり、盛りつけをおこなうサブキッチンが思いのほか狭かったり、いろいろなトラブルはありますが、なんとか“飯田商店のラーメン”を提供できると思います」(飯田さん、以下同)
厨房や地元スーパーで調達した食材をつかって、即興でつくった「トマトと昆布ダシベースの汁なしラーメン」。北海道産小麦ハルユタカのシルキーな麺に、細かく叩いた英国豚ロース肉のチャーシュー、キャビアをたっぷりトッピング
モシマンズのテーブルクロスに、美しく鎮座する醬油ラーメン。さて、セレブたちの評価は?
麺はさすがに日本で製麺したものを持ちこんだそうだが、スープはロンドンで仕込んでいるという。
「スープはここ(ロンドン)に来てから仕入れた豚と鶏でとっています。当然、日本の三元豚(さんげんとん=3品種の豚を掛け合わせた豚)などとは豚の種類も肉質も違いますから、当初は『どうなるかなあ』と不安もあったのですが、仕入れた豚は掛け合わせなどではない純粋の『デュロック種』なので、ものすごく味が濃い! これぞ豚、という濃厚なダシがとれました。動植物は検疫に引っかかるので、豚や鶏も日本から持ち込めずスープにもチャーシューにもこの豚をつかったのですが、うまくいきましたよ。そこに、日本でもつかっている醬油ダレがいい感じにハマったと思います」
コースのメイン料理のひとつとしてラーメンがサーブされると、セレブたちは一様に驚き、いっせいにスマホを手に写真を撮り始める。ヨーロッパにもラーメン店はたくさんあるが、とんこつラーメンが主流だそうで、初めて目にする“ホンモノ”の醤油ラーメンに、皆大はしゃぎだ。それを眺めている日本人としては、ついつい「ラーメンは繊細な食べ物。のびちゃう、早く食べて〜」などと思ってしまうが……。
「初めて見る醤油ラーメンにびっくり、という感じなんでしょう」と飯田さん。そして、おずおずとラーメンを食べ始めるセレブらを見て、手応えを感じたようだ。
「皆さん、食べてびっくり!みたいな顔をされていますね。最初は醸造された醤油の“豆の香り”に戸惑う方もいたようですが、口にしたとたん、笑顔になってくれました」
たしかに、アッという間に醤油ラーメンの皿は空になり、お代わりする人もあらわれた。ここにいる全員が、その味に満足しているようだ。
バックヤードでは、モシマンズの洗練された料理の盛りつけを見学。写真左は飯田さんのもとで修行し独立した、これまた超人気店の青梅市『Ramen FeeL』渡邊大輔さん
各国の要人をもてなしてきた厨房で、日本が誇るラーメンをつくる飯田さんと弟子たち
ニッポン代表とイギリス王室寵愛シェフたちが、究極のもてなし合い
「皆さんにおいしく食べてもらえたようです。よかった!」
そう語る飯田さん、渡邉さん、弟子たちは、セレブたちのディナーの後、モシマンズのバックヤードで同店自慢のコース料理を試食した。セレブ用ディナーと同時につくられたものだから、少し冷めたりはしているものの、サーモンのタルタル、とろけるような極上ステーキ、トリュフ香るリゾットなど英国最高峰のメニューを、紳士の国ならではのスマートなサーブとともに味わった。
「歴史と伝統を守り続けてきた、洗練の極みという感じですね。いろいろな文化を取り入れて発達してきた『型』を守った、芯のある料理です」
ゴージャスな皿の数々に、飯田さん(右端)の若き弟子たちはかなり緊張。「海外に来たのも初めてなのに、こんな貴重な経験をさせていただいて」と感激していた
そして英国が誇るコース料理をいただいたあとは、お返しとしてモシマンズの“裏方”であるシェフ(料理人)やスタッフたちに、醤油ラーメンを振る舞うことになった。同店のピカピカの厨房で、飯田さんの右腕を務めてきた渡邉さんが、麺を茹ではじめる。それを取り巻きながら、食い入るように見つめるモシマンズの料理人、スタッフたち。飯田さんが温めたスープを日本から持ち込んだ丼に注ぎ入れると、その動きを一瞬たりとも見逃すまいと、料理人たちがさらに身を乗り出す。たちまち、厨房じゅうに醬油スープと鶏油(チーユ)の、食欲を刺激する香りが充満する。
生まれて初めて本格的な醬油ラーメンをというモシマンズの料理人とスタッフたち。「麺をすする」という行為に難儀しながらも、フォークを駆使しながら夢中で食べていた
そのかぐわしさにつられて、厨房の外にいたスタッフらも、厨房真ん中のカウンターに集まってきた。飯田さん、渡邉さん、弟子たちが順番にラーメンの入った丼を渡していく。すると皆、最初は戸惑いながらスプーン&フォークを動かし始めるのだが……。
「アメージング!」
「なんだ、このスープは! 何という旨さだ」
「ヌードルもなめらかで最高!」
醤油ラーメンを口にしたとたん、驚く料理人たち。フォークを駆使しながら、全員が“日本一のラーメン”を完食していく。
「いやあ、うれしいですね! 料理人同士、言葉は通じなくても、お互いのおいしい料理を食べていま、心がつながりました。モシマンズではいろいろ勉強させてもらって、さまざまなものを得ましたが、一番の収穫はラーメンのすごさ、可能性を再認識できたこと。おいしいものは、本当に国境を超えるんですね!」
取材・文・写真/萩原はるな
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