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地球温暖化に適応する「ミラクルコーラル」に世界が驚愕! 沖縄「さんご畑」に自然保護の未来を見た
地球温暖化に適応する「ミラクルコーラル」に世界が驚愕! 沖縄「さんご畑」に自然保護の未来を見た
NATURE

地球温暖化に適応する「ミラクルコーラル」に世界が驚愕! 沖縄「さんご畑」に自然保護の未来を見た

青く美しいサンゴ礁の海、多様性に富んだ動植物が生きる、やんばる(山原)の森。沖縄そばやゴーヤチャンプルーなどの郷土料理、三線(さんしん)や島唄などなど、沖縄県には魅力がいっぱいです。そんな南国でいま、推進されているのが「エシカルトラベルオキナワ」。このプロジェクトは、「おきなわ みらいへつなぐ旅」をコンセプトに、人や社会、環境に配慮した優しい観光先進地を目指しています。取り組みに賛同している読谷村(よみたんそん)のサンゴ養殖家、金城浩二さんを訪ねました。【後編】

ーー前編はこちらーー

スパルタ育成で生まれた「ミラクルコーラル」

沖縄本島の中部、読谷村の砂浜を望む「さんご畑」は、世界中から注目を集めている“陸上のサンゴ礁”。代表の金城さんはここで、サンゴをはじめとする海中生物の養殖や植えつけ、海への還元代行をおこなっている。

「サンゴは植物ではなく動物です。サンゴは1年に一度、精子と卵子が詰まった『バンドル』という卵のカプセルを産みます。産卵後24時間以内に別のサンゴのバンドルと出会うと受精するのですが、世界中の海でサンゴが減っているため、うまく受精できずに消えていくバンドルがたくさんある。つまり、卵を闇雲に海に放っても意味がないということが、長年の試行錯誤の結果わかったのです。そこであるとき、約8万株のサンゴを読谷の海1ヵ所にまとめて植えつけてみました。その後、環境省がおこなった調査では、西は恩納村から、東は名護市の先まで、読谷を中心に広範囲にサンゴが拡散していることがわかりました。20年近くいろんな学びと工夫をくり返してきて、やっと成果が出てきたと感じています」(金城さん、以下同)

さんご畑の金城さん(右)と右腕の上江洲隆さん(左)。サンゴ礁を模したアーティスティックな建物はもちろん、水槽も循環排水設備も、すべて2人の手作業でつくられている

さんご畑の敷地内には、120種類もの生きものが共存しながら暮らす「生態系」ができている。施設の規模を考えると、何十人ものスタッフが必要だと思われるが、金城さんと上江洲さんをはじめ、スタッフ数名ですべての運営管理をおこなっている。

「代わりに、生きものに働いてもらっているんですよ。サンゴが排出する植物プランクトンを食べる魚だけでなく、貝類とかオニヒトデのような『サンゴの天敵』といわれる生物も同じくらい大事。サンゴは天敵に適度にかじられたりしないと、成長を妨げるコケが生えてきたりするのです。天敵、外敵のような生きものも、複雑にバランスを保っている生態系の一部なんですね。育てているサンゴの元気がなくなったら、それを解消するに適した生きものを、海から“スカウト”してくるのです。この施設は開放部分が多いですから、夏には蚊もたくさん発生します。見学しにきた親子連れの方などは蚊をイヤがりますが、ウチでは殺虫剤はつかいません。近くの川原でイトトンボを採取して、施設内に放っています。トンボが適度に蚊を食べてくれますから」

さんご畑では、サンゴや熱帯魚、ヒトデやイソギンチャク、ウミガメなどが、透明に保たれた美しい水の池や水槽で共存している。

「サンゴや海の生きものは海水温が高すぎると死んでしまうので、水族館などでは莫大な電気代をかけ、水槽用のクーラーで冷やしています。しかしウチでは、段差のある池を複数設けて小さな滝をつくるなどし、そこにくみ上げた地下水を循環させて気化させることで水温を下げる工夫をしています。さらにジャングルのような木々や岩などを配して鍾乳洞のようなひんやりした空間を創出。この暑い沖縄にあって、ウチは真夏でも海より4℃ほど低い水温をキープしています」

