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ドイツのサステナブルな街を巡る② 「水力登山鉄道」がある温泉街・ヴィースバーデン
ドイツのサステナブルな街を巡る② 「水力登山鉄道」がある温泉街・ヴィースバーデン
FEATURE

ドイツのサステナブルな街を巡る② 「水力登山鉄道」がある温泉街・ヴィースバーデン

環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2023で世界4位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、ドイツのサステナブルやSDGsをレポートします。第2回は、古くから温泉保養地として栄えてきたヴィースバーデン。マインツから電車で15分ほどのこの地は、水を動力とするエコな「登山鉄道」があるリゾートです。美しい緑とヨーロッパ中のセレブリティが集う優雅な雰囲気を感じながら、サステナブルな街を歩きます。

いたるところで温泉がわき出る

街全体が優雅な避暑地・ヴィースバーデン。19世紀には貴族が集まる社交場として、ヨーロッパ中の王族貴族や文豪、音楽家などの文化人やセレブが滞在したという。現在も、その名残りがいたるところにある。たとえば、1907年にできた「クアハウス」。ドイツ帝国の皇帝ヴィルヘルム2世の命により、古典主義からユーゲントシュティル(アール・ヌーボー)までの様式を兼ね備えて建築された、貴重な建物だ。

クアハウスというと温泉施設をイメージするが、スパはなくカジノやコンサートホールなどが入っている。カジノはドイツ最古のもので、1865年にロシアの小説家フョードル・ドストエフスキーが、一夜で全財産をつかい果たした体験を書いた「賭博者」の舞台となったことでも有名。大金を失い、その借金を返済するために急いで出版社と新編の契約を結んだという逸話がある。映画の舞台のようにエレガントなカジノへ入場するには、パスポートの提示が必須。男性はジャケット着用。スニーカー履きなどカジュアルな装いはNGなのでご注意を。

美しい公園や建造物を眺めながら歩いていると現れるのが、”調理できるほどの熱い噴水”を意味する「コッホブルンネン」。黄色や緑に変色している石から、モクモクと湯気を立てながら、毎分880リットルの源泉が湧き出している。68℃のお湯は、触るとやはり熱い! 次第に熱さに慣れてきたところで、お湯を手にとって腕や顔にピタピタとなじませてみる。こんな振る舞いは、温泉大国・日本に生まれ育った性(さが)なのだろうか。

コッホブルンネンの近くに設置されている、ローマ風の飲泉パビリオン。胃腸によい効能があるといわれており、ペットボトル持参で汲みに来る地元の人たちも多い。手ですくって飲んでみると、思わず眉間にシワが寄るほど苦くてしょっぱい! 温泉分析書によると、ナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム、硫黄が多く含まれているという。日本人にはなじみのある泉質だが、それにしてもこの味は……。

街なかには高級菓子店やブティック、レストラン、カフェバーなどがあり、眺めつつ歩くだけでも楽しい。街の半分以上が緑地帯というこの街は、瀟洒(しょうしゃ)な建物の間に並木道が続き、公園や緑地が多い緑のオアシス。水鳥が羽を休める小川のせせらぎや、木々の葉擦れ音を耳にすれば、ここが都会だということを忘れてしまう。

いまやドイツでもここだけの水力ケーブルカー

街の中心から北へ、公園内を30分ほど歩くと(バスでは約10分)、ケーブルカーの山麓駅がある。1888 年から続くネロベルク鉄道は、世界でも珍しい「水の重さ」で動く超エコ発想のケーブルカーだ。その仕組みはいたってシンプル。井戸の釣瓶のように2台の車両がケーブルで連結されており、山頂駅にある車両には最大約7000リットルの水が注入され、重みでその車両が下の山麓駅へと降りる。すると同時に、山麓駅にあった車両が山頂駅まで引き上げられるというもの。

この仕組みはウォーターバラストと呼ばれる、水の重力を利用した古典的なものだ。電力による運行制御が実施される以前のケーブルカーでは主流のシステムだった。いまはドイツでもここにしか残っておらず、19世紀の先進技術を伝える貴重な存在となっている。地元でも人気のようで、私が乗るときには、地元の子どもたちがちょうど課外授業で訪れていた。子どもたちと同乗して、標高約245mのネロ山の頂を目指す。

急勾配を一気に上り、3分ほどで山頂に到着。そこには青々とした芝生が広がり、ピクニックや散歩を楽しむ地元民の憩いの場となっていた。木の上を歩くような、本格的アスレチック施設も人気のようだ。山頂から少し下がったところにあるテラスからは、山の斜面に広がるぶどう畑とヴィースバーデンの素晴らしい景色を一望できる。

テラスからの風景を堪能していると、木々の隙間から、おとぎばなしに出てくるような金色に輝く玉ねぎ頭のクーポラ(ドーム型の建築物)が見えた。山の中腹まで下ってよく見ると、それは、ナッサウ(ウィースバーデンを首都とした、19世紀のドイツ中西部の小領邦)公・アドルフが建てたロシア教会だった。出産時に亡くなったロシア出身の妻エリーザベトのために建てられたもので、ロシア正教のコミュニティが長年守ってきた。聖堂内は、天井画やイコンで飾られている。見学は有料。残念ながら撮影は禁止されていた。

再びケーブルカーに乗って下山する。ほかに乗客がいなかったため、先頭に立つ運転士(制動手)の横に立たせてもらえた。急勾配や新緑を楽しみつつ、中間地点あたりで登りと下りの車両がすれ違う際に、乗客同士が手を振り合う“儀式”がまたうれしい。

ネロベルグ鉄道は、2本のレールの間に歯型のラックレールを敷設し、車両の床下に設置された歯車とかみ合わせることで登坂する「ラック式鉄道」。基本的に水の重力だけで進むが、常に運転手が乗車、下り時にはハンドブレーキで細かな速度調整をおこなっていた。運転手によれば、「乗車する人数によって注入する水の量を毎回変更している」という。乗客ひとりにつき、水約80リットルと計算するそうだ。130年もの間、こうした地道な作業が繰り返され、安全な運行が継続されている。まさに「生きる鉄道遺産」なのだ。

Text:鈴木博美 Composition:萩原はるな 取材協力:ドイツ観光局 #gtm2024

ーードイツのサステナブルな街をめぐる① 2000年の歴史が息づく「マインツ」を歩く はこちらーー

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