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「旅する料理人」三上奈緒の焚き火料理ワークショップ@黒﨑海水浴場に【前編「水巻き卵焼き」って!?】
「旅する料理人」三上奈緒の焚き火料理ワークショップ@黒﨑海水浴場に【前編「水巻き卵焼き」って!?】
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「旅する料理人」三上奈緒の焚き火料理ワークショップ@黒﨑海水浴場に【前編「水巻き卵焼き」って!?】

野菜、ハーブ、魚、肉、卵……、「おいしい」をかたちにするのは、つかい手の腕前と素材の力があってこそ。持続可能な方法で育てられ、大切に扱われている素材に未来を見出し料理で表現する、そんな食のプロを追いました。「旅する料理人」こと三上奈緒さんは、お金を出せばなんでも買える時代だからこそ、自然の食卓を表現しようとしています。

石川県で出合った
「日本一おいしい卵」

地元の食材をみんなで調達し、焚き火で調理し、火を囲みながら食事をするワークショップ「Around the fire」。この日は石川県加賀市・黒崎海水浴場のビーチが食卓

Farm to Tableという言葉が一般的になって久しい。レストランでつかわれることが多いけれど、Farm to Tableを、自分の体で表現しようとする人がいる。

「旅する料理人」三上奈緒さんは日本各地を旅しながら、そこで出会った農家や漁師、猟師らと交流し、その土地の食材を料理する活動を続けている。最近力を入れているのは、その活動で得た感動や気づきを多くの人とシェアするイベント。2021年夏、石川県加賀市の黒崎海水浴場で参加者とともに食材を調達し、海岸で焚き火して調理、みんなで食べるワークショップ、Around the fireを行うというので、参加させてもらうことにした。

産みたての卵を収穫。堂下夫妻が営む海の家「入のや」では、この卵をつかった卵焼きや天津飯も提供する

一緒にワークショップをおこなうのは、黒崎海水浴場で海の家「入のや」を営む堂下慎一郎さん、亜也さん夫妻。慎一郎さんは地元出身。幼い頃から海に親しみ、素潜りで牡蠣やサザエをとり、魚を突く。調理師免許をもつ亜也さんがそれらを料理している。2015年からは本格的に平飼い養鶏を始め、「山ん中たまご園」として卵の生産もしている。

三上さんが堂下さん夫妻と出会ったのは数年前。石川県の小松市に暮らす友人から「すごくおいしい卵をつくる人がいる」と聞き、堂下さん夫妻を訪ねた。

三上さんが「ベスト・オブ・卵焼き」と評する、出汁を使わず、水と塩だけでつくる「水巻き卵焼き」。卵の甘さがじんわり伝わる

「そのときご馳走になった卵焼きが、出汁を使わず、水と塩だけでつくったものだったんですが、人生のベスト・オブ・卵焼きというほどおいしかった。どうしたらこんな卵がつくれるのかと養鶏のようすを見せてもらったら、さらに驚きで!」

件の水巻き卵焼きを食べてみたら、三上さんの感動がよくわかった。ほんのりした卵の甘さ。メレンゲのように淡くて、口の中でふわぁと溶けていくような心地いい食感。こんなにやさしい卵焼き、たしかに食べたことがない。

慎一郎さんの養鶏を、三上さんは「わらしべ長者」と表現する。じつに言い得て妙で、慎一郎さんは鶏に与えるエサのほとんどを地元の農家や事業者から卵との物々交換で得ている。それも、米は精米で弾かれた規格外のもの。大豆も色や形が悪かったりして市場に出せないものだ。

「山ん中たまご園」は、その名のとおり山の中にある。鶏をケージに入れず、ストレスを減らす平飼い。エサの材料のうち、お金を払って買っているのは牡蠣殻のみ

「コイン精米機で弾かれた米には、たまに石が混じっていたりするんですけど、鶏って歯がないので、地面をつついて食べた石を胃の中に溜めて、それでエサをすりつぶす習性があるんです。石が混じった米はちょうどいいんです」と慎一郎さん。欠かせない動物性タンパク質には、地元で乾燥甘エビをつくっている水産会社がかつて廃棄していたエビのヒゲや、鰹節店で出る削りくずなどをつかう。

「これらは全部、産業廃棄物になるはずだったもの。廃棄するのにお金がかかるので、喜んで譲ってくれます。昔は地域に小さな養鶏場があったので、こうしたものを上手につかっていたんだろうと思いますが、アメリカからトウモロコシが入ってきてからは見向きもされなくなったみたいですね。大規模な養鶏場になると地域内循環だけでエサを賄うことは不可能ですし。おかげで僕のような小規模な養鶏場が譲ってもらえるというわけです」

とはいえ、多種多様な原料をブレンドし、鶏たちが健康に育つエサをつくるまでには、長い試行錯誤の期間があった。

「配合を間違えて栄養不足になったりしたこともありました。配合のバランスを変えたり、混ぜた後に発酵させたりいろいろやってみて、ようやくちょうどいい具合になりました。でも、そうやって考えたり、工夫したりするのも面白いんです」

山ん中たまご園の卵の黄身は淡いレモン色。エサに黄身の発色をよくする原料を入れれば鮮やかなオレンジ色にできるが、鶏の成長と健康に必要なもの以外は加えない

「慎ちゃんの卵って、ぜんぜん臭みがないでしょう? 生卵が苦手だという人はたいてい独特の卵臭さがイヤと言うんですけど、それがない。澄んだ味なんです。どうして?」

三上さんから質問が飛ぶと、慎一郎さんが答える。

「エサに魚粉をつかっていないからだと思う。ほとんどの養鶏場では動物性タンパク質に魚粉をつかっているけど、あれはとにかく臭い。それを食べた鶏が産む卵だから臭くなるのは当たり前。うちではつかっていないから臭いがないのだと思う」

鶏だって生き物だ。体に入ったものが血肉となって、次の世代に受け継がれるのは当然なのだ。

▼後編につづく

PROFILE

三上奈緒 みかみ・なお
栄養士として小学校に勤務後、渡仏、渡米。国内外のレストランで研修する。現在は「旅する料理人」として各地の自然に寄り添う生産者を訪ね、料理を通して生産者と食べる人をつなぐ活動を続けている。https://www.naomikami.com/

●情報は、『FRaU SDGs MOOK FOOD』発売時点のものです(2021年10月)。
Photo:Norio Kidera Text & Edit:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子

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