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新年に向けて心身をリセット! 福井・永平寺で、1泊2日「起きて半畳、寝て一畳」の参禅体験 
新年に向けて心身をリセット! 福井・永平寺で、1泊2日「起きて半畳、寝て一畳」の参禅体験 
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新年に向けて心身をリセット! 福井・永平寺で、1泊2日「起きて半畳、寝て一畳」の参禅体験 

静寂に包まれた山あいの禅の道場、永平寺(えいへいじ)。日常の喧騒から離れ、自分と向き合う時間がもてるパワースポットとしても知られています。“雲水さん”と呼ばれる修行僧と同じ境内に坐(すわ)り、食し、眠る1泊2日の参禅体験ができると聞き、さっそく同寺の門をくぐりました。凛と張り詰めた空気、磨きこまれた床、命の尊さを実感できる食事──禅の精神が息づく永平寺で、こころとからだを整える体験をご紹介します。

ーー永平寺入門編はコチラーー

トイレに行くのも修行!

曹洞宗(そうとうしゅう)の大本山である永平寺は、1244年に道元禅師が開いた禅寺。厳しい修行道場として、広く知られている。33万㎡という広大な境内には建物が70以上もあり、いまも修行僧たちが暮らしながら修行に励んでいる。修行僧=雲水は、ひとり一畳分の「単(たん)」と呼ばれるスペースで坐禅を組み、食事をし、眠りにつく。生活のすべてが、一畳に凝縮されているのだ。

永平寺での修行の一端を感じられるかと、初心者も参加できる参禅体験に挑戦。「吉祥閣」1階にある受処(うけしょ)で受付を済ませ、エレベーターで3階に上がる。扉が開くと雲水さんが出迎えてくれ、滞在中の過ごし方や注意事項を丁寧に説明してくれた。手洗いを利用する際には、使用の前後に不浄を転じ、清浄(しょうじょう)を司る烏瑟沙摩明王(うすさまみょうおう)に合掌するという。排泄ですら、心を整える修行のひとつだとは!

案内されたのは、畳敷きの大部屋。男女別の相部屋で、今回参加する女性約10名分の布団がズラリと並んでいる。参加者のなかには外国人留学生の姿もあり、坐禅に向けておごそかに身支度を整えている。小声で「よろしくお願いします」と挨拶を交わす参加者たちは、みなすでに穏やかな表情になっていた。

◆15:30 坐禅1回目

坐禅の時間となり、エレベーター前に集合する。移動も修行のひとつで、スリッパの音を立てないように、2列で通路の左側を歩く。禅堂に入る前に、「三進退」と呼ばれる3つの基本作法、合掌、叉手(しゃしゅ)、法界定印(ほっかいじょういん)を確認。合掌は、手を合わせて相手や仏への敬意を示す動作だ。叉手は右手のひらで左手を覆って胸の前で組む。これが室内を歩く際の所作なのだ。法界定印は、坐禅を組む際に両手を下腹部のあたりで重ね、親指の先を軽く合わせる所作である。

坐禅堂に安置されている文殊菩薩

叉手のまま薄暗い禅堂に入り、まずは頭を下げて文殊菩薩様に合掌。それぞれに与えられた一畳分のスペース、単の前に立つ。壁に一礼してから対面の人に合掌し、スリッパを脱ぎそろえたら、坐蒲(ざふ)と呼ばれる丸い坐禅用座布団を静かに引き寄せる。単のヘリは牀縁(じょうえん)と呼ばれる神聖なスペースで、触れないように気をつけながら、後ろ向きで軽く飛び乗るように坐蒲に坐る……のが理想だが、なかなかそうはいかず、せめてドスンと尻もちをつかないようにと注意しつつ挑む。坐るだけで、ここまでの緊張を強いられるとは!

壁に向かって坐禅を組む

無事に坐れたら、坐蒲ごと壁に向かって180度ターン。足を組んで法界定印を結び、まずは息を大きく吐いて吸う「欠気一息」。そして身体を左右に揺らす「左右揺振」をして安定する位置を探す。坐禅は左右両方の足の甲を反対側の太ももに置く「結跏趺坐(けっかふざ)」か、片足のみ載せる「半跏趺坐(はんかふざ)」が基本だが、難しければ載せなくてOK。重要なのは、お尻と両膝の3点でしっかり体を支えることだ。

釣り鐘が3度鳴り、坐禅が始まった。静寂に包まれるなか、目を開けたまま浮かんでくる思考をムリに止めずにただ流す。これが言うは易し、おこなうは難(かた)しなのだ! とりとめのない思考と悪戦苦闘しながら、自らの心を見つめ(ようとす)る。集中力が途切れたら、肩や背中を打って目を覚まし、励ましてくれる「警策」(きょうさく)を希望。合掌すれば僧侶がそれを合図として近づき、首を傾けると警策でたたいてくれる。

◆17:30 薬石(夕食)

