カカオ豆のふるさとは、いま【アフリカ編】ガーナ共和国
小さな幸せをくれる存在として、私たちの日常に欠かせないチョコレート。けれども、原料である「カカオ豆」が、どんなところからやってきているのか、あらためて考える機会はほとんどありません。そこで「カカオ連載」第3回目となる今回から、カカオ豆のふるさとを探訪。最初にご案内するのは、西アフリカのカカオ産出国、ガーナ共和国です!
国がしっかり管理する高品質のカカオ豆
サッカーのFIFAワールドカップでの奮闘ぶりも記憶に新しい、アフリカ西部の国ガーナ。カカオ豆の生産量は世界第2位で、日本にもたくさん輸入されている「チョコレートのふるさと」だ。東にトーゴ、北にブルキナファソ、西にコートジボワールの各国があり、南は大西洋のギニア湾に面している。ちなみにコートジボワールは、カカオ豆の生産量世界一の国だ。
ガーナでカカオ豆の栽培がスタートしたのは、当時スペイン領だった赤道ギニアの島からカカオの実が持ち込まれた19世紀のこと。現在では金や石油と並んで、カカオ豆はガーナの主要な輸出品になっている。早くから国の機関である「ガーナ・ココア・ボード」が農園から輸出までの管理などをはじめ、世界中にカカオ豆を届ける体制を整えた。
「ボードによる管理がしっかりおこなわれているため、品質が高く安定しているのが特徴。おもに栽培されているフォラステロ種は、病害虫に強く、酸味と苦み、渋みのバランスがよいとされています」と教えてくれるのは、2005年に初めてガーナを訪問し、以来、カカオ農家へのサポートを続けている明治の土居恵規さんだ。
「数ヘクタールの農園をもつ小規模農家が多く、家族経営のところがほとんど。国の東部で栽培がはじまりましたが、現在は中部から西部にかけての生産が中心になっています。都市部や幹線道路から離れたエリアに、多くの農家が集まった『カカオ村』が点在しており、そこでカカオ栽培がおこなわれています」(土居さん、以下同)
児童労働や森林減少……解決への取り組みが進行中
コートジボワールやガーナなどの国では、児童労働と森林減少が大きな課題となっている。各国政府、カカオ関連企業、各種機関、NGOなどが解決に向け協働しているが、道まだ半ばだ。
森林の減少を食い止めるために農法を見直してカカオの収穫アップを目指したり、カカオを育てながらほかの樹木も育てるアグロフォレストリーを推進したりと、さまざまな取り組みがおこなわれている。ただガーナの森林減少には、外国人による金の違法採掘も大きくかかわっており、問題の根は深い。
「金が多く産出されているのはおもにガーナの西部で、カカオ生産が盛んな地域と重なっています。そのため、カカオ農家が手っ取り早く現金を手にしたい場合には、農園のある土地を違法採掘者に売ってしまうことがあるようです。根本的な原因は貧困なので、木を切るなと言っているだけでは解決はできません」
貧困は児童労働や人身売買にもつながっている。学校に行かせてもらえずに農作業に従事させられたり、貧困に悩む他の地域や国から人身売買によって見知らぬ土地に連れてこられ強制的に働かされたりといった実態がある。
「『学校に行くヒマがあるなら働け』というのは、かつて貧しかった日本にもあった風潮ではないでしょうか。収入を増やすことは必要ですが、子どもの権利について理解してもらうことも重要です。カカオ業界では、児童労働に関して農家や村の状況をモニタリングして、見つかった問題に応じた対策を実施するという仕組みをつくり、実施しています。収入を増やすための支援をおこなう、子どもの権利を親に説明して理解してもらう、あるいは教育環境を整えて登校しやすくするなどさまざまな対策が求められますが、いずれにせよ継続したモニタリングが必要です。パンデミックの影響による学校閉鎖の期間中に児童労働が増えたとされていますが、子どもの未来を考えたときに、学校に行って教育を受けることはとても重要です」
カカオ村は銀行のある市街地から離れたところにあり、また、貯蓄や抵当となるものを持たない農家は、現金が必要なときにも融資を受けることが難しい。
「そこで村の20〜30人の農家が集まり、貯蓄貸付組合(Village Saving and Loan Association : VSLA)をつくって運営するという活動が盛んにおこなわれています。各農家が預けた現金を組合として一括管理し、新規ビジネスをはじめるための資金、農業用資材の購入費用、子どもの教育費など現金を必要とする農家に貸しつけるという仕組みです。返済金の利息がもたらす収益は、メンバーで分け合います。村の銀行のような役割を果たしていますが、メンバー自身が運営するので費用はほとんどどかかりませんし、メンバーの自立をうながすとともに、村への帰属意識や結束が高まるという効果もあるようです」
ガーナの隣国コートジボワールでも、児童労働と森林減少は大きな問題になっている。コートジボワールのカカオ豆の生産量は、ガーナの2倍以上。その分、これらの問題もより大規模だという。
「近年、いわゆる『サステナブル・サプライチェーン」の構築が世界的に求められるなか、人権デューデリジェンスの義務化が欧米主導で進められています。昨年2月に公表されたEUの案は、EU域内の事業者だけでなく、一定の条件を満たすEU域外の事業者にも適用されます。成立すれば日本企業も影響を受けますし、摘要対象に該当しない企業も、取引先からその内容を踏まえた契約の締結を求められる可能性もあるので、こうした動きには充分留意する必要があります」
バレンタインデーを機に、あらためてチョコレートのおいしさを再確認した人も多いはず。ぜひこの機会に、そのふるさとであるアフリカの大地に思いをはせてみよう。
―――次回は、カカオ豆のふるさと【南米編】をお届けしますーーー
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