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年間600万トンの食品ロスを減らすため、考えるべきこと【後編】
年間600万トンの食品ロスを減らすため、考えるべきこと【後編】
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年間600万トンの食品ロスを減らすため、考えるべきこと【後編】

フードロスとは、まだ食べられるのに捨てられる食品のこと。フードロス削減のために、私たちは何をすべきでしょうか。フードロスが起こる仕組みと削減の目的について、食品ロス研究に携わる小林富雄先生に聞きました。

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消費者、生産者、事業者、
みんなで目指す価値共創

小林 あと気になっているのは規格外品。僕は見た目が揃っていることがよいことだとも思っていない。たまに変な形があって「なんだこれ?」って、ちょっと面白がるくらいがいいなと。自然環境の変化を楽しむというか、そういう姿勢があるといいですよね。

FRaU こちらは気にしてないのに、ということも多いです。消費者からのクレームが多いのでしょうか?

小林 規格外に関しては、消費者庁が調査すると75%ぐらいが「形は気にしません」という声があったそうです。けれども一部の業者が少しの傷や型崩れでも生産者に値下げ要請したり、受けつけなかったり。だから規格外品が買う側の「値下げツール」になってしまい、本来の価値を反映しづらくなっています。

FRaU これではダメだと農家さんが出荷する前に廃棄すると聞いたことがあります。

小林 そうですね、そもそも出荷の段ボールに入らないということもあります。ただ、それも産地と売り場が近ければそこまで厳密にする必要はないと思います。最近の、規格外品をつかった商品開発はとてもいいなと思ってるんですけど、目指すべきゴールは「規格緩和」なんです。規格そのものをできる限りなくしていく。ちょっと形が違うからといって過度な値下げ要請は受けないようにできたらいいなと。

FRaU そもそも規格をつくらないのはすごくいいアイデアですね。この話は「ダイバーシティ」の問題と一緒だなと思いました。中身はみんな一緒で変わらないのに、一部の人たちが規格をつくりたがるという構図……。

小林 フランスで、形がいびつなトマトのポスターがあるんですが、おしゃれなんです。「規格外を楽しもう」みたいな声がけで。やはり農家さんも規格外品が捨てられるとモチベーションが下がると思うんです。日本では農業が大事だとか、食料自給率が低いから高めようと言っている割にはそういった矛盾を感じますので、そこを正していく、それに関しては消費者からどんどん声を上げてほしい。規格外でもいいじゃんって。それから小売店では、通常1ヵ月ほど前から何を置くか商談を始めることがあるそうですが、生鮮農産物は1ヵ月先のことなんてわからない。天候にも左右されるし、日々状況は変わる。でも契約しているのに出せないときはどうするかというと、欠品を防ぐために他の市場で買ってきて赤字で出荷します。せめて生鮮農産物はそういうのやめようよと消費者からも声を上げてもらい、社会を変えていきたいですね。

FRaU そんなことになっていたとは! その仕組みをわかっていない消費者が多そうです。生鮮農産物は店に行ってみてのお楽しみ、ぐらいのおおらかさを持ちたいですね。

小林 そういう意味では生鮮ではないんですけど、デンマークの会社が手がけた「Too Good To Go」というアプリが話題です。「捨てるにはよすぎる」という意味ですね。ここに「マジックボックス」というものがあって、飲食店で余った食材をアプリでマッチングして少し安く売るというものです。これがいいのは、消費者は何が入っているかわからないものをちゃんと買うんです。わからないものを楽しめる姿勢がある。つまり、消費者とサービスを提供する側の理念が一致し、関係性ができているから成立する。マーケティング用語に「価値共創」があるのですが、スーパーに行って買い物の仕方ひとつ変えるだけでも、店と価値をつくっていくことになるし、身近にトライできることだと思います。

FRaU 私たちが当事者として、もっと生産や流通、小売りの背景を知って買い物をしなくてはいけませんね。

小林 フードロスを突き詰めると人と人との関係性の問題に行きつきます。本来、つくる側は食べてほしくてつくっている、僕たちは食べさせていただいている、そういった思いや尊敬や感謝の気持ちをどこかに持ってないと関係は崩れていくものです。逆に気持ちがあれば、簡単に捨てることはできない。数字だけを追うのではなく、人間社会の普遍的な価値観という側面にも光を当てなければいけません。そんな本質的なことに気づかせてくれるのがフードロス問題であると思っています。

▼数字で知る、食品ロス問題はこちら

PROFILE

小林富雄
愛知工業大学経営学部経営学科教授、サスティナブルフードチェーン協議会代表理事、ドギーバッグ普及委員会委員長。食品のサプライチェーンから発生する食品ロス研究に携わり、出版、執筆、講演などを行う。近著に『増補改訂新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版)他多数。

●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Artwork:Niky Roehreke Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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