100%再エネ電力で開催するフェス「中津川THE SOLAR BUDOKAN」の凄さ
使用電力の100%をソーラーエネルギーでまかなっている音楽フェスが日本でおこなわれていること、ご存知ですか? その名も「中津川THE SOLAR BUDOKAN」。2012年の日本武道館公演から歴史を刻み始め、翌年以降は岐阜県・中津川市などで開催されているロックフェスです。2023年は9月23日(土)と24日(日)に中津川公園内特設ステージで実施されました。このフェスを主宰し、ファンクロックバンド「シアターブルック」のフロントマンでもある佐藤タイジさんにお話を伺いました(前編)。
子どもも大人も楽しいロックフェス
会場を見渡せば、一面のソーラーパネル。まるでSFの世界に迷い込んだような光景だ。今年で11回目を数えるTHE SOLAR BUDOKANは、太陽光エネルギーを蓄電し、100%ソーラーエネルギーでのフェスを行っている。
ロックフェスをやることイコール、たくさんの量の電力をつかうこと。マイクやギター、キーボードといったエレキ楽器類はもとより、それらの音を出力する数々の機材、ステージを彩る照明や大型のモニターなど、消費電力は莫大になる。これらをあらかじめ準備した蓄電池につなぎ、リハーサルも含めて丸2日間のフェスが行われたのだ。
出演者一覧。新旧織り交ぜたラインナップが楽しい
2日間、錚々たるアーティストたちが演奏するステージは3つ。キャンプサイトやフードエリアのほか、環境問題などについて語られるトークステージも用意されている。今回、あらたにおこなわれたのは「繊維のサーキュラーエコノミープロジェクト」。参加者が持ち込んだ古着を回収し、繊維や紙へとリサイクルしようという試みだ。
「遊んで学べるこどもの国」をコンセプトとした「こどもソーラーブドウカン」は、ファミリー向けの企画だ。沖縄在住のバント・HYと一緒に楽器をつくって演奏したり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのドラマー・伊地知 潔さんにドラムを教えてもらったりなど、子どもたちがプロミュージシャンと交流できる。20歳以上の保護者1人につき、小学生以下は2人まで入場無料というものうれしい。
こどもソーラーブドウカン国王のうじきつよしさん。彼のワークショップも満員御礼だ
タイジさん自身も、小学生の子どもをもつ。
「子どもたちが楽しく過ごしてくれたら、大人も楽しく過ごせるのかなと思っています。子どもたちに再生可能エネルギーだけでこんなことができるのだというのを知ってもらいたいんですよね」(タイジさん、以下同)
こどもソーラーブドウカンでは、水素で動くキッチンカーでの料理教室などもおこなわれた
100%ソーラーエネルギーでフェスをおこなうようになったきっかけとは
第1回は2012年12月20日、日本武道館で開催されたので「THE SOLAR BUDOKAN」。2010年以降、シアターブルックは「日本武道館実行委員会」を組織し、日本武道館でのライブを行うために動いていたという。公演に向けて当時Ustreamでの番組を企画していたが、そのさなかに起きたのが、2011年3月11日の東日本大震災だった。
「3月17日に配信を予定していましたが、震災が起こって武道館どうのこうのと言っている場合じゃなくなった。当時は、電気をつかうことに対していろいろと言われる時期でした。また、被災地では物資がまるで足りない状況だったので、復興支援イベントとして配信することを決めました」
ファンクロックバンド・シアターブルック。写真中央が佐藤タイジさん。自らの名を冠した再生可能エネルギーによる発電所「太陽のタイジ発電所」なども運営している
震災から2ヵ月ほどたったころ、自分自身も世の中も少しずつ落ち着いてきたと感じたという。
「東日本大震災が起きて世界は変わってしまったけれど、自分の夢である武道館でのライブを取り下げる必要はないだろうと思ったんです。でも従来考えていたようなものではなく、まったく別のものでなければ自分も納得できないと考えました」
そして出した結論が、「武道館の電源をすべて太陽光発電でやる」ということ。その理由は、1995年のメジャーデビュー時から歌い続けている代表曲のひとつ「ありったけの愛」にあるらしい。
「“太陽はありったけの愛でできている”と、ずっと太陽のことを歌っている曲です。だからこそこの発想にたどり着けた」
かくして、Ustream配信にて、ソーラー発電でおこなう武道館ライブを発表したシアターブルック。併せて協賛企業などを募ることにした。
「日本を代表するような大企業が協賛を名乗り出てくれたのですが、その条件は一社提供ということ。僕たちは大小を問わず、理念に共感してくれるみんなでやることを望んでいたので、残念でしたがお断りしました」
ほかにツテがあるわけではなく途方に暮れていたところ、協力させてほしいと熱いメッセージを送ってきたのが、岐阜県中津川に本社を置く中央物産という企業だった。
「2011年の秋ごろです。知らない会社だし、僕は日本の原発政策に対してあちこちで文句を言っていたので、ひょっとしてトラップかと思ったのですが、文面から熱を感じたので会いに行ってみたんです」
中央物産は太陽光発電パネルやリチウム蓄電器などを取り扱う企業で、バンドでデビューした経験を持つ専務をはじめ、音楽好きが揃う会社だった。同社の協賛が決まると、それまで様子見をしていた企業なども集まりはじめ、武道館を動かすだけの蓄電池を用意できることになった。
そして、奥田民生さんや加藤登紀子さん、仲井戸麗市さんやCharさんといった、15組以上のトップアーティストが一堂に会するフェスとして「THE SOLAR BUDOKAN」の開催が決定した。
「THE SOLAR BUDOKAN」は2013年以降、日本の音楽フェス発祥の地である岐阜県・中津川などで開催している
写真提供:中津川ソーラー実行委員会 text:市村幸妙
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