ニュージーランドで元ミリオンヒット・プロデューサーが実践する「手放して幸せになる」暮らし方
ロングセラー『超ミニマル主義』の続編『超ミニマルライフ』が、発売と同時に大きな話題となり、そのライフスタイルやサステナブルな生き方が注目を集めている四角大輔さん。現在、ニュージーランドの森の湖畔で作家活動をおこないながら、人生戦略として自給自足ライフを送っています。かつては東京で、名プロデューサーとして多くのヒット作を手がけてきた四角さん。ひさしぶりの帰国で感じたことや、いまの私たちに伝えたいことを伺いました。【中編】
幸せへの第一歩は「手放す」方法を知ること
『超ミニマル・ライフ』の出版にあわせ、全国のメディアと書店をまわるため日本に一時帰国した四角さん。一年ぶりの日本で会った人々みんなを「しんどそうだな」と感じたという。
「日本の大人はとにかく忙しくて、『幸せをあきらめているんじゃないか』と感じてしまう。楽しいこと、快適さや心地よさ、つまり『幸せ』を追求するのは人間の本能なんです。その本能を失うくらい忙しすぎて、そもそも『幸せとはなにか』がわからなくなっているな、と。だからこそ、僕の振り切った幸福術を書いた本が受け入れられるのかもしれません(笑)」(四角さん、以下同)
『超ミニマル・ライフ』は、「贅沢やムダを省いて超効率化し、夢に投資する」ための戦略をつづった指南書。四角さんが自践してきたノウハウが詰まっている。
「前作の『超ミニマル主義』と、この本に書いてあるメソッドを実践すれば、間違いなく自分の幸せが見つかるでしょう。幸せって、人によってカタチが違うんですよ。僕なんて『美しくて大きなニジマスを釣るため』にすべてを捨てましたから(笑)。いわゆる『幸福像』は、メディアや世間の価値観によって思い込まされている幸せの虚像にすぎない。人それぞれ違うから、探すことがむずかしいし、マニュアル化できないんです」
四角さんの幸せの象徴ともいえる野生のニジマス。移住後は、自宅前の湖でニジマスを釣って食べる生活を送っている。すべてを手放したものの、ニュージーランド移住を後悔したことは一度たりともないという
四角さんが自ら実践して見つけた方法が、必要のないものをそぎ落としていく「自分彫刻」だ。四角さんは2010年にニュージーランドに移住するまで、CHEMISTRYや絢香などアーティストのプロデュースを手がけ、数々の大ヒット作を生み出してきた。
「新人アーティストはみな、『この人は、自分を売り出すための方程式と答えをもっているはず』と期待し、僕のところにやってきましたが、いつも『何の方程式も答えももっていない。答えはあなたの中にしかないんですよ』と伝えていた。余計なものをそぎ落として初めて現れる、完璧な彫刻作品がそれぞれの中にすでにあり、それをありのまま削り出すことが大切。この『自分彫刻』のお手伝いをすることが、プロデューサーとしての僕の仕事だったんです。自分彫刻を施していくと、最後に残るものこそ、その人にしかない『唯一無二の個性』なんです」
ソニーミュージックで担当したCHEMISTRYが数年にわたってメガヒットを続けた後に、ワーナーミュージックにヘッドハンティングされ、部長に抜擢された四角さん。けれども、管理職としての能力のなさを痛感、1年後に自ら降格を申し入れ、現場に戻って絢香さんに出会う。その後また、大ヒット作を生み出し続けた。
「自ら出世コースをはずれたのは、苦しすぎて『身の丈を超えている』と感じたから。昇進や昇給に伴って業務の難易度や責任が高まり、どこかで身の丈を超えて心身が悲鳴をあげる瞬間がくる。そのいっぽうで、肩書きや年収がわずかに上がっても、たいして幸福度は上がらない。『増やす』行為の先に、幸せはないんですよ。むしろ、過重労働で生活はすさんで幸福度は下がる。幸せを手に入れるためには『減らす』必要があるんです」
「より多く」を追求して自分を見失っていく
減らすどころか、ついには地位も肩書きも収入も、すべてを手放してニュージーランドの森の湖畔に移住した四角さん。よく「勇気があるから、手放せたんですよ」といわれるが、そうではないと自己分析する。
「手放す技術とその大きな効果を知っていただけなんです。そして、手放すほどに取り戻せるものがある。それは『自分自身』です。自分の人生を生きない限り、人は幸せになれないですよね。僕たちは生きていくうちに足し算を重ねて、余計な物事を抱えすぎて自分を見失ってしまう。それらをそぎ落としていくと、自分自身が彫刻作品として現れるんです。すると、世間や他人基準ではなく、心の声に従って行動できるようになる。その結果、自分が本当にやりたいことや好きなものが、クリアになっていくんです」
では、なぜ自分彫刻が必要なほど、足し算を繰り返してしまったのだろう。四角さんによると、その原因は過剰消費を促す広告資本主義によって、ものや情報があふれているせいだという。
「日本の都市部はものが多くて、情報量もすごい。その情報の大半が、ものを買わせるための広告がベースです。パリもロンドンもマドリッドも、東京ほど情報があふれてはいません。そういうノイズが多い状況に置かれると、誰もが自分自身を見失ってしまいますよね」
「自分探し」は、じつは難易度が高いと四角さん。「それよりも、ムダなものを手放すほうがずっと簡単。その結果、本来の自分『彫刻作品』を見つけられるんです」
食ひとつとっても、日本ほど多種多様の料理を、おいしく、リーズナブルに食べられる国は見当たらないと四角さん。さらに、レストランのサービスのよさも群を抜いていると語る。
「物質的には過剰なほど豊かで、いつでもなんでも食べられる。なのに、『一番好きな食べものはなんですか』という問いに即答できない人が多いんです。昭和のころなら、多くの人々が『エビフライ』や『カレーライス』などと即答していたはず。僕の父なんて、『バナナ』でしたから。いまは食も情報もすべての供給が過剰だから、人間本来の『幸福感度』が狂ってしまい、自分の一番好きな食べものさえわからなくなっているんです」
さらに、世の中にあふれているノウハウ本は、ほぼすべてが「足していく方法」を教えているという。
「こうしたらもうかる、運気が上がる、営業成績がアップする、という内容ばかり。でもそういった足し算をする前に、まずは余分なものをそぎ落として自分を取り戻す必要がある。すると、『心地よくて自分らしくいられるな』という、自分の『身の丈ポイント』がわかるようになります。その結果、自動的に人生のパフォーマンスが上がり、あらゆることが好転していく。人はその状態を手にするために努力したり、がんばるべきなんです」
――次回は、幸せになるために「減らす」テクニックを伺いますーー
四角大輔■1970年大阪府生まれ、執筆家。環境保護アンバサダー。大学卒業後にソニーミュージックに入社、10回のミリオンヒットを記録する名プロデューサーとして活躍する。2010年、すべてをリセットしてニュージーランドに移住、ポスト資本主義ともいえる自給自足ライフをスタートさせる。公式サイト(daisukeyosumi.com)
photo:横江淳、text:萩原はるな
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