世界中のクジラが“出産と教育”のためにやってくる! 野生動物の楽園「ロスカボス」の海
メキシコ西部に広がる、全長1250kmのバハ・カリフォルニア半島。その最南端にあるリゾート、ロスカボスは、北米大陸のなかでもサステナブルな取り組みにもっとも積極的なSDGs先進エリアです。太古から受け継がれる原始の森と野生動物がいきいきと暮らすことから「北米大陸最果ての楽園」とも呼ばれるこの地を、ライターの仁田ときこさんと写真家・かくたみほさんが訪れました。
太平洋と世界遺産のコルテス海が交わる地、北米大陸最南端に位置するロスカボス。年間旅行者の多いメキシコを代表するリゾートでありながら、その名を知る日本人は意外に少ない。
日本から直行便でメキシコシティやロサンゼルスに向かい、そこから乗り継ぎ便でロスカボス国際空港(SJD)までは約2時間。降り立ったロスカボスは暑すぎず寒すぎず、非常に過ごしやすいカラリとした気候だった。
注目すべきは、この地が北米で最もサステナブルな取り組みが進むエリアだということ。ロスカボスが位置する南バハ・カリフォルニア州の42%は自然保護地域に指定され、ロスカボスに点在する25ヵ所のビーチは海の国際環境認証「ブルーフラッグ」を獲得している。これは、国際環境教育基金が(FEE)が実施するもので、25という数字は北米最多だ。
太古から脈々と受け継がれるロスカボスの海は、世界屈指の野生動物の宝庫。約900種の魚が住み、なんと、そのうち90種が固有種なのだ。クジラやアシカといった海洋哺乳類も、全世界の約4割にあたる種が生息するというから驚きだ。
この計り知れないプリミティブな海で、旅行者は訪れるたびに何かしらの野生動物と出会える。あまりに高確率で遭遇できるため、フランスの海洋学者でダイバーの父とされるジャック・クストーは「世界の水族館」と絶賛したほど。
世界各地でビーチクリーンが浸透し、美しい海を維持しようと多くの自治体が取り組むいま、その模範となる海洋の現状を知りたい一心で、私たちはロスカボスのエコツーリズムに参加した。
ガイドを務めてくれたのは、ホエールウォッチングなどのエコツアーを運営する「Proyecto Cetáceo」発起人のセシリアさん。20代の若さでロスカボスの海を知り尽くす
ロスカボス最南端にあるバハ・カリフォルニア半島は、地殻変動によってメキシコ本土から分裂し、太平洋とコルテス海(カリフォルニア湾)に囲まれる珍しい地形だ。その稀有な地形のおかげで、豊かな生態系が途絶えることなく育まれている。
毎年12〜4月、地球最大級の哺乳類・クジラは、ザトウクジラを筆頭に、シロナガスクジラやコククジラなどが繁殖と子育てのため、この海域にやってくる。私たちがホエールウォッチングツアーに参加した日は、母ザトウクジラが何度も海面に尾を打ちつけながら、「ほら、こうやって仲間とコミュニケーションを取るんだよ」と、自分の子どもに教えていた。さらにそこから、ダイナミックに海面を飛び、何度も子クジラに潮の吹き方を見せるのだ。
目前で繰り広げられるこの母と子の愛ある姿は、まさに「一生のうちに一度は見てみたい光景」。これを目にすると、こうした野生動物の営みを絶やしてはいけないと、誰もが思いを強くすることだろう。
さらに、ツアーの船が進むと、イルカたちが船のあとを追ってきた。ロスカボスを象徴する奇岩「エル・アルコ」に向かう途中で、アシカの日光浴も観察できた。まさに、野生動物の楽園!
そして私たちのガイド、セシリアさんは、海にごみが浮いているのを発見すると、必ず船を止めてそれを拾う。「この場所で暮らす人間なら、当たり前の行動ですよ」と彼女。このドラマティックな楽園のいまは、ラッキーが重なってあるわけではない。ロスカボスの抜けるような青空とサファイヤブルーの海は、多くの人の手で守られているからこそ、なのである。
text:仁田ときこ photo:かくたみほ