被災地・宮城の「にしき食品」と東京の小学校6年生たちがつくったレトルトカレーを、みんなで食べよう!!【後編】
1月22日は「カレーの日」! 東京の豊島区立豊成(ほうせい)小学校では、この日「夢のカレーお披露目会」が開かれました。前編でお伝えしたとおり、同校の6年生たちが2種類の“夢のレトルトカレー”を考え、宮城県のレトルト食品メーカー「にしき食品」など、プロたちと1年間かけて商品の形にまでこぎつけたものを、全校生徒が給食として、おいしく食べたのです。【後編】
「バターりんごカレー」と「親子カレー」が商品になった!
「学校のカレープロジェクト」として、にしき食品のブランド「ニシキヤキッチン」や「無印良品」の経営母体「良品計画」、パッケージづくりなど印刷の専門家「TOPPAN」3社の“プロフェッショナルな大人たち”と一緒に、1年間レトルトカレーづくりに取り組んできた豊成小の6年生たち。6年1組は「バターりんごカレー」、2組は「親子カレー」を、それぞれ商品の形にまで高めていった結果は──。
レトルトカレーがお披露目されたのは、2025年1月22日。同校体育館に全校生徒が集まり、まずはプロジェクターに、6年生考案のカレーが宮城のニシキヤキッチンの工場でつくられるようすを収めた動画を鑑賞した。

ニシキヤキッチンの工場で次々とパッケージングされていく「親子カレー」
すると、児童がいっせいに「あっ、校長先生!」と大声を上げる。そう、動画には豊成小の山本知範校長はじめ、授業を担当した企業の方々がサプライズ登場していたのだ(下写真)。顔と手以外の全身を覆う “つなぎ”を着て味見をする校長たち。たびたび紙コップでカレーを口にしては、うんうんとうなずく。カレーの出来に大いに満足しているようだ。できたカレーは、どんどんパッケージングされていく。そのようすを、児童らは食い入るように見つめていた。

にしき食品工場でカレーの味見をする山本校長(右端)と授業を担当した良品計画の担当者
動画鑑賞後は、にしき食品の菊池洋会長から同校へ、完成したレトルトカレーの“贈呈”がおこなわれた。これまで3回試食を繰り返してきた6年生だが、自分たちがつくったカレーが実際に商品としてレトルトパウチされたものを見ると、あらためて感動するようだ。そしていよいよ、みんなが楽しみにしていた給食タイム! 5、6年生は体育館に残り、4年生以下は各教室に戻って、完成したカレーでの給食が始まった。

給食係や栄養士の先生らが、並ぶ児童にカレーを配る
6年生の代表者2名が「いただきます!」と大声で言うと、みんながいっせいに食べ始めた。体育館のプロジェクターには、低学年クラスの模様が映し出されており、やはり皆、大盛り上がりでモリモリ食べている。「おいしい!」と、全員が笑顔! アッという間に給食をたいらげた児童が「おかわり!」と、また配膳の机の前に列をつくる。そして、その行列は見る見るうちに長くなっていった。

にしき食品の菊池会長(壇上)も、豊成小児童たちの元気さに驚いていた
味だけでなくパッケージのデザインも試行錯誤で
6年生たちは、このプロジェクトを通じて、どう感じたのだろう。
「具材の量やルーのとろとろ感をどの程度にするのか、甘みや出汁感、スパイスの香り具合など、少しでも違ってくるとバランスが変わってしまうので、それを決めるのが大変でした」
「パッケージは1色か2色か、色は濃くするのか薄くするのか、試行錯誤しました。鶏に似合う色や卵をイメージさせる色を、皆で考え、意見を出し合いました」
「商品をつくるにあたっては、(講師となった、にしき食品、良品計画、TOPPAN社員らの話を聞いて)いろんな工夫がされていることがわかりました。今後、ポップやパッケージを見るときは、どういう工夫がしてあるのか考えてみたいです」
「たくさん売りたいので値段を安くしたいと思っていましたが、そうすると利益があまり出なくなってしまうと学びました。いろいろと話し合った結果、多数決で590円に決まりました。価格決めがいちばん難しかったです」
「商品をつくることは難しかったですが、これまでにない経験ができて楽しかったです。どうやったらお客さんが買ってくれるのかを考えることが、勉強になりました」
皆、声を弾ませながら元気に答えてくれた。

商品ができるまで、パッケージの色みやデザインについてもたくさん話し合った
パッケージにイラストを採用された児童は、こう喜びを語ってくれた。
「自分なりに考えて、カレーにつかった素材が何か、買ってくれる人に伝わるように描きました。私の絵が選ばれてうれしかったです。親もすごく喜んでくれて、親戚じゅうに配ると言っています」

右がバターりんごカレー。「濃厚な味です。子どもから大人までおいしいと思ってもらえるように考えました。ご家族で食べてみてください」(6年1組の児童)。左の親子カレーをつくった2組の児童は、「ちょっと辛いですが、1年生でも食べられるくらいの辛さにしてあります。親子丼のような味わいを感じてみてください」と語ってくれた
先生たちは、このプロジェクトで何を発見し、感じたのだろうか。
「子どもたちはこの授業を通じて『味の好みや感じ方などは、人によって違うんだ』と気づいたようです。それぞれが多様性を肌で感じられたのではないでしょうか。意見がまとまらないときは投票など多数決で決めましたが、必ずしも自分の思うような結果にならなかった児童も、気持ちに折り合いをつけて次の行動に移れるようになり、成長を感じました。『学校外の大人たちが本気で自分たちと向き合ってくれる』時間も、貴重な経験だったと思います」(6年1組の担任・加藤隆志さん)
「学校でもキャリア教育をおこなっていますが、お仕事をされている方々とリアルに触れ合えたことで、新たな職業観が培われたと感じています。良品計画本社で授業を実施したことで、店舗の全体を俯瞰(ふかん)して見られる力がつき、視野が広がったようです。子どもたちの成長は無限なのだと、あらためて感じ、教員としてもふだんの授業では得られない学びができて幸せでした」(6年2組の担任・立野忠利さん)

良品計画本社で実施された授業では、売り場に掲げるPOPデザインやキャッチコピーを考えた
子どもたちがつくったレトルトカレーは、2025年2月20日から豊島区内にある4店舗を含め、「無印良品」9店舗と、ニシキヤキッチンオンラインショップや直営店で販売される。
「6年生がつくったポップも、実際にお店で使用しています。ぜひ、見にきてください」(良品計画・神宮隆行さん)
Photo:にしき食品、市村幸妙(体育館で撮ったもの) Text:市村幸妙