社会問題への「気づき」を与える、週替わりデザインのTシャツ【後編】
かわいいデザインが気に入って買ったTシャツが、実はチャリティアイテムだったことに、あとで気づく。そんなシーンが生まれればとの想いで活動しているファッションブランドが京都にあります。「チャリティをもっと身近に」を合い言葉に、10年で8000万円を超える寄付を集めてきた「JAMMIN(ジャミン)」の活動を紹介します。
10年間で450団体に8000万円を寄付!
チャリティだと言われなければ気づかない、おしゃれなTシャツ等を展開する京都のチャリティ専門ファッションブランドJAMMIN。Tシャツや雑貨を買うと、一点につき700円が寄付される仕組みで、寄付先は毎週変わる。つまり、毎週新しいデザインのTシャツが生まれているプロジェクトなのだ。
2013年に創業したJAMMINが、2023年3月までに寄付を行った先はなんと454団体。環境保護や難病支援など、さまざまな社会問題に取り組む団体を応援してきた。チャリティ総額は、なんと8324万円にものぼる。創業者の西田太一さんは、「みなさんの700円が、こんなにも大きくなるとは思っていませんでした。1億円という目標も見えてきたので、まずはそこに向け、努力しているところです」と語る。
創業者の西田さん(右から2人目)、ディレクターの山本さん(同5人目)らJAMMINのメンバー
コラボする団体が毎週替わるのに合わせ、Tシャツのデザインも替わるという仕組みは、アメリカに前例があったのだとか。
「週替わりであれば、お客さまにいろんな団体を知ってもらうことができるし、いくつもの社会問題に気づいてもらえる。そこが良いなと思いました。ひとつの団体を集中的に応援するのもありですが、僕らは、『まず知ってもらう』ことを大切にしています。とはいえ、毎日デザインを変えるのは現実的ではないので、この10年間、1週間に1団体、1年に50団体は紹介しようとやってきました」(西田さん)
扱うテーマによって、やはり売り上げにはバラツキがある。だが特定の団体だけを支援するのではなく、毎週寄付先を変え、デザインも替えることに意味があると西田さんは話す。
JAMMINのオンラインショップでは、過去のデザインや、その団体の取り組みも紹介されていて、眺めているだけでも楽しい
大学時代の西田さんは、社会問題に関心がないどころか、何も知らなかったという。しかし在籍していた土木・環境系の研究室では、発展途上国での調査が必須の課題だった。西田さんはやむなく、スリランカに滞在して飲み水の問題を調べることになった。
「この体験が本当に衝撃的で。水を貯める技術も、キレイにする技術もないところで人々が生活し、水でお腹を壊して死んでいく人がいる。日本ではあり得ないことが日常茶飯事の世界があるんだと初めて知りました。水をキレイにするのに、そこまで高度な技術がいるわけではありません。基本的には水を砂に通して丹念に濾過する。これを繰り返すだけです。自分の持っている知識で、救える命や解決できる問題があるかもしれない。僕にもできることがあるな、役割があるな、と感じました。スリランカの現状を知ったことで価値観が変わり、社会との接点ができました」(西田さん)
大学時代にスリランカを訪れ、水質調査を行った西田さん。このときの経験がJAMMINの活動につながっている
卒業後の西田さんは、開発コンサルタントとして、国内外のまちづくりに携わった。
「やりがいはありましたが、完了までに20年かかるような大規模な国家プロジェクトもあり、なかなか成果を感じることが難しかった。スリランカで体験したのは、目の前にすぐ解決しないとダメな問題があるという現実。もっと身近な問題に、自分ができることで貢献したいという思いが強くなったことから、JAMMINを立ち上げました」(西田さん)
「アツい」団体とコラボする
毎週変わる寄付先のコラボ団体は、JAMMINがリサーチし、「これだ!」と思ったところに声をかけているという。
「たとえば、日々のニュースで耳にする社会問題について、取り組んでいる団体はあるのかなと調べたりしています。最近だと、ヤングケアラーという言葉を聞く機会が急に増えて、気になって調べたことから、コラボにつながったことがありました」(西田さん)
JAMMINディレクターの山本めぐみさんによると、「コラボ相手は熱量がある、アツそうな団体さんという点も、大事にしているポイント」だという。
「日本ダウン症協会さんとは、8年前からご一緒しています。ダウン症は、通常23対46本ある染色体のうち、21番目だけが先天的に1本多いことから発症します。そこで、最初のコラボのときに、23種類の葉っぱのペアのうち、1種類だけ3つ描かれているという表現を提案しました。みなさん、デザインをポジティブに楽しんでくださって、毎年恒例になりました。ちなみに、今年のデザインテーマはパンでした。少しずつこのコラボが知られるようになり、今年は1週間で約197万円という、JAMMIN史上最高のチャリティ額を達成しました」(山本さん)
日本ダウン症協会とのコラボは2023年で8年目。23種類のペアのうち「ひとつだけ3つある」デザインは、毎年「カワイイ」と大好評
「チャリティだから」ではなく「カワイイから」着るアイテムに
こうした「知ってもらう」ためのアクションとともに、JAMMINが掲げているのが「チャリティをもっと身近に」という合い言葉だ。
「JAMMINのアイテムを買ってくださるのは、社会問題に興味がある方や、団体の支援者さんが多いのが現状です。チャリティに興味がない方に、カワイイからと手にしてもらい、あとからチャリティだと気づいてもらったり、それすら知らずに着ていたり……みたいなアパレルブランドに成長していくことが、私たちの今後の課題であり目標です」(山本さん)
JAMMINではTシャツ以外にも、手ぬぐいやポーチなど雑貨のラインナップを充実させたり、より人の目に触れるようネットショップ以外にも、販路を広げる努力をしている。
「現在、希少動物の保護をテーマとしたTシャツを、動物園のショップに置かせてもらったりしています」(西田さん)
神戸どうぶつ王国(兵庫)のスーベニアショップ。絶滅危惧種の保護団体を応援するJAMMINのTシャツが販売されている
「身近なチャリティを実現するためには、ファッションだけに固執しなくてもいい」と考えているものの、現在はアパレル事業で手いっぱいなのだとか。
「社会問題に取り組む団体さんのたいへんな点だけに目を向けるのではなく、ポジティブな面も取り上げ、楽しいチャリティを行うのが、僕たちの得意とするところです。いずれは音楽やスポーツのイベントも企画してみたいですね。自分が楽しんだ結果、それがチャリティになってだれかを笑顔にするというしくみで、みなさんのもっと身近な存在になれればと思っています」(西田さん)
text:櫛田理子
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