再生ガラスのうつわと出会う
はじめまして。ライターの水谷美紀です。これから“今の暮らしを再考し、最高の日々をめざす”わたしの試行錯誤の日々を綴っていきます。初回は再生ガラスから生まれた、うつわの話です。
小学2年生の夏休み。海水浴に出かけた先で宝石を見つけた。浅い入江の海底に、ラムネ色の小さな石がいっぱい沈んでいたのだ。
太陽の光を受けてキラキラ光るおはじきのような石はとても美しく、心を奪われたわたしはざぶざぶ海に入り、せっせと拾い始めた。その時ちょうどひとりの中年男性が通りがかり、「何してるの?」と声をかけてきた。わたしは興奮気味に「ここに宝石があるの! ほら!」と言って手の中の石を見せた。するとその人は「それは割れたコーラの瓶だよ。波に洗われて丸くなっているけど、ただのゴミ。そんなの拾ってバカだなあ」と言った。標準語の冷たさとバカと言われたショックで、幼いわたしは何も言い返せなかった。
民藝と手仕事の生活道具を扱う「みんげい おくむら(http://www.mingei-okumura.com)」のポップアップストアで奥原硝子製造所(https://okuhara-glass.shop)の琉球ガラスと出会ったとき、真っ先に思い出したのはこの日の情景だった。あの石に似たライトラムネ色の美しいグラスやピッチャーに心惹かれ、思わず3点衝動買いした。その時に店主の奥村さんから、これらの製品が再生ガラスから作られていることを教わった。
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琉球ガラスはもともと第二次世界大戦後の資源不足を補うため、アメリカ軍基地で捨てられたコーラやビールの空き瓶を溶かして再利用したのが始まりで、現在は泡盛の瓶などが使われているという。わたしが購入したライトラムネのシリーズには窓ガラスが使われているのだそうだ。
本土復帰前はその約6割がアメリカへの輸出用だったというが、たしかに日本人に好まれる薄さや繊細さを追求したガラス製品とは異なり、どっしりしていて厚く、がしがしと躊躇なく使える琉球ガラスはアメリカ人の生活様式に合っている気がした。そしてそれはわたしの性格にも合っていたようで、気づけば奥原硝子のグラスは夏の定番となった。
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ペリカンに似たピッチャーは奥原硝子製造所の人気商品。グラスは炭酸飲料だけでなく、とろみのあるスムージーやカフェオレ、チャイなどを入れてガブガブ飲むと気持ちいい。
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ころんと丸くて可愛い徳利はおもに花瓶として使用している。
この出会いをきっかけに、ほかにも再生ガラスを使って作品をつくっているガラス作家がいることを知り、気に入った器を少しずつ集めるようになった。ただ、どの作品も再生ガラスだから好きになったわけではなく、ひと目惚れしてみたら、実は……というパターンばかりだ。
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片口の浅葱色は板ガラス(窓ガラス)と黒瓶と青色の瓶を混ぜ合わせて作り出した平岩さんオリジナルの色。ボウルとともに中目黒の「工藝 器と道具 SML(https://sm-l.jp)」で購入。
普段は何も考えず、ただ好きだから使っているけれど、再生ガラスでできていることをふと思い出すと、秘密を共有しているような、なんともいえない愉快な気持ちになる。そのため人に褒められると「これって実はね…」と得意気に教えてしまう。あの時おじさんに、ゴミだ、バカだと言われて何も言い返せず、「コーラの瓶を綺麗と思っちゃいけないんだろうか。そんな自分はバカなのだろうか」と落ち込んでしまった当時の自分に、そんなことないよ、あれはあなたにとって確かに宝石だったんだよ、と教えてあげたい。
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リサイクル、アップサイクルは近年ますます注目され、再生素材でつくられた製品も増えて来た。それはとても良いことだけど、環境に配慮していれば何でもいいわけではなく、わたしはやはり好みのデザインや、クリエーションとしての面白さや驚きのあるものに惹かれてしまう。そして好みぴったりの物と出会うと、余計な買い物が減り、それを日々使うこと、何年も使い続けることに幸せを感じるようになっていく。
もしかしたらわたしにとって、本当に気に入ったものと出会うことが一番のエコロジーであり、サステナブルな暮らしへの近道なのかもしれない。
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エッセイコンテスト入賞を機にファッションの世界からライターへ。現在はおもに広告・PR業に編集も。小さめの映画と街歩きが好き。牛肉・はまぐり・鋳物で知られる三重県桑名市出身。