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親子の絆を深める!? 「ひとりじゃ押せない」シャンプーボトル
親子の絆を深める!? 「ひとりじゃ押せない」シャンプーボトル
LIFE STYLE

親子の絆を深める!? 「ひとりじゃ押せない」シャンプーボトル

小さな子どもを持つ親世代を中心に共働きが当たり前の時代。家族全員で食卓を囲むことや、子どもといっしょの時間をとることが難しい……そう感じている読者も多いだろう。「親子のコミュニケーションの時間を増やし、笑顔あふれるお風呂時間を過ごしてほしい」と、大手化粧品会社の花王が試験的に開発したのは「にこニコボトル」という名のシャンプーボトル。東京・JR高円寺駅から徒歩5分の人気銭湯、小杉湯で行われた同ボトルの体験イベントに行ってきました。

共同作業が子どもとの対話のきっかけに

日々の暮らしで欠かせない入浴は、身体をキレイにするだけでなく、心身を緊張から解きほぐす時間でもある。しかし最近は、湯船につからずシャワーだけで済ませる人も多く、入浴時間は減少傾向にあるという。

「仕事と家事、育児を両立させなければならない皆さんからは、『日々の雑事に追われて、子どもとの入浴には時間をかけられない』という声が多く聞かれます」

こう語るのは、花王・作成センターの松田実久さん。

「会社勤務のあとも家事という仕事は続きます。つまり、家に帰っても戦場。目の前のタスクをスムーズにこなさなければ一日が終わらないという状況で、『リラックスして子どもと触れあう時間がとれない』と悩む方は少なくありません。そんな状況でも、お子さんとのスキンシップを深め、ほっこりできる時間をつくれないものか。そう考えたときに、お風呂場でつかうアイテムが頭に浮かんだのです」

紆余曲折を経て開発されたのが、ノズル&ポンプが2つついているシャンプーボトル「にこニコボトル」。親子など2人が呼吸を合わせて同時にポンプを押さないと、うまく中身が出てこない仕組みのボトルだ。家事負担が軽くなるような、いわゆる便利グッズとは逆発想の、「手間がかかることをあえてすることで、スキンシップや会話のきっかけを生み出そう」というものなのだ。

「弊社の商品にはこれまで、親子でつかえるボディソープなどはありましたが、今回のボトルはコミュニケーションそのものに特化した試作品。親子の触れ合いをもっと増やしてほしいというメッセージを込めてつくっています」(松田さん)

11月某日、小杉湯に到着すると、すでに50組ほどの親子の姿があった。この人たちが今回イベントの参加者らしい。子供たちは、われ先にと、銭湯玄関の下駄箱にクツを入れ、歓声を上げながら脱衣所に走っていく。

イベント当日のみ、小杉湯に設置された2種類の「にこニコボトル」シャンプー(青)とコンディショナー(オレンジ)。それぞれ右のノズルからは子ども用の、左からは大人用の液体が出てくる。ポンプ上部がプラスチックバーでつながっているため、2人でタイミングよくポンプを押さないと、中身がうまく出てこない

「パパママ銭湯」の特別版として開催

そんな子どもたちを番台から目を細めて見ていたのは、小杉湯3代目当主の平松佑介さんだ。

高円寺の住宅街にある小杉湯は、昭和8年(1933年)創業。「東京型銭湯」と呼ばれる宮造りの外観は、いまも当時のままで、2020年には国の有形文化財に登録された。近年は寄席、音楽ライブなども開催し、新しい銭湯のスタイルを模索している

「私が2016年に3代目として父から小杉湯を引き継いだころは、赤ちゃんや小さな子どもはまったくといっていいほど来ていなかったですね。いまの若いお父さん、お母さん方は、銭湯に子どもを連れて行っていいのか、他の入浴客の迷惑にならないかとの思いが先に立って、親子で銭湯に来ることを躊躇するようです。公共の場で子どもが騒ぐと、すぐ非難される。そんな社会風潮の影響があるのかもしれません」

やがて平松さん自身にも子どもができ、いっしょに小杉湯の番台で過ごすようになると、入浴客が平松さんの息子に自分の子どもや孫のように声をかけ、かわいがってくれたという。赤ん坊のときから息子の成長を見守り、顔を知ってくれている、おじいちゃん、おばあちゃんが近隣にいることにあらためて気づき、そのことがとてもうれしかったのだという。

そんななか、平松さんが周囲の協力を得て始めた不定期イベントが「パパママ銭湯」。小杉湯の営業時間内や時間外に、0歳〜小学生とその親たち歓迎タイムを設け、親子で気がねなく入浴してもらおうというイベントだ。男湯、女湯に各1名のスタッフを配置し、着替えを手伝ったり、子どもの面倒を見たりする。小杉湯は0歳児から入浴を受けつけており、脱衣所には、おむつ交換台もある。

「パパママ銭湯は、育児に忙しい親たちにゆっくりお風呂に入ってもらおうという主旨なんですが、同時に子どもたちの学びの場にもなっているはずです。ふだん親以外の大人との関わりがあまりない子には、地域のいろいろな大人の顔を知れるいい機会ですし、他の子どもも大勢いるので社会性を育めたりもする。親もいっしょに銭湯に通えるようになれば、親子ともども地域とのつながりができ、ひいては地域にもっと活気が生まれるかもしれません」と平松さん。

だからこそ、今回のにこニコボトルイベントも、ここ小杉湯で、パパママ銭湯のスペシャルバージョンとしておこなわれることになったのだ。

浴室に入っての取材は叶わなかったが、漏れ聞こえてくる子どもたちの歓声で、その盛り上がりは十分感じ取れた。

親と入浴し、にこニコボトルをつかってみたという小学生の男の子は、浴室から出てくると上気した顔で、

「いつものお風呂より楽しかった! 家のお風呂でも(このボトルを)弟らと一緒につかってみたい」

と大満足のようす。3人の男の子と女の子をひとり連れて参加したお父さんは、

「子育てってイライラしてしまうことも多いけど、このボトルを押すときは、いったんひと呼吸置いて、『よいしょ!』という具合に、子どもの顔を見ながら息を合わせるので、親子とも自然に笑顔になれちゃいますね」

と、にこニコボトルの効果をしっかり感じ取っていた。また、このイベントに限らず、よく長女と小杉湯に来ているというお母さんは、こう語ってくれた。

「娘は、家のお風呂では体や頭を洗うのをイヤがるのに、小杉湯では率先して洗ってくれるので、よく来ています。今日は何回も私と一緒にポンプを押し、コンディショナーを自分で髪につけては、『ほら、髪の毛がツルツルになるよ!』と喜んでいました。お風呂場では親子ともリラックスしているからか、その日幼稚園であったできごとをたくさん話してくれます」

にこニコボトルはこのイベント限りのもので、今後、販売の予定はないというが、こんな試みが増えていけば、世の中に親子の対話があふれるのかもしれない。 

取材・文 伊藤睦月

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