ラトビア共和国への旅③ 魂を浄化する古代の習慣。ラトビアの森のウェルネスにひたる一日
ラトビアの首都リガから、電車やバスで1時間。森と湖に囲まれた、自然豊かな「ガウヤ国立公園」に到着します。この地で、魂ごと洗い上げるような神秘的なサウナの儀式を体験し、人気の美食レストランへ。食後はキャンドルの揺れるロマンチックな洞窟で果実のワインをいただきます。ラトビア人が大切にはぐくんできた自然への畏敬(いけい)と感謝。その心地いいウェルネスのふところへ。
“人生の転機が訪れる”という神秘的なピルツ
ラトビアには「ピルツ」という伝統のカルチャーがある。火を焚(た)いて、熱した空間で体を温めるもの──と聞くと「あっ、サウナね」と思うのだが、ピルツはもっと神秘的。なんと、ピルツの儀式を受けると人生の転機が訪れる、といわれるほど。儀式っていったい?

「私も週1回、あるいは2週に1回はピルツに行きます」と美しすぎる案内人、リーガ・ガブリカさん。もしやピルツこそ美の秘訣!?
「旅の間に、本格的なピルツを体験するならココ!」と現地ですすめられたのは「ジードレヤス」。ラトビア最大にして最古の公園、ガウヤ国立公園の中にあるウェルネスリゾートだ。

モダンで美しいピルツやガラスのロッジが佇む。そばには白樺の森も
ジードレヤスには3種類のピルツがあって、それぞれ本格的な儀式が体験できるという。その3つとは「ガラスピルツ」「スモークピルツ」「ウールピルツ」。

現代的なラトビア建築の「ガラス・ピルツ」。大きな窓の開放感が魅力

森の清流のほとりにある「スモーク・ピルツ」。燻煙(くんえん)で温度を上げる

羊毛を敷き詰めた「ウール・ピルツ」。遊牧民のパオのようなデザイン
「さあ、どのピルツに入る?」と聞かれ、迷いながらも「世界で唯一無二」と語られていたウール・ピルツへ。ドアをくぐると、内部は木と羊毛の香り。ウールの効果で湿度と温度がちょうどよく保たれ、温泉のような心地いい熱で満たされている。
2時間のリチュアル(儀式)では、ピルツェニクスと呼ばれるマスターが、熱と水、蒸気、植物の力をつかいながら、体や心、魂を浄化してくれるという。

赤いキノコがにょきっ。自然への愛が伝わってくるサウナハット

やさしいピルツェニクスたち。「なんでも言ってね。あなたが快適なのが一番よ!」
木の台に寝そべると、葉っぱの枕から森の甘い香り。白樺やオークの葉を束ねたやわらかい箒(ほうき)で全身をなでられる。さらさら。ふわふわ。泡とハチミツのスクラブでリズミカルに洗われる。ああ、水着を着るんじゃなかった……すっぽんぽん推奨です。
ごおっと押し寄せる熱風にまどろみ、肌にしたたるキラッとした水の冷感で目覚める。脳が深くしびれるような快感。光につつまれるような瞑想タイム。気づけばピルツェニクスの温かい腕に導かれ、プールサイドに立っていた。

キンキンに冷えた氷のようなプールが迫る……怖い
「さあ、ふーっふーっと深呼吸してザブンと頭まで潜っちゃうのよ!」といわれて爪先を水にひたす。ぎゃっ、冷たい。想像以上に。
冷水に浸かった後は、大きなタオルにやさしく巻きとられて「そりゃっ」。窓から勢いよくほうりなげられ(!)、宙空でポヨンと大きなハンモックに抱き止められたのでした。

地上から3mはある天空で整う。天国の練習だ、これは
鏡をみれば、肌はつやつや。瞳もキラキラ。まっさらに洗い上げられた体はすっきりと軽く、森の風にのって舞い上がりそう。原点に戻れたような、この世に生まれ直したような。「ピルツは人生の転機になる」といわれる理由が、ちょっとわかった気がする。
森の中のミシュラン・レストラン 築100年の旧産院で味わう美食
ピルツで芯から整って、お腹がペコペコ。そんなタイミングで訪れるなら、同じくガウヤ国立公園内、リーガトネ村にある「パヴァル・マーヤ」は最高のレストランだ。

もとは産院だった「パヴァル・マーヤ」。築100年以上を経た歴史ある建築
「リガの人たちは週末になると街を飛び出し、自然豊かなこのレストランで美食を味わうのが楽しみなのです。これまで上質なレストランといえば都心部のリガに集中していましたが、プロフェッショナルな腕があれば、どんな場所でも勝負できるのだとパヴァル・マーヤが証明したんですよ」とリーガさん。東京の人が軽井沢の名店においしいごはんを食べに行くようなものかな?
お店の前では、オーナーシェフのエーリクス・ドレイバンツさんが「よく来たね!」と迎えてくれた。

やさしい笑顔のエーリクスさん。リガの名店「3パヴァル・レストランス」の共同創業者兼シェフでもある
「私たちの料理のモットーは、食材の“鼻の先からしっぽまで”くまなくつかうこと。ガウヤ国立公園の恵みを活用しながら、自家菜園の収穫物などをたっぷりと料理に取り入れています」とエーリクスさん。