夕食会場に掲げられた「五観の偈」。食前に唱える食への心構えが示される

坐禅の後はすみやかに入浴を済ませ、夕食会場に向かう。盆の上に炊き込みご飯と味噌汁、漬物が載り、煮物や胡麻豆腐などの副菜が添えられていた。食事をつくること、食すこともまた、大切な修行のひとつ。命をいただく行為であることを頭に置きつつ、調理や運搬、生産にかかわったすべての人への感謝を込めて、私語を慎んで丁寧に味わう。箸の扱い方や器の持ち方などの作法を守りながら、周囲と食べるペースを合わせつつ食べ進む。どの料理も薄味だが滋味深(じみぶか)く、ぬくもりが心に沁(し)みていく。とくに感動したのが煮物の厚揚げ。「畑の肉」とはよくいったもので、お腹をほどよく満たしてくれた。

◆18:30 坐禅講話・坐禅2回目

坐禅講話がおこなわれる大講堂

食後は、永平寺の副監院(ふくかんいん)による講話の時間。ユーモアを交えつつ、坐禅の本質について心に深く響く話をしてくれた。坐禅は修行の基本。正しい姿勢(調身)、呼吸(調息)、心のあり方(調心)を整えることで、自然に心も静まるという。道元禅師が説いた坐禅は「只管打坐(しかんたざ)」と称されるスタイル。目的も意味も超えて、ただ坐る。坐り方や呼吸法といった“やり方”だけでなく、“どう向き合うか”が大切だという。

講話の後は、雲水たちの入山から下山までの一年を記録したドキュメンタリー映像を視聴。その後、2回目の坐禅に臨む。壁に向かって座り、呼吸と姿勢を意識して、ただ座って呼吸を数える。すると、不思議と時間も周囲の気配も気にならなくなった。いま、この瞬間と呼吸だけに集中する感覚。少しだけつかめた気がした。

◆21:00 開枕(就寝)

最初に通された大部屋に戻り、眠りにつく。

◆5:00坐禅3回目

午前4時45分、振鈴(しんれい)の音で起床。目覚ましのアラームなしで起きられるか心配で熟睡できず、振鈴前に起きてしまった。身支度を整え、5時からの坐禅へ向かう。禅堂へ続く薄暗い廊下を歩きながら、自然と叉手のポーズをとっていることに気づき、ハッとする。早くも修行の成果が!?

起き抜けの早朝坐禅は、坐っているうちに、まぶたが閉じそうになる。合掌で合図しつつ、警策をいただく。背中を叩く前に、板を私の背筋に当て、首の角度など姿勢を整えるよう促してくれる。そうして整った背中を、パン!と的確に打つ。澄んだ音が禅堂に響き、滞っていた血が流れ出すような感覚が広がる。

右側の机に置かれた警策。文殊菩薩の手の代わりとされる

◆6:00 朝課(朝のおつとめ)

雲水さんらとともに読経(どきょう)

坐禅の後は、法堂での朝課諷経(ちょうかふぎん)。参禅者は後方に座り、仏さまへの朝の読経と供養に参列する。道元禅師とご先祖さまに焼香を捧げて挨拶をし、雲水さんが流れるような所作で渡してくれた経本を手に、読経に参加した。

100人を超える修行僧が練り歩きながら読経する「行道(ぎょうどう)」は壮観。読経の声が堂内に折り重なるように響き、その場に身を置くこと自体が、「ありがたい」と感じられるひとときとなる。

◆6:30 諸堂見学、小食(朝食)、最後の坐禅

山門中庭には大きな蓮華型の水鉢が配される。水音が心地よい

朝のおつとめを終えたあとは、山内を見学。前日もガイドツアーに参加したが、雲水さんと回るとまた新たな発見があり、永平寺の奥深さを実感する。

小食(朝食)は、白粥(しろがゆ)にたくあん、梅干し、胡麻(ごま)塩。粥は匙(さじ)でいただくのだが、匙の先は必ず自分の方を向けておくのが作法だそう。胡麻塩はすべて粥に入れて食べるが、これがしみじみおいしい。塩は丁寧に煎(い)ってから、すり胡麻と合わせているという。たくあんと梅干しは粥に入れずに、器を持ち直してひとつずつ口に運ぶ。

昨夜の講話で副監院が語った「食べることは生きること。食べることは殺すこと」という言葉が、しっくりと心に落ちていく。今後は、日々いただく命に感謝して生きなければ! 「心を伴わせる食事とは、こういうことなんだ」と、日ごろの早食いを反省する。

朝食後は最後の坐禅。20分だが、とても濃密な時間を過ごせた。

◆8:30 感想文作成 茶話会、下山

最後に1泊2日の感想文を提出する

最後の坐禅を終え、副監院との茶話会(さわかい)へ。副監院は参加者一人ひとりの感想に耳を傾け、丁寧に応えてくれた。厳しい修行が待っていると覚悟して臨んだが、それほどでもなく、予想以上に多くの気づきを与えてくれた。下山するや、押し寄せてくるまちの喧騒。また日常が始まるのかと少しガッカリしつつも、永平寺から現実に立ち向かう力をもらえた気がした。

ーー永平寺入門編はコチラーー

photo&text:鈴木博美

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