パンダと海だけじゃない! 南紀白浜は、なぜ「働く人の聖地」と呼ばれるのか【前編】
白い砂、青い海のパーフェクトな景観を誇る南紀白浜。日本三古湯のひとつに数えられる歴史ある温泉や、熊野本宮へ通じる世界遺産・熊野古道もあり、アドベンチャーワールドにはパンダもいる人気の観光地。ここが“ワーケーションの聖地”とも呼ばれる理由を知りたくて、和歌山県・白浜町を訪れました。
和歌山県が全国に先駆けて
「ワーケーション」を発信
南紀白浜といえば、真っ白に輝く砂浜を目当てに、夏の海水浴シーズンには60万人以上の観光客が訪れる一大リゾート。季節ごと、朝昼晩の時間帯によっても、刻々と表情を変える海の美しさこそ想像できても、たくさんの人がパソコンを持って訪れる“ワーケーションの聖地”であるイメージは正直まったくなかった。
きっかけは、2017年。和歌山県が全国の自治体に先駆けて「ワーケーション」という言葉を発信したことだったという。もともとコロナ以前から、リモートワークを推奨するIT企業を県が助成し、積極的に誘致して、大企業のサテライトオフィスやコワーキングスペースなどを続々とオープンさせてきた。企業にとっては、海を望む最高の環境があるだけでなく、首都圏よりも土地代や通勤時間が抑えられ、個人の暮らしも豊かになるなどメリットは大きい。ストレスが軽減されたことで生産性が向上したという数字も弾き出された!
利点が重なり、IT企業が増えるに連れ、豊かな自然環境はそのままに、Wi-Fiスポットも充実。密度ランキングで全国2位となるトップクラスのネットワーク環境が整う。なかでも、県内唯一の南紀白浜空港から車でほんの数分の白浜町は、利便性も高く、ワーケーションの中心地に。東京から飛行機に乗って約1時間後には、海にも町にもたどり着くのに驚く。2019年に空港が民営化されてからは、東京から片道3万円前後かかっていた運賃が1万円台になり、行きやすさにさらに拍車をかけたのだった。
こうしたいくつかの働きやすさの要因が重なって、IT企業で働く人以外にも、ワーケーションで白浜町を訪れる人は一気に増えた。通信環境のストレスがなく、交通の便にも恵まれ、ゆったりとした風景に囲まれて仕事ができるなんて。これ以上の場所はないかもしれない。
海を感じるホテルに泊まって
気ままに働く贅沢
ワーケーションに適したホテルは白浜町にいくつもあるが、宿泊先に選んだのは、海に面した素晴らしいロケーションに建つ「ホテルシーモア」だ。和歌山県がワーケーションを唱えた2017年に50周年を迎え、1年かけて本館を全面的にリニューアル。2019年には長期滞在にも対応した別棟、シーモアレジデンスをオープンし、ステイしながら働く人にもやさしいホテルに生まれ変わった。
ホテルがリニューアルのテーマとしたのは、宿泊客以外にも開けた、誰もが自由に過ごせる場所。もともと観光エリアだったため、ビジネスホテルがなく、ひとり客が自由に泊まれる宿泊先は少なかった。そこで地方旅館にあるような食事とセットの宿泊スタイルを刷新し、シングル利用もしやすい仕組みに。
ホテル内にはフリースペースが多く、打ち合わせや待ち合わせをする人が外からも訪れ、ゆとりと活気がほどよく混ざり合う。仕事をするのは、白浜の海を望む部屋でも、ビジネスラウンジでも、カフェでも、テラスでもいい。お腹が空いたら、ベーカリーやレストランへ。集中して働いた後は、海とシームレスにつながる足湯に浸かりながら夕日を眺めたり、波の音が聞こえる露天風呂で疲れを癒やしたり。なんて贅沢なんだろう……。
ホテルの部屋にこもって仕事をして、気晴らしに観光に出るといった対極的なワークとバケーションでなく、それらが融合した心地よくゆとりある働き方を叶えてくれる。わざわざ観光に出かけなくても、海の景色が変わるのを眺めているだけで充分すぎるのだ。
一方、ルームキーを受け取って、より安価に、長期滞在できるシーモアレジデンスに宿泊すれば、ワーケーションの自由度はさらに広がる。レジデンスの1階には、共有のリビングやキッチン、ランドリー、バーベキュースペースがあり、ホテルにある温泉施設やフリースペースも利用可能。もともとサイクルホテルとしてオープンしたため、自転車置き場も完備されている。自転車で近くのスーパーに買い物に行って自炊をしたり、ときにホテルのレストランで魚介料理を楽しんだり、海のそばで暮らすように働ける。
ホテルシーモアでは、家族での宿泊向けに、子供用アクティビティを提供することで、親にワーケーションの時間をつくるなどしている。さらに新しい働き方が、今後も南紀白浜から生まれてくるのかもしれない。
▼後編につづく
●情報は、FRaU SDGsMOOK WORK発売時点のものです(2021年4月)。
Photo:Tetsuya Ito Text:Asuka Ochi Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子
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