リーガトネ住民の庭などで採れた野菜やハーブの伝統的な種子を育てる庭
「黄色いカブやサワーチェリーといったラトビア古来の野菜は、いまや絶滅危惧種。そこで、レストランとしてこれを復活させて料理につかっています。調理で出た有機廃棄物は堆肥(たいひ)に変えて、ハーブや野菜の土として再利用しているんですよ」
「さあ、はじめましょう!」とエーリクスさんの笑顔とともにはじまったコースは、ラトビアの深い森と大地、澄んだ湖が目の前に広がるような料理がならぶ。

ジャガイモとイクラ、ケールとラディッシュの前菜からスタート
血行のよくなった体が、みずみずしい野菜でうるおう。温かい牛ブロスのスープがしみわたる。ひと口いただくごとに、自然に還っていくような食事。

左:ジューシーでやわらかい鴨肉ステーキ/ポルチーニ茸と栗のクリームとビーフブロス(牛ダシ)
日本料理に似た気配を感じつつ、初めて見るものも多かった。たとえば、ビーズのように輝く琥珀色の結晶。なめてみると、甘い。そしてしょっぱい。「これは白樺ジュースを煮詰め、塩とブレンドしてつくった自家製塩です」とウェイター。

大麦やネギをもちいた自家製パン。白いホイップバターにかかっているのが例の塩
春になると、奇跡のようにシラカバから甘くて栄養のつまった樹液がにじみだす。たった数週間だけの自然からの贈り物。これを集めてつくる白樺ジュースは地元で人気のドリンクだとか。そんな森の恵みを雲のようなバターにまぶし、パンにのせてかぶりつく。

大地を思わせるドングリをつかったデザートが有名。パリパリのキクイモの皮の薄さと旨みに驚く

左:地元で有名な牡蠣(かき)の殻むきチャンピオン/右:メニュー裏にも生き物への愛がこもる
料理はもちろん、木や陶器の器も美しかった。「お皿が割れたり欠けたりしたらニッポンの“金継ぎ”という手法で修復してるんです」とウェイター。ここにも日本の気配がある。
「ナプキンも新品ばかりではありません。破れたら、つぎはぎをしながら長く大切につかいます。地元の職人さんが丹精をこめてつくってくれた品だから、お客さまも理解してくださっていますね」
森羅万象に神を感じる日本人から見ると、このお店でかわいがられる道具たちは神々しい。お店の裏には、トトロがいそうな森もある。

食品廃棄物の削減や古代種を守る姿勢などが評価され、2024年・2025年のミシュランでグリーンスターを獲得

「自然や生き物を深く理解したい」と語っていたエーリクスさん。小鳥の生き生きとしたアートが並んでいた
感謝する、捨てない、長く愛する。そんなレストランの哲学が、料理の味によく反映されていた。大切に扱われてきた道具で、愛のつまった食材を味わう、その幸せが元気をくれる。外は息が白むほど寒かったけれど、胃の中はずっとあたたかい。
秘密の隠れ家で乾杯! 洞窟のワインテイスティング
パヴァル・マーヤに来たなら、ぜひ立ち寄りたいスポットがある。「面白い体験ができるよ!」と聞いて、歩くこと10分。「リーガトネ・ワイナリー」のショップの前でスタッフと合流し、裏に回るとたくさんの洞窟がぽっかりと口を開けていた。

古代砂岩の断崖に穴が並ぶ。リーガトネ村にはこうした洞窟が300以上もあるらしい
「これらの洞窟は、リーガトネの人たちがコツコツと掘ったもの。暑い夏でも寒い冬でも蔵の中は8℃。おばあちゃんのジャムやリンゴ、ジャガイモ、お酒などを入れる貯蔵庫としてつかわれてきました」とリーガトネ・ワイナリーのスタッフ。
新しい穴を見つけたら、ドアをつければ自分の倉庫としてつかえるといい、「早い者勝ちなんです」と笑う。おおらかだなぁ。
「リーガトネ・ワイナリーのテイスティングにようこそ! 私たちは、ガウヤ国立公園内で収穫されたベリーやフルーツ、植物、花からワインをつくっているんですよ」
扱っているワインは20種類以上。夏は辛口のルバーブ酒、冬は甘いコケモモ酒が売れ筋とか。

甘くてフルーティなベリーワインやフルーツワインなど7種類を試飲
「ぜひ味わってほしいのが『コケモモ』、そして『ブラックカラント』のワインです。コケモモのワインはまったりと甘く、ジビエやチーズとも相性抜群。一方、ブラックカラントは熟すとジャムのような香りを漂わせる果物で、ワインにしても芳醇で美味なのです」

「ホット・ブラックカラント・ワイン」。温めると甘くてスパイシーな香りがふわり。深いコクも自慢とか

イチオシの、華やかな「甘いリンゴのアイスワイン」
ラトビアはリンゴの国でもあって、ほとんどの家が庭にリンゴの木を植えているとか。初夏の庭はリンゴの花の香りに包まれ、夏から晩秋にかけてたくさんとれる。これを大事に貯蔵し、春まで食べて過ごすのが楽しみだそう。
これからの人生、ベリーやリンゴのワインに出合うたびに、炎のゆらめくこの砂の洞窟を思い出しそうだ。

リーガトネ・ワイナリーのショップ。試飲で気に入ったものはここで買える
ピルツで魂を洗い、美食で体を満たし、ワインで心を潤した今回の旅。ラトビアのウェルネスはシンプルで、自然で、さりげなくて、なのにどこまでも贅沢だった。長く愛されたものたちがまとう神々しさから栄養をもらったような一日でした。
Photo & Text:矢口あやは
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