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やんばるの集落と夜の森を訪れる、沖縄エシカルトラベルのススメ【後編】
やんばるの集落と夜の森を訪れる、沖縄エシカルトラベルのススメ【後編】
NATURE

やんばるの集落と夜の森を訪れる、沖縄エシカルトラベルのススメ【後編】

青く美しいサンゴ礁の海、多様性に富んだ動植物が生きる、やんばる(山原)の森、沖縄そばやゴーヤチャンプルーなどの郷土料理、三線(さんしん)や島唄などなど、魅力がいっぱいの沖縄県。国内外から熱い視線を集める沖縄では、「エシカルトラベルオキナワ」が推進されています。このプロジェクトは、「地域と過ごす旅」をコンセプトに、人や社会、環境に配慮した優しい観光先進地を目指すもの。そんな旅を体感するため、沖縄北部に広がる世界自然遺産、やんばるの森を訪ねました【後編】。

ーー前編はこちらーー

やんばるのちいさな集落でとっておきの体験を

沖縄本島の北部に広がるやんばるは、特有の生態系をもつ、世界的にも希少な“奇跡の森”。国頭村(くにがみそん)、大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)にまたがる地域で、あわせて43の地区があり、1万人ほどの人々が住んでいる。ノスタルジックな赤瓦の古民家が寄り添うように建ち並び、「森も海も集落のうち」という価値観のもと、自然との共生を続けている。そんな集落に宿泊し、伝統文化を体験できる宿が「やんばるホテル南溟森室(なんめいしんしつ)」だ。

やんばるの各集落は高齢化と過疎化が進んでおり、空き家問題も深刻だという。南溟森室ではこうした空き家や空き地を活用し、一棟貸し切りのプライベートステイを提供している。まずは、シェルパ(案内人)に連れられて集落を散策。車道から集落に入ると、青々と茂るフクギの並木に彩られた細い路地が、それぞれの民家へと続いていた。

一棟貸しされているモダンな沖縄建築の平屋。入り口に飾られている赤瓦は、かつての家主から「何かに役立ててほしい」と譲られたもの

迷路のようなフクギの路地を進み、集落の方々が住む古民家をいくつか通り過ぎ、伝統行事や豊年祭などがおこなわれる神聖な場所や井戸、かつて共同風呂としてつかわれた場所などを巡る。集落の奥にはやんばるの森が広がっており、かつては山の斜面に段々畑が開かれていたという。森は長年、薪や炭の供給場所でもあった。

「やんばるの暮らしには、山や海の恵みが欠かせません。家々を取り囲むフクギにもさまざまな働きがあり、防風や防火林として機能しています。フェンスや天然のカーテンでもあるほか、フクギ染めとして染色にも活用されてきたんですよ」(シェルパの上原里沙さん)

同施設では、ネイチャーガイドツアーや沖縄伝統の木彫りの船「帆かけサバニ」によるクルーズ、地域のアンマー(お母さん)たちによる郷土料理教室など、土地の伝統文化を体感できるアクティビティを用意。庭先のかまどでお米を炊いて食べたり、地元で愛されている食堂で夕食をとったりと、ならではの食体験も人気だ。

地元のアンマーによる、カラフルで素朴なやんばるグルメ

この日は、地域のアンマーによるやんばる家庭料理のレッスンに参加。疲れた胃腸にもやさしい、地元食材を活かしたシンプルな食事をつくってお重に盛りつけていった。内容はグルクンのムニエル、ドラゴンフルーツでピンクに色づけした豆腐で和えた苦菜、はんだま(水前寺菜)の炊き込みごはん、パパイヤや島ニンジン、昆布などの煮物、ミミガーときゅうりの酢みそ和え、島らっきょうのカツオブシかけというもの。お腹いっぱい食べても、身体も心も軽やかなのが不思議だ。やんばるの山海の恵みに満たされる体験だった。

飛べない鳥「ヤンバルクイナ」を探しに、夜の森へ

日が暮れかけたところで、やんばるの森を訪れるナイトツアー「保全体験型ナイトツアーAKISAMIYO」に出発! 森の生態系を学びながらレンジャー(自然保護官)のような体験ができる、注目のツアーだ。

琉球列島の奄美大島以南に分布する、日本最大級のシダ類ヒカゲヘゴ。やんばるの森の日陰の斜面に多く見られる

ナイトツアーのもとになっているのは、2011年からおこなわれている林道パトロール。ゴミの不法投棄や珍しい動植物の採取・盗掘などからやんばるを守るために、地域住民が立ち上がった取り組みだ。ツアーではそのモニタリングに参加、やんばるの森の保全と調査に協力できる。

ネイチャーガイドの妹尾望さん。「林道パトロールを通じて知った生きものや星空などやんばるの魅力を、より多くの方々に知ってもらいたい」と語る

情報が流出すると密猟につながる可能性があるため、現地に到着するまで行き先が明かされないミステリーツアー。夜のやんばるの森を歩きながら、動植物の声や姿をチェックし、GPS機器に登録していく。どこでどのような発見をしたか記録、蓄積していくことで、密猟のトラップの設置場所や希少動物のいるところを分析できるという。

外来種を持ち込まないように靴底泥を落とし、山中腹の神社で山神様にお祈りをして、いざやんばるの闇に入る。車から山道に向かう途中、天然記念物ヤンバルクイナの泣き声をキャッチ! このやんばるの大スターは、夜でも活発に活動しているのだとか。残念ながら姿は見えなかったが、確かに存在を感じた。すぐさまGPSに登録する。

「足元に注意してくださいね。木の根に引っ掛けて転ばないように! 生きものがいたら知らせてくださいね。野猫や犬は見つけたら、保護して里親を探して引き渡しています。そうしないと野生化して、生態系を壊してしまうんです。やんばるに来ないと見られない大型のシダ、ヒカゲヘゴは、ゼンマイの部分は食べられるんですよ。あっ、ここにザトウムシがいますね。ジブリ映画の『千と千尋の神隠し』に出てくる釜爺のモデルになったといわれている生きものです」

妹尾さんの話を聞きながら、森に分け入っていく。やんばるではヘビもカエルも冬眠しないそうで、あちこちからカエルとおぼしき鳴き声が聞こえてくる。見上げると、木々と雲の隙間にいくつもの星がきらめいていた。

国内最大の野ねずみにして絶滅危惧種のケナガネズミの食事跡。鉱物の松ぼっくりをかじった通称「山のエビフライ」で、見つけたらすかさずGPSに登録する

妹尾さんは、年間100日ほど夜の森に入り、パトロールとモニタリングを続けている。それでも、ヤンバルクイナやケナガネズミなどの希少動物に会えるのは10日に1回ぐらいなんだとか。残念ながらその「1回」にはあたらなかったが、夜の闇に目を凝らしながらヤンバルクイナの声に耳をすませつつ、ケナガネズミの痕跡を探し、探検気分で歩くのはとても楽しかった。

「やんばるを調査・観察して13年になります。何度訪れても、季節や気温、天気などによって森のようすが変わるので、いまだにどの道を歩いてもはじめての瞬間があり、飽きることがないんですよ」(妹尾さん)

ナイトツアーはやんばるの森の魅力だけでなく、人と森との関わりも感じられる絶好の機会。奥深いやんばるの魅力に、すっかり魅せられた1日だった。

Text & Photo:萩原はるな

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