さんご畑には、水族館などでは必須のろ過装置もない。

「サンゴや魚、貝類、プランクトンやバクテリアなど、生物たちの関わりによって水も細菌なども循環しているため、水質はキレイなまま。本来の海はフィルターがなくても、いつもキレイですよね。そこから学んで、ウチはいまの形になった。施設はぜんぶ手づくりで、開設から20年かけて、ようやく海の役割を担えるまでになりました」

地球温暖化はさらに進むことが予測されている。金城さんは、「ダメージを受け続けている沖縄の海に、さんご畑というノアの箱舟から、新たな生命が流れていくイメージをもっている」という。

さんご畑の池で暮らすナマコ。池の底に堆積する有機物を摂餌(せつじ)することで、高い浄化作用を発揮する。このナマコも、金城さんが海から“スカウト”してきた

環境の変化を見据え、金城さんは、紫外線に当てるなど厳しい環境で育てた「スパルタサンゴ」を海に植えつけることも試みた。すると、これらのスパルタサンゴは、2013年と2017年の沖縄本島周辺の異常海水温のなかでも、白化することなく生き残ったという。

「白化はサンゴの瀕死の状態。30℃以上の海水温が続くと白化が起こるとされています。地球温暖化の進行が不可避なら、そのなかでも耐えて生き延びられる、つまり新たな環境に適応したサンゴをつくればいい。スパルタサンゴは、水槽の上に紫外線ランプを設置して育てました。最初はあまり紫外線が当たらない深いところにサンゴを置いておき、徐々に紫外線にさらされるよう水深の浅い場所に移していく。最後は水面ギリギリに移して、常に適度なストレスをかけるようにしました。7年かけてついに、紫外線が強く当たる温暖な水面近くでも生きられるサンゴが誕生したんです」

こうして生まれたスパルタサンゴは「ミラクルコーラル」と称され、世界中の研究者の度肝を抜いた。

チョウチョウウオやツノダシなど、熱帯魚に適度に突つかれながらすくすく育つサンゴたち。沖縄の夏の日差しにも耐え、たくましく生きている

「自分の都合に合わせて、できる範囲で自然に関わればいい」

長年、「サンゴを養殖して海に植えても、どうせすぐに死んでしまう」といわれてきた。ところが金城さんのチャレンジによって、高水温を乗り越えられるサンゴが誕生した。

「サンゴは脊椎動物より前に地球上に存在していて、いろんな気候変動を乗り越えてきました。今後の温暖化にも、きっと追いついていけるでしょう。人間だって同じです。僕らがガキの頃なんて、ケータイ、ましてやスマホなんて想像できなかった。人間が本気で自然をつくろうと思ったら、きっとつくれると思うんですよ。失われたサンゴ礁だってジャングルだって、きっと取り戻せます」

温暖化をストップさせることも大事だが、適応していくことも大切。ミラクルコーラルは、絶望的に思える気候変動時代の希望の象徴だ。

年々勢いを増す台風に「毎年KO負けを喫してきた」というさんご畑。「風や波でめちゃくちゃになることをくり返してきましたが、みなさんの協賛を受けて2023年、敷地全体をかさ上げしたんです。おかげで昨夏は台風の被害を受けずにすみました。今年もきっと勝ってみせます!」

手探りから養殖をはじめ、トータル15万株のサンゴを植え続けてきた金城さん。これまで少なからずバッシングを受けてきたという。

「『批判する環境活動』を展開しても、ポジティブな人が集まらなくなって、無関心な人たちをつくるばかり。批判の矛先を探したり誰かを悪者にしたりしても、何も改善しません。それより大事なのは、みんなが自然と関わること。それぞれが都合に合わせて、できる範囲で関わっていけばいいと思っています」

ーー前編はこちらーー

text & photo:萩原はるな

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