TOKYO商店街 再生ストーリー1 「つながり」を生み出し続ける「ハッピーロード尾山台」のプロジェクト(後編)
碁盤の目に整備された住宅街と、東急大井町線・尾山台駅を中心に南北に広がる商店街がある東京・世田谷区の尾山台。「おやまちプロジェクト」では、商店街「ハッピーロード尾山台」を中心に、地元住民、小・中学校、大学が垣根を越えてゆるくつながり、さまざまな試みを成功させてきました。後編では前編に引き続き、「心地よく住み続けられる街づくり」を目指した取り組みの継続の秘訣をレポートします。
「つながりの数珠つなぎ」から次々と取り組みが
洋品店の3代目と大学教授がスタートさせ、徐々に盛り上がりを見せていった「おやまちプロジェクト」。やがて東京都市大の学生たちが、自主的に「つながるホコ天プロジェクト」をはじめた。
毎週水曜日、ハッピーロードの歩行者天国タイムに人工芝を敷き、子どもたちや地域住民とけん玉で遊んだり、将棋を指したり……。机やイスを出して急ごしらえのオープンカフェにすることもある。
「発足2年目ともなると、おやまちプロジェクトを通じてつながった人たちが、数珠つなぎのように次々と新しい試みをしてくれるようになりました」
ワークショップやサロンなどで仲良くなった人たちから「仕事帰りにふらっと立ち寄れる飲み会以上イベント未満な飲みの場をつくろう」という声があがり、大人の交流の場として「Barおやまち」を定期的に開催するようになった。「おやまちサロン」のある参加者は、「いつかは子ども食堂をやりたい」という想いを周囲に語り、それに「Barおやまち」の参加者が共鳴して「おやまちカレー食堂」がスタートした。子どもはひと皿100円でカレーライスが食べられる。
さらに、商店街の空き店舗を「おやまちプロジェクト」で借り上げ、誰が、どんな過ごし方をしてもいいスペース「おやまちベース」として2ヵ月限定で解放もした。
「おやまちベースには都市大生が常駐していたので、近所のおばあちゃんがスマホの使い方を習いに来たり、かと思えばリモートワークの場にしている方もいたり。『将来はパン屋をやりたい』という人に『まず手始めに、ここでやってみたらどうですか』とすすめたところ、本当に臨時のパン屋を開いたりしてね。ボードゲームを250種類持っているというゲームマニアが『ボードゲームカフェ』を開店したこともありました」
「出会う、つながる」→「仲よくなる」→「想いを語る、聴く」→「共感する、集まる」→「動き出す」。そしてまた、新たな活動が次の出会いを生む。高野さんらはこの流れを「おやまちサイクル」と呼び、誇りに思っている。
コロナ禍でもプロジェクトは止まらない
コロナ禍においても、おやまちプロジェクトは止まらない。2020年には参加者がオンライン会議に加わったまま、各々好きなことをして過ごす「おやまちベースONLINE」を立ち上げた。オンラインカメラの前で雑談している人、ただ本を読んでいる学生、夕食をつくっている主婦……。地元の人中心だが、オンラインだけに北海道や福岡などからも参加者が集まった。さらに「おやまちカレー食堂」から派生した、困窮家庭に対するフードパントリー(食糧支援)の取り組みもスタートした。
軌道に乗った「おやまちプロジェクト」には、小・中学校や企業から、新たな企画が次々と舞い込んでくるようになる。
「地元の中学校からの依頼で、実践的な力を身につけるプロジェクト型の授業として、『地域の中にある実際の課題を中学生に解決してもらおう』という授業を行いました。ポイントは授業だけでは終わらず、そのアイディアを実行してもらったこと。たとえば『尾山台に住む小学生が自分のおこづかいで本を買いたくなる方法を考えてください』という書店からの課題に対し、中学生たちが考えた『雲の上の本屋さん』を、実際に書店に開店してもらいました」
そして2022年。発足5年弱で25種類以上の取り組みを行ない、延べ8000人近くが参加した「おやまちプロジェクト」は成熟期を迎えた。タカノ洋品店はリノベーションされて「タタタハウス」となった。一部洋品店スペースは残しつつ、カフェ&バーにしたり、レンタルもできるフリースペースを広く取った。まさに、プロジェクトのさまざまな取り組みに対応できる空間だ。
「街づくりは一朝一夕でできるものではなく、先人からの流れを受け継ぎ、次の世代へとつなぐもの。仮に私たち発起人がいなくなっても、プロジェクトがどんどん生まれていく、いまの体制を維持できれば、尾山台はより豊かな街になっていくと確信しています」
text:奥津圭介
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