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オランダSDGs最前線「難民支援アップサイクル企業」と「学生による学生啓蒙活動」
オランダSDGs最前線「難民支援アップサイクル企業」と「学生による学生啓蒙活動」
LIFE STYLE

オランダSDGs最前線「難民支援アップサイクル企業」と「学生による学生啓蒙活動」

サーキュラーエコノミーの先進国として知られるオランダ。さまざまなジャンルで取り組みが進んでいるエリアでは、人々の意識はすでに未来を見据えています。首都アムステルダムを中心に、世界でも一歩進んだオランダの事例を紹介します。

アムステルダム市が掲げる
具体的な到達目標は?

2025年には65%の家庭ごみはリサイクルまたはリユースできる仕組みで分別されること。2030年には使用されている第一次原材料資源の50%削減。そして2050年には完全なサーキュラーエコノミーの確立を目指している。

ライフ・ベストの再生で
難民支援と雇用を創出

メーカーズ・ユナイトのアムステルダムの事務所。1階が作業場、2階が事務所。創業者のタミ・シュライシレン(右)が手にしているのはライフ・ベストをアップサイクルしたPCケース/Makers Unite

アムステルダムに拠点を置く「メーカーズ・ユナイト」は、サーキュラーエコノミー企業であり、難民支援会社でもある。彼らは、難民がヨーロッパに避難する際に着用し、海岸に脱ぎ捨てたライフ・ベストをアップサイクルし、PCケースやトートバッグなどを製作。過去に6000着以上ものライフ・ベストを回収し、新たな命を吹き込んできた。

作業場では、マスクがつくられていた

プロダクトを手がけるのは、難民のバックグラウンドを持つ人々だ。母国を離れての異国での生活は容易ではない。とくに大きな壁として立ちはだかるのが就業問題だ。

そこでメーカーズ・ユナイトでは、6週間の就業プログラムを提供。オランダのクリエイティブ産業の需要に合わせ、次のステップにつながるスキル開発とポートフォリオづくりを支援している。これまでに170人もの難民がプログラムを受け、66%が次の職業へのマッチングに成功。衣類やテーブルウェアなど商品ラインナップも増え、地元企業とのコラボレーションも積極的におこなっている。

メーカーズ・ユナイトのプロダクト。ライフ・ベストのアップサイクルからスタートしたが、Tシャツや食器も製作。壁の写真は就業プログラムを受けた人たちだ

共同創業者のひとり、タミ・シュライシレンは、2016年にメーカーズ・ユナイトを創業。もともとはバイクタクシー事業に携わっていたが、自身の専門であるソーシャルデザインと社会問題を結びつけるために起業した。この仕事を始めてから多くの変化を実感している。なかでも、難民の人たちが持つ才能と可能性への認識が高まったと語る。

「難民は弱い存在ではありません。私たちと同じで、ただ生まれ育った環境の影響で機会に恵まれなかっただけ」

加工前のライフ・ベスト

そう考えるようになったのは、自身の生まれも大きく影響している。タミはブラジルのサンパウロ出身、路上にはフェラーリに乗る人もいれば、その窓をノックする物乞いの子どももいた。

「同じ人間が、同じ国、同じ路上にいて、なぜこんなにも不平等なのか?」

そんなやるせない想いがメーカーズ・ユナイトの根底にある。だからか、ウェブサイトでは「refugee(難民)」ではなく「newcomer(新しくきた人)」という単語がつかわれている。「難民であることはひとつの経験であり、その人を定義づけるものではない」と考える人々が、この単語を意識的につかうそうだ。メーカーズ・ユナイトで働く人々がつくった商品は質が高く、商品に強いストーリー性があるため、共感してくれる企業や人が増えているという。

2階の事務所から撮影した1階の様子。作業場では一人ひとりに専用のミシンがある

「失敗を恐れずに挑戦してきた結果、ドミノが倒れていくように自分たちの理念が伝わっているのを実感しています」

今後も、クリエイティブを社会との対話の窓口に、「ファッション」「デザイン」「クラフト」「アート」の4分野で事業を展開していく予定だ。最終的な目標は「自分のいまの仕事がなくなること」。それはつまり、ひとつの社会課題が解決されたことを意味する。

「難民を支援する僕らのような社会起業もNGOも、本当は必要なくなることが理想。もしオランダで難民問題が解決する仕組みができたら、他の国でも挑戦したいと思っています。人々に影響を与え、意識を変える。世の中に前向きな変化をもたらしたいんです」

歴史ある建築を介して
“社会資本を共有”する

オーナーのハンス(左)とスタッフのシェイナーズ(右)/Meet Berlage

アムステルダム中央駅から徒歩3分。「ミート・ベルラーへ」は、旧アムステルダム証券取引所のブールス・ファン・ベルラーヘの一角を間借りして運営されている。建物は1896年から1903年に建設され、100年以上の歴史を持つ、オランダでも屈指の有名建築物だ。

歴史ある建物を丁寧に保存し、現代に合わせて活用しているオーナーのハンス・ハウスマンズは、シェアオフィス事業の他に、人材紹介会社も経営。もともとは自身の会社も一企業として、このオフィスに入居していたが、美しい建築と人々が集まる場に惚れ込み、前オーナーが手放そうとしていたところ、その継承に名乗りを上げた。

会議室兼イベントスペース。絨毯は100年前のものをケアし大切に使用

建物内には有料のシェアオフィスと会議室、イベントスペースのほかコワーキングスペースがあり、「社会資本の共有」を条件に、誰でも無料で利用できる。社会資本とは、自分が持つ技術や経験のこと。専用ウェブサイトからスキルや資格を登録し、利用予約をする。デザイナーであればデザイン、アートディレクション、プログラマーであればプログラミング言語といった具合に、利用者同士を結びつけ、助け合うことを「社会資本の共有」と表現している。

1階のコワーキングスペース

テーブルとWi-Fiの利用は無料。コーヒーなど飲食は有料だが、サステナビリティを意識したコーヒーや地元のケータリング、チョコレートなどのスナックを手ごろな価格で楽しめる。入居する企業には、サーキュラーエコノミーやSDGs関連も多い。ハンスはこう語る。

建物の外観

「ここにはさまざまなバックグラウンド、国籍を持つ人々が集まります。美しい建築を共有できるだけではなく、場所を介してつながりが広がることが一番の魅力です」

学生団体が主宰する
学生のための啓蒙活動

左からボードメンバーのアリシャとマイク。右がアルビナ/RISA

ロッテルダム応用科学大学の学生が主宰する団体「リサ」。かつては学生同士の交流を主軸とし、孤立しがちな留学生がコミュニティにとけ込めるようさまざまなイベントを企画していたが、2018年にサステナビリティ部門を新設した。

ヴィーガンクッキングクラス

この部門では、学生たちに社会と環境への意識を高める啓蒙活動をしている。ヴィーガンクッキングクラスでは、食肉の生産と維持が環境に大きな負荷を与えることを発信し、食肉にかわる素材の調理方法をレクチャー。また廃棄物問題への意識を高めることを目的として、清掃イベントも開催している。その他にも大学内に木を植える研究プロジェクトや国内のサーキュラーエコノミー企業からのレクチャーイベントの企画など活動は幅広い。

マネージャーのアルビナは「いちばんの目的は、私たちの世代にさまざまな学ぶ機会を提供すること。環境や社会問題に触れて、自分の生活を見つめ直すきっかけにしてほしい」と言う。SDGs関連の授業が必修科目とあって、学生たちの意識も高い。オランダでは、彼らのように若い世代が積極的に変化を求める機運が高まっているのだ。

●情報は、FRaU2021年1月号発売時点のものです。
Photo:Tetsuro Miyazaki Text:Mariko Sato Cooperation:Akihiro Yasui Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

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