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ドイツのサステナブルな街を巡る④ 東ドイツ時代の面影を残すケムニッツの「アダプティブリユース」
ドイツのサステナブルな街を巡る④ 東ドイツ時代の面影を残すケムニッツの「アダプティブリユース」
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ドイツのサステナブルな街を巡る④ 東ドイツ時代の面影を残すケムニッツの「アダプティブリユース」

環境先進国であり、SDGs達成度ランキング2023で世界4位にランクインしているドイツ。トラベルライターの鈴木博美さんが、ドイツのサステナブルやSDGsをレポートします。ドイツ東部に位置するザクセン州は、バロック様式の壮麗な宮殿や教会が建ち並ぶドレスデン、音楽の都ライプツィヒなど、ドイツを代表する都市が集まっています。第二次世界大戦後は東ドイツ(ドイツ民主共和国=DDR)に属し、その時代の建物がいまも残っています。ザクセン州第3の都市ケムニッツは、それらを積極的にアダプティブリユース(適応型再利用)。EUから2025年の欧州文化首都にも指定されたため、数多くの文化芸術事業も計画されています。中世からDDR時代まで、幅広い文化に彩られたケムニッツを訪ねました。

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DDR時代のモダニズム建築

19世紀以降、ドイツの産業革命の重要拠点になってきたケムニッツ。街の中心に建つのは、巨大なカール・マルクス像だ。頭部だけで7mもあり、台座を含めると13mになる。産業革命後、貧富の差が拡大した社会に異を唱えた経済学者・マルクスの思想は、社会主義国家ソビエト連邦が生まれるもととなった。ケムニッツはマルクスと直接的な関係はなかったものの、DDR時代には「カール・マルクス・シュタット(都市)」とその名を変え、ベルリンなどとともに社会主義都市計画のモデルとなった(東西ドイツ再統一後、またケムニッツに戻る)。マルクス像はDDR時代の名残(なごり)。強烈なインパクトは、「この銅像を見るため、ここに来たんだ!」という熱烈なファンを生み、訪れる旅行者が後を絶たない。

かつて、DDRのもとで社会主義的コンセプトに基づき開発されたケムニッツは、「資本主義社会の産物である階級格差をなくすため、労働者に人間らしい住環境を提供する」のがモットーだった。そのため当時、近代性と効率性を重視した集合住宅や市民ホールなどが多く建設された。

そのひとつが、バウハウス様式で設計された市営プール「シュタットバート」。1925年の設計当時(オープンは1935年)は、ヨーロッパで最大かつもっとも近代的な屋内プールと浴場、サウナが入る公営の複合施設だった。

いまも、アールデコ調のロビーホール、50m プールに加え、フィンランド式サウナ、スチームサウナ、サンルーム、ウェルネスマッサージなどが利用でき、併設するダイニングでは軽食も楽しめる。市民に愛される、DDR時代を代表する建物だ。 ※ 原則、プールでの撮影は禁止。今回は特別に許可を得て撮影しています。

百貨店を博物館にアダプティブリユース

一方で、役割を終えた歴史的建築物を、現代社会にマッチする形で再利用している例もある。いわゆる、アダプティブリユースだ。ケムニッツ州立考古学博物館は、もともとは1930年に建設された百貨店で、モダニズム建築家として有名なエーリヒ・メンデルゾーンが手がけた最高傑作のひとつに数えられていた。2001 年まで百貨店としての営業を続け、2011〜2014年の4年をかけて考古学博物館に改装されたのだ。

それでは、館内に入ってみよう。まず目に飛び込んでくるのが、ロビーの吹き抜け。白で統一されたクールで美しいデザインだ。3階の常設展示室では、ザクセン州が環境や気候を背景に自然景観から農業景観、近代文化景観へと進化してきたさまが、6200点の資料を通じて学べる。考古学的発掘物の展示方法も美しく、つい見入ってしまう。 とくに、高さ 22 mの壁を利用して、地質学的、考古学的時空間の歴史を示しているのは見事だ。

機械工場を産業博物館にアダプティブリユース

中世より紡績業で栄え、のちにドイツ最大の工業都市のひとつとなったケムニッツ。その歴史を紹介する産業博物館も、1907 年に建設された工場をアダプティブリユースしたものだ。3500㎡の広大な敷地に、 2世紀以上にわたってつかわれてきた工業製品、日用品、贅沢品といったコレクションが収められている。

その多くは、稼働していたときの姿で展示されている。とくに18901906年、当時の最高技術を駆使して製造された織機(しょっき)は一見の価値ありだ。そのほか、電気で動く蒸気機関車やネオン広告のコレクション、自動車工場のファクトリーオートメーションなど見どころが満載。ドイツのものづくりの歴史を知る、絶好の場所といえる。

DDR時代の建物と戦火を免れた建物が溶け合うケムニッツ。古いものを大切にするドイツらしい街のひとつだが、同時にアダプティブリユースも進んでいる。古さと新しさ、過去といま。相対するものが共存しているところが、この地の大きな魅力なのだ。

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rext:鈴木博美、取材協力:ドイツ観光局

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