京の伝統“始末の心”を体現する「ザ・リッツ・カールトン京都」の料理
京都の中心部、東山三十六峰を一望する鴨川のほとりに建つ「ザ・リッツ・カールトン京都」。同ホテルでは、京都の人々の間で脈々と受け継がれてきた“始末(しまつ)の心”を大切にした、ゲストの想像の上をいくダイニング体験を提供しているといいます。それは、いったいどんなものなのでしょうか。
イタリアンにも“始末の心”
「始末」とは本来、「はじめから終わりまで」を意味するが、「ものをムダにしない」「倹約する」ことも指す。京都人は子どもの頃、祖父母や親から「しまつせなあかん」と言われ続けて育つともいう。素材を余さず、ちゃんとつかいきる。そんな精神を大切にした京料理が「始末の料理」と呼ばれるゆえんだ。京の家庭で受け継がれている日常料理「おばんざい」は、出汁(だし)を基本に、旬の野菜など季節の食材を余さずつかいきる。そのために創意工夫を欠かさないのが京料理なのだ。
「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」で出されるフォカッチャには、野菜の切れ端などを粉にしたものが練り込まれている
ザ・リッツ・カールトン京都のイタリアン「ラ・ロカンダ」には、藤田財閥の創始者・藤田伝三郎の京都別邸「夷川邸(えびすがわてい)」を移築した部屋がある。靴を脱いで上がる純日本的なつくり。その隣の個室「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」では、6席のゲストのためだけに、エグゼクティブイタリアンシェフの井上勝人さんが腕をふるう。1年を72に分けた「七十二候」をテーマに、特別なシチュエーションで京都の細やかな季節の移り変わりと自然を極上の食材をつかって表現する。
このレストランで使用する野菜類は、井上シェフが信頼を置く、土の健康にまでこだわった生産者から仕入れる。シェフズ・テーブルでは、それら野菜の皮やヘタなどは、乾燥させ、オーブンで焼いて粉状にし、フォカッチャに練り込む。その他、食材の切れ端はコンポストで肥料にし、取引先農家へ届ける。こうした工夫によって、同レストランの食品廃棄物はほぼゼロだという。同ホテルではイタリアンにまで、始末の心が体現されているのだ。
井上シェフは、京都の自然と季節の移り変わりを、上質な食材をつかって表現すると評価が高い
「ここから車で30分も走れば、生命力にあふれたみずみずしい野菜を育てている農家に行けます。そうして日々、生産者さんとコミュニケーションをとり、一緒に料理を生み出しています。京料理の歴史とともに受け継がれてきた朝採れ京野菜はもちろん、命を大切に扱う生産者さんが育てる牛、豚や鶏、獲った直後に船上で適切、丁寧に処理された魚介類。どれもが、このホテルの料理にとってなくてはならない大切なものです。食材は命そのもの。命をムダなくつかい切ってこその料理だと考えています」(井上シェフ)
「シェフズ・テーブル by Katsuhito Inoue」のテーブルを飾る装花は、専属庭師である鈴木耕喜氏によるもの。「七十二候」にのっとり、ホテル内の草花などで飾り付け、京の細やかな季節の移ろいを表現する
フードロスをほぼゼロにした、地産地消の朝食
同ホテルの朝食は、地産地消を重視。たとえば洋食では、宇治市産の「ひらがいたまごWABISUKE」をつかった卵料理、神戸市・弓削牧場の、飼料にまでこだわった牛から生まれた牛乳やヨーグルトを提供している。
宿泊者の8割以上が利用するという人気の朝食。「ワクワクする、楽しみになる朝食」をコンセプトに、地域の厳選食材や郷土の味を取り入れている
「われわれの一番のミッションはサステナブル。できる限り地元の食材をつかうことを重視したメニューづくりをしています。また、当ホテルの朝食はすべてセットメニューでビュッフェスタイルではありません。ビュッフェはオペレーションの負荷が少ないため多くのホテルが採用していますが、多くの食料廃棄を生み出す原因にもなっています。セットメニューにすることによって、食材のロスはほとんどなくなりました。その分、こだわり抜いたクオリティの高い料理を提供できていると自負しております」(副総料理長の小松良平さん)
地産地消、サステナブルを重視する小松副総料理長
サステナブルを体現しているのは、たとえば朝食セットメニューの前菜。愛知県・渥美半島の地下海水を汲み上げて養殖されたサーモンをつかっている。前出の小松副総料理長が解説する。
「排泄物やエサの食べ残しなども濾過され、薬品をいっさい使用しないキレイな水で育てられた、環境負担が少ないサステナブルサーモンです。これも近郊から食材を仕入れることで、フードマイレージ削減につながっています」
その他、ケチャップやマスタードなどの調味料も純国産で揃える準備を進めているという。館内すべて、サステナブルにつながるアイデアに満ちたホテル、それがザ・リッツ・カールトン京都なのだ。
text:鈴木博美、photo:佐藤良一