Do well by doing good. いいことをして世界と社会をよくしていこう

年間600万トンの食品ロスを減らすために、いま考え直したいこと【前編】
年間600万トンの食品ロスを減らすために、いま考え直したいこと【前編】
VOICE

年間600万トンの食品ロスを減らすために、いま考え直したいこと【前編】

フードロスとは、まだ食べられるのに捨てられる食品のこと。フードロス削減のために、私たちは何をしたらよいのでしょう。まずはフードロスが起こる仕組みと削減の目的について考えてみましょう。食品ロス研究に携わる小林富雄先生に聞きました。

▼数字で知る、食品ロス問題はこちら

適正価格で品質のいいものが
世の中にあふれてくれば
フードロスは減っていく

FRaU 世界中で、まだ食べられる食料が年間13億トンも廃棄されているとは衝撃です。一方で、飢餓で苦しんでいる人もいるのに矛盾していますね。

小林 フードロスの問題というのは、飢餓以外にも生産・サプライチェーンにおける収穫後損失の問題、大量廃棄による環境負荷の問題、地球の人口増加による食料不足も深刻で、さまざまな社会問題とつながっています。

FRaU 問題山積みでクラクラします……。

小林 国の状況に応じて問題も少しずつ違うので各国それぞれの対策が必要です。実は開発途上国でもフードロスが発生しています。途上国は食べ物を作っても技術不足で収穫ができず、交通環境、保存設備、加工施設などのインフラが整っていないため、やむをえず捨ててしまうことが多いのです。途上国と先進国ではフードロスの発生段階が違うということが重要なポイントで、これに関しては生命にかかわることもあり、早急に動かなければいけない。一方、日本など先進国はできるだけフードロスをなくしていこうという段階です。日本は戦中戦後、食料がない貧しい時代があった。「もったいない」はいまでも通じる言葉ですが、ものがなかった当時とは意味合いが微妙に違う。だから、なんでもかんでも「フードロス反対!」と強行すると、いまの暮らしや人間関係が壊れていく可能性もある。学校で給食を全部食べきれなくて、一人残って食べさせられた経験が僕もあるんですけど、果たしてそういう極端なやり方でいいのか考えるタイミングにきています。どういう現状だから、どのようにフードロスを減らすのか、われわれは真剣に考えなければなりません。

FRaU 日本は貧しさから這い上がって恵まれた食環境を手に入れた。それをまず知ったほうがよいということですね。その大前提のうえで、現代日本が優先すべきはどんなことでしょう?

小林 僕が気になっているのが、生産と消費の関係です。ここが完全に分断していると感じるのは、プロセスが「効率化」の名のもとに数量と価格だけで進んでいるからです。数字に表れやすいところばかりが目立ってしまって、本質が取り残されているように感じます。

FRaU 具体的にはどのようなことですか?

小林 スーパーのチラシみたいなものがわかりやすいんですが、たとえば「ほうれん草50円!」という文字がガンッとアピールされていますよね。悪いことではないです。ただ、最近「買い物に疲れた」という学生がいて、すごく印象に残っているんですけども、昔、僕らが大学生になったばかりの頃は自分で好きな買い物ができる喜びがあったけど、いまの若い子に「買い物に疲れる」という感覚が芽生えるのは、安さのアピールばかりで、消費者に優しくないからかもしれないと。本質的な商売のやり取りではなく、いかに買わせようかと低価格を打ち出し、大量陳列に終始している店が多すぎるから。みかんが甘いか酸っぱいかなど、そういう味覚や旬の話って、昔は八百屋さんとのコミュニケーションがあったと思うんですけど、いまは店頭にものが置いてあるだけ。チラシに書かれているのは値段やポイント還元の話ばかりで、商品そのものの価値を伝えるようなサプライチェーンになってないんです。その結果、何が起こったかというと、とにかく数量を満たすこと。店の棚を数で満たすことばかりが発達した。でもその棚は全部売り切れることはなく、売れ残りは返品されて捨てられる。店や納入業者は返品しても利益を出すためにどうするかというと原価率を下げる。そうすると、100円の商品の原価が20円だったりする。売れれば80円儲かるけど、捨てたとしても20円しか損しない。ということは、欠品するよりも大量に仕入れて捨てたほうがいいじゃないかとなる。いまは数字に表れない品質評価のチャネルがなくて、消費者も忙しいから商品を数字で見るしかないというのが現状です。もっと品質にこだわる消費者が増えていけば、原価も上がっていく可能性があるし、質のいいものを同じ金額で買えて、結局お買い得なのではって気がするんです。

FRaU 品質を理解しないまま、安さだけで喜ぶというのは耳が痛い話です。

小林 だから、本質的な価値を理解するにはプロとのコミュニケーションが必要なんです。消費者がもう少し生産者や事業者とコミットして、正確な情報を聞いて、ちゃんと理解したうえで買えるチャネルが出てくるといい。思い入れがあっておいしいものは、フードロスになりにくいんです。あと、みなさん高いものは大事にしますよね。キャビアをパーッと捨てる人ってあまりいない。安売りされていて、それほど損をしないから捨ててしまう。これは理想論かもしれませんが、適正価格でかつ品質のいいおいしいものが世の中にあふれてくるとフードロスは減るんじゃないかというのは、僕の研究のベースにある考え方です。それこそが本当にみんなが幸せになる唯一の手段ではないかと。

FRaU とてもわかりやすいです。私たちがコミュニケーションできる店を選び、買い方を意識するだけでも効果がありそうです。

▼つづく

PROFILE

小林富雄
愛知工業大学経営学部経営学科教授、サスティナブルフードチェーