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中田英寿が農水大臣に直談判!「“勝てる、食える農業”を目指して『中田農業法人』をつくりたい」【前編】
中田英寿が農水大臣に直談判!「“勝てる、食える農業”を目指して『中田農業法人』をつくりたい」【前編】
FEATURE

中田英寿が農水大臣に直談判!「“勝てる、食える農業”を目指して『中田農業法人』をつくりたい」【前編】

かつてサッカー日本代表として一世を風靡した中田英寿さん(47歳)。引退後に世界各国を旅していたことは知られていますが……。実はここ15年ほどは、日本各地の日本酒のつくり手、農業や工芸の担い手のもとを訪ね歩いていたといいます。とくに酒蔵は400ヵ所以上を訪問、「その素晴らしさを多くの人に伝えたい」と、2016年からは東京や福岡、仙台でイベント「CRAFT SAKE WEEK」を主催し、これまで延べ80万人以上を動員しています。

そんなイベントが今年も東京・六本木ヒルズアリーナで開催中。4月22日には「日本の農業と食のいま」をテーマに、中田さんと坂本哲志・農林水産大臣(79歳)との公開対談もおこなわれました。

耕作放棄地は増えて就農者は減る。何が問題なのか?

中田「大臣、今日はお越しいただきありがとうございます。私は2009年以来、47都道府県を回って、農業、お酒、工芸の生産者を訪ね歩いてきました。そんななかで以前は知らなかったことをたくさん知れて、自分の生活が変わった。これをなんとか多くの人たちに伝えたいと、このCRAFT SAKE WEEKを始めたのです」

坂本「今日ここに来てみて、会場を見ると、お酒も飲みたくなるし、おいしそうな食事もあるし、素晴らしいですよね。こんなイベントがもっと日本各地、世界に広がっていけば、(日本の)食、文化ももっともっと発信できると思います。私もお酒に関しては周囲から『飲みすぎるな』と言われるほどで(笑)」

中田「大臣は熊本のご出身。もともと酒どころですし、昨日、このイベントにも熊本で産土(うぶすな)という銘柄のお酒をつくる花の香酒造さんが出展していました」

坂本「花の香さんのような新しいつくり手がどんどん出てきて、頼もしい限りです」

対談中に、中田さん(左)が坂本大臣に花の香酒造スタッフを紹介

中田「私が全国の農家を回り始めたころは、ふだん食べている作物について、まったく知らない自分に驚いたんです。それが、だんだん飲んだり食べたりしているものの背景を知り、自分の好みもわかってくると、生活が豊かになった。ここに農業の可能性を感じました。いま、たくさん海外の方が日本にいらっしゃって、いいレストランを探して訪れている。そうしたレストランが仕入れるいい食材、日本酒も日本茶も、農作物の価値も非常に高まっている。需要は増えているのに、かかわる酒蔵や農業の従事者は減っている。なぜなのか。日本の農業をどうしたらいいのか。これは一番上にいる大臣に尋ねるしかないと、今回の対談になりました」

坂本「私は熊本県菊池郡大津町(おおづまち)の農村部、75戸の集落で生まれ育って、いまもそこで生活しています。しかし40年前といまの集落は大きく変わってしまった。そこに想定を超えるような気候変動、地球温暖化があって、中南米は渇水に悩まされるなど世界的に農作物の不作が起きています。ウクライナの紛争で穀物価格が急騰し、アフリカやインドでは人口が爆発的に増加して食糧の争奪戦になり、日本では逆に人口減少、高齢化、少子化で農業の担い手が不足している。このままでは日本の食糧と『農』がなくなってしまうとの危機感を持っています」

中田「人間が生きるためにはまず、エネルギーと食糧が必要。いま農家の平均年齢が約70歳といわれるなか、あと5〜10年でその層がごっそりいなくなったときに、新規就農者数が伸びていない状況では働き手がなくなる。耕作放棄地は増えるばかりです。どうして就農者が増えないのか、入りたくても入れない障壁があるのか、大臣、どうなんでしょう?」

坂本「これまで農業には、毎日朝早くから遅い時間、クタクタになるまで働いて、生活の保証もないというイメージがあったのは事実。若い人たちに対して、いかに農業の新しいイメージづくりをしていくか。新たな仕組みづくり、人材の育成はこれからの課題だと思っています」

イベント会場となったのは六本木ヒルズアリーナ。平日の午後でも、幅広い層の人たちが日本酒と食事を楽しんでいた

農機が1台3000万円って、これはフェラーリか!

中田「農に関する多くの法律が、戦後の食べられない時代に就労者を守るためにつくられたのだとすれば、変えなきゃいけない法律もあるのですか?」

坂本「昔は国民ひとりあたり、年間2俵のお米を食べていたのが、いまは1俵。米を食べない時代になりました。50年前、国が農家から1俵60㎏の米を5万2000円の生産者米価で買い上げて、消費者に3万2000円で売っていた時代がありました。国が差額2万円の赤字を被っていたのですが、それがやがて年間1兆円の赤字になって、米政策が大きく変わった。食生活の変化に合わせて、米の生産量も試行錯誤してきたのですが、それが必ずしもうまくできてこなかった」

中田「本当に食糧危機がやってくるのではと心配しています」

坂本「品種改良に勝る(農業)技術はなし、とよくいわれます。地球温暖化に対応する強い品種をつくっていくしかないと思います。いま、日本の農業は家族経営が96%、法人経営が4%ですが、その法人が農地全体の25%を所有し、売り上げでは40%を占めています。国としては家族経営も大事にしながら、法人を育てていって、食糧を安全に確保していく多様な経営体系をつくっていく。そういうことで若い人たちを取り込んでいくことが今後は求められます」

中田「それじゃあ僕がいま、『明日から中田農業法人をつくります!』と言ったら、簡単にできるものなのですか?」

坂本「いや、それはなかなか難しいです(笑)。全国で400万ヘクタールある農地を減らすわけにはいかない。たとえば中田農業法人が農業に新規参入したものの、2年でうまくいかなくなりました、じゃあ農地に他の施設をつくるとか、ごみ捨て場にしますとかでは困るんです。やるからには10年以上、しかも地元の人たちと共存共栄しながら農地を守ってもらわないと」

中田「でも耕作放棄地は増え続けています。『他に転用はしません』と約束して農地を手に入れることはできませんか」

坂本「農地の取得は難しくても、レンタルならいつでも農業が始められます。全国都道府県にある公的組織の農地バンクに相談してみてください」

中田「でもいま、農業の機械ってメチャクチャ高いじゃないですか。ある農家さんを回っているときに、『この機械、いくらするんですか?』って聞いたら、『1台3000万円します』って。これは、フェラーリか!? って思いましたもん(笑)。新規参入にの障壁になりますよね」

坂本「だから、最大50%までの補助金もありますし、集団で買って、集団で活用することを考えていただきたい」

対談終了時にはガッチリと握手!

中田「いま世界で和食がフレンチやイタリアンと並んで評価されていて、日本の作物や加工品への需要も高まっている。より“勝てる”農業というか、“食える”農業を目指していくべきですので、実際に会社をつくって農業をやってみたい! これは強く思っています。どうしたら、次世代の担い手が数多く農業に入ってきてくれるのか、その仕組みづくりを、大臣にもお話伺いながら考えたいです」

坂本「これから日本の農業を世界に売り出していくカギは、まず若者だと思っています。若者が一度、農業を体験すれば、いろんな発想が生まれてくるでしょうし、女性の感性も非常に大切。日本の農業はこれらをいかに採り入れるかにかかっています」

そして2人がガッチリ握手したところで、対談は終了した。

会場では、蔵元のスタッフや利き酒師たちがテーブルを回ってイチオシの酒を勧めてくれる(酒は専用コインとの交換。銘柄などによって必要コイン枚数が異なる)

対談がおこなわれている間にも、会場にはどんどん人があふれてきた。せっかくなので取材班も、利き酒師オススメの佐賀県・東鶴(あずまづる)酒造の酒「東鶴」芽吹きうすにごり生を注いでいただいた。ほんのり甘めでジューシーな味は、こんな湿気の多い日にピッタリだ。

4月18日から12日間にわたって六本木ヒルズアリーナでおこなわれているCRAFT SAKE WEEK。「頑張れ、北陸!!の日」「SPARKLING SAKEの日」などのテーマに沿って、日替わりで10の蔵がそれぞれ3銘柄を供する。取材した22日は「九州vs関西の日」だった。日本酒、日本茶のほか、フードも三つ星レストランなどのべ15店が出展。美酒、美食に酔えるこのイベントは4月29日まで。足を運ぶ価値は大いにありだ。

──【後編】ではイベントのようすを詳報します──

Photo:横江淳 Text:FRaU

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