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生物学者・福岡伸一「ガラパゴスこそ、進化の最前線」【前編】
生物学者・福岡伸一「ガラパゴスこそ、進化の最前線」【前編】
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生物学者・福岡伸一「ガラパゴスこそ、進化の最前線」【前編】

地球環境のために、私たちがいまできることとは何でしょうか。ガラパゴス諸島で進化の最前線に触れた生物学者の福岡伸一ハカセが、動物たちと触れ合い確信した真実の進化論、生命のあり方とは?

あえてダーウィンと同じ旅程で
ガラパゴス諸島へ

写真:『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社刊)/撮影:阿部雄介

長らく、ガラパゴス諸島へ行きたいと思っていました。もちろん通常の観光としてなら、もっと前に簡単に行けたのでしょうが、せっかくなら生物学者として、進化論を打ち立てたチャールズ・ダーウィンが200年ほど前に訪ねた旅を再現したい。そのためには船をチャーターし、乗組員、料理人、監視係としてのレンジャーも雇い、それぞれの日当が必要になる。さらにカメラマンと通訳も連れていく一大探検隊として島を訪れるのは、なかなか難しいことでした。

ガラパゴスは「ガラパゴス化」など、進化から取り残された場所の代名詞のようにいわれますが、まったく的外れです。たしかに大陸から隔絶されていますが、地質年代から見ると「新天地」なのです。そこにたまたま行き着いた、ごく限られた生物たちがゼロから進化をやり直している実験場であり、進化の最前線といえるんですね。エクアドル領として開発からも免れ、人間の手が入らない自然が残されている地球最後の場所で、進化の現場を見てみたい。ふだん、われわれは都市で文化と文明に守られて生活をしていますが、そのようなロゴス(理性)の殻を脱して自然に身を置き、根源的な生命体のひとつとしてのピュシス(自然)を取り戻したとき、何が見え、何を感じるかをたしかめたいというのも、旅の目的のひとつでした。

写真:『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社刊)/撮影:阿部雄介

なぜ私が、ダーウィンと同じ旅程でガラパゴスに行きたかったのか。

現代生物学のセオリーのひとつとなっているダーウィンの「進化論」は、突然変異による偶然の変化と、その変化のなかで環境に適した、より子孫を残しやすいものが生き残って現在に至るという自然淘汰の2本立てで、生命の多様性を説明しています。それは基本的には正しいのですが、それだけでは説明できない生命の不思議さや豊かさがあって、進化論もまた、少しずつ改定されるべき時期にきていると思ったからです。もう一度、原点に還り、ダーウィンが見たガラパゴスを違う視点から見れば、これまでの進化論とは違う生命のあり方が見えるのではないか、と。

ガラパゴスの生物たちは、1000㎞も離れた大陸から島へとたどり着きました。遠い距離を渡れたのは、羽を持っている鳥のような生物か、風に運ばれた昆虫、卵が海水のなかでも生き延びられるゾウガメやイグアナなどに限定されています。島には水も資源も少なく、それらの生物は主に草食のエサを見つけ、乾燥に耐える工夫をした。だからガラパゴスの生物たちには天敵もいないし、争うこともありません。鳥が好奇心を持って人間に近づいて挨拶してくれたり、船と並走して飛んでくれたり。生物の行動や振る舞いも他の世界とは違っています。動物たちの行動をどこまで擬人化していいかは議論があるでしょうが、私はそこに生命が本来持っている自由度や好奇心、余裕というものを感じました。

写真:『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社刊)/撮影:阿部雄介

すべての生命は同じ起源から出発し、弱肉強食のような闘争を繰り返すというよりは、むしろ自由に、できれば余裕を持って生活し、共存してきたのではないでしょうか。ダーウィン流の進化論では、生物は遺伝子の乗り物として利己的に、自分さえ増えればいいという競争原理で進んできたと説明されがちです。もちろん、生物というものは競争し闘争する面もありますが、それだけではなくてむしろ、利己的であるというよりは利他的である。競争よりは共生を目指しているというのが本当の生命原理ではないかと、ガラパゴスの旅を経て、より確信に近い形で考えるようになりました。

▼後編はこちら

PROFILE

福岡伸一 ふくおか・しんいち
生物学者。1959年東京生まれ。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員研究者。著書に『生物と無生物のあいだ』など。ガラパゴスへ赴き、「生命とは何か」の本質に迫った『生命海流 GALAPAGOS』(朝日出版社)が発売中。

●情報は、FRaU2022年1月号発売時点のものです。
Text & Edit:Asuka Ochi

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