神々とイルカが棲むパワースポット「壱岐島」でワーケーションをしてみたら【後編】
長崎空港から飛行機で約30分、福岡県の博多港から高速船で約1時間とアクセスのいい壱岐島。島内には神社や小さな祠(ほこら)が1000以上もあり、島全体に神秘的ですがすがしい空気が満ちている。太古の昔から人々が畏(おそ)れ敬ってきた自然と神々のパワーをもらいに、いざ壱岐島でアウトドア・ワーケーション!
島を歩けば神様に出合う。信仰と祈りを感じる旅
「パワースポット巡り」が好きな人も多いかもしれないけれど、壱岐島に滞在していると、その言葉がしっくりこなくなる。というのも、島には1000以上の神社や祠が存在していて、ぶらぶらと散歩しているだけで、ガイドブックには載っていない、小さく素朴な祠に出合う。「巡るぞ!」と思わずとも、いつも近くに神様がいる。そんな気持ちになる。
そもそも、なぜ壱岐島にはたくさんの神様が祀られているのか。スマホを取り出して調べる必要がないのもこの島のいいところ。なぜって、訪れた先々の神社で、宮司(ぐうじ)さんたちが丁寧に島の歴史や神話を話してくれるから。 日本最古の歴史書とされる『古事記』の冒頭には、夫婦神である伊邪那岐(イザナギ)と伊邪那美(イザナミ)の「国生み神話」が記されている。夫婦神はのちに日本となる8つの島をつくったとされており、5番目につくられたのが伊伎嶋(壱岐島)なのだと教えてくれたのは寄八幡(よりはちまん)神社の宮司さん。
御朱印を書きながら、島に伝わる神話なども交えて話してくださった。『古事記』での壱岐島の別名は「天比登都柱(あめのひとつばしら)」ということ、「柱」とは天地を結ぶ交通路という意味で、壱岐島は天と地を繋ぐ架け橋の役割を担っていたことなど、聞けば聞くほどここに暮らした人々と神様の関係を知りたくなる。
スタンプラリーのように御朱印を集めるために神社を巡るのも楽しいけれど、それだけではもったいない。それぞれの神社や祠に刻まれてきた物語を紐解いていくこともまた、神社巡りの楽しみなのだと教えてもらった。
寄八幡神社を出る前、宮司さんに「小島神社はお参りしましたか?」と尋ねられた。“壱岐島のモン・サン・ミッシェル”とたとえられる小島神社は、海に浮かぶ島全体が神域で、一日2回の干潮の前後、数時間だけ参道が現れる不思議な場所だ。もちろん壱岐島についてすぐに足を運んだのだが、運悪く参道は海の中だった。
「季節はもちろん、日によっても潮の満ち引きは違いますからね。まさに自然のリズムですよ。チャンスがあればまた行けばいい」と宮司さん。潮の満ち引きを起こすのは月の引力だ。私たちの短い旅のスケジュールに合わせて都合よく参拝しようなんて、浅はかだった。
春の嵐というのだろうか、風が強く、なかなかすっきりとは晴れない3泊4日の旅だった。博多へ戻るフェリーに乗船するため車を走らせていた最終日の午後、薄曇りだった空が晴れ渡り、島に来て初めて太陽が顔を出した。
「遠回りになるけど、ちょっと寄ってみようか。フェリーにはまだ間に合うし」
小島神社が見える堤防の上に立つと、まさにいま潮が引き、島へと続く参道が海の中から現れるところだった。
あるいは人は、こんな瞬間に神様の存在を感じたのかもしれない。人の手や思惑が及ばない“自然”というリズム。ふだん生きているのとは異なる時間の流れに触れたとき、自分のなかにまったく新しい感覚が生まれる。それはときに信仰であったり祈りであったり、この際もう「生きている実感」といってしまってもいい。知らない世界に出合うことで、それまで感じようとすらしなかったものを美しく、尊いと思うこと。壱岐島で過ごした最後の40分間は、そう信じるのに十分な、豊かで荘厳な時間だった。
壱岐島 Local Spots & Foods
●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Photo:Kei Taniguchi Edit & Text:Yuriko Kobayashi
Composition:林愛子
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