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世界自然遺産・沖縄「やんばるの森」を、カリスマガイド+電気バスと歩いてみた!
世界自然遺産・沖縄「やんばるの森」を、カリスマガイド+電気バスと歩いてみた!
NATURE

世界自然遺産・沖縄「やんばるの森」を、カリスマガイド+電気バスと歩いてみた!

青く美しいサンゴ礁の海、多様性に富んだ動植物が生きる、やんばる(山原)の森、沖縄そばやゴーヤチャンプルーなどの郷土料理、三線(さんしん)や島唄などなど、魅力がいっぱいの沖縄県。国内外から熱い視線を集める沖縄では、「エシカルトラベルオキナワ」が推進されています。このプロジェクトは、「地域と過ごす旅」をコンセプトに、人や社会、環境に配慮した優しい観光先進地を目指すもの。そんな旅を体感するため、沖縄北部に広がる世界自然遺産、やんばるの森を訪ねました。

飛べない鳥「ヤンバルクイナ」が暮らす、緑深き亜熱帯の森へ

沖縄本島の北部に広がるやんばるは、国頭村(くにがみそん)、大宜味村(おおぎみそん)、東村(ひがしそん)にまたがる国内最大級の亜熱帯照葉樹林。特有の生態系をもつ、世界的にも希少な「奇跡の森」として知られている。深い森の中には多くの動植物が生息・生育しており、2021年7月にはユネスコの世界自然遺産に登録された。森の案内人を務めるネイチャーガイドの上開地(かみがいち)広美さんによると、重要なのは森の”中身”だという。

「やんばるの森の魅力は、その生物多様性にあります。世界自然遺産に登録されたのも、森の”中身”の豊かさが評価されたから。森林公園ツアーでは、私たちツアーガイドがその魅力を解説しながら、環境への負荷が少ないEVバスで巡ります」(上開地さん、以下同)

さっそく「やんばる電気バス」に乗り込んでツアーに出発! 車体にはやんばるに棲む動植物の姿が描かれ、「ヤンバルクイナなど、珍しい生きものに会えるかな?」と気分が盛り上がる。

ツアー用に改良されたCO2を排出しないEVバス。ネイチャーガイドの上開地さんは千葉県出身で、やんばるの森に魅せられて2011年に国頭村に移住。「やんばる野生生物保護センター ウフギー自然館」に9年間勤めたのちに退職し、現在は人気ネイチャーガイドとして森の魅力を伝えている

「やんばるの森の約半分はブナ科のイタジイで構成されていて、モコモコとした樹冠から『ブロッコリーの森』とも呼ばれています。日当たりのいい尾根には日の光が好きな植物が生え、谷には日陰が好きな植物が育ち、海が近い山の斜面には潮風に強い植物が根を張るなど、構成する樹種が場所によって変化。やんばるでは琉球時代から林業が盛んで、首里城もやんばるの木を船で運んで建設されたんですよ。火事で焼けてしまった首里城はいま再建中ですが、それにも、やんばるの材木が一部つかわれています。沖縄北部の地形は平地が少ないので、昔から平地に人が住み、集落周辺の山の斜面には段々畑がつくられました。いまは斜面に畑をつくる必要がなくなり、『若い森』として自然に還っています」

バスに揺られながら上開地さんの解説を聞くうちに、沖縄本島で一番高い山「与那覇岳」の中腹に到着。

「与那覇岳は標高503m。本島では最高峰ですが、634mの東京スカイツリーより低いんです。さあ、バスは国頭村と大宜味村を縦に走る大国林道を進み、長尾橋に到着しました。ここでバスを降りて、橋を散策してみましょう。この橋を境に山手側一帯が世界遺産エリアに登録されていますが、森を一望しても、その境界線はわかりませよね。遺産に指定されるほど健全な生態系をもつ森が、人々の暮らしの側までつながっているところが、やんばるの魅力のひとつなんです」

360度パノラマが見渡せる橋上は、とても開放的。稜線に沿って広がる、モコモコとした濃い緑のブロッコリーの森に圧倒される。四方八方からいろいろな種類の鳥の声が聞こえ、なんともすがすがしい。

橋から下を覗くと、谷ではシダの仲間ヒカゲヘゴが葉を広げていた。日の当たる尾根にはイタジイが、ジメジメした谷にはヒカゲヘゴが見え、上開地さんの解説どおりだと納得。話を聞く前と後では、森の見え方が変わってくる

ふたたびバスで移動して林道に戻り、森の中を散策。上開地さんによると、沖縄本島には肉食哺乳類がおらず、食物連鎖ピラミッド上にいるのはハブやカラス、リュウキュウイノシシなどだという。ピラミッドというよりは、タワーマンションの上層階にいろいろな生きものが棲んでいる状態。やんばるでは、日本中の動植物の約25%がみられるといっても過言ではないそうだ。

「とくに鳥やカエルは種類が豊富で、鳥類は日本にいる種の約半分、カエルは4分の1くらいの種類が棲んでいます。やんばる3村地域の面積は日本全体のわずか0.1%。狭い地域に、いかに多様な生物が棲んでいるかがわかるでしょう。沖縄は亜熱帯に位置しているので冬が比較的暖かく、カエルは冬眠しないんです。おもな繁殖期は夏と冬で、いろいろなカエルの鳴き声が1年中聞こえるんですよ」

固有種として有名な飛べない鳥ヤンバルクイナは、肉食哺乳類の天敵がいない環境だったため、飛んで逃げる必要がなかったという。そこで一生懸命走る生活をしていたところ、進化の過程で飛べない体と強い脚ができあがったそう。地上に小動物や木の実などのエサが豊富なにあるため、飛べなくでも困らないんだとか。

「そのほか、キツツキの仲間ノグチゲラや小型の猫ほどの大きさがあるケナガネズミ、緑に金紫色の斑点が美しいオキナワイシガエル、日本一大きい甲虫ヤンバルテナガコガネなどの固有種が、この深い森の中に生息しています」

森で出会ったシリケンイモリ。捕まえられてビックリしたのか、”決めポーズ”のまま固まってしまい、とてもかわいらしかった

やんばるを調査・観察して13年の月日を数える上開地さん。いまだにどの道を歩いてもはじめての瞬間があり、飽きることがないとか。

「やんばるの特徴は、亜熱帯にある森であること。世界的に亜熱帯といえば、砂漠など森がないエリアがほとんどなんです。しかし、ここには森が育つために欠かせない美しい水がふんだんにあります。沖縄周辺を流れる温かな黒潮のおかげで雲が発生しやすく、東京の倍近くの雨が降り、霧もかかりやすい気候。植物が豊かに育ち、生態系の土台を支えているんですよ」

――後編では、やんばるの夜の森を訪れますーー

photo&text:萩原はるな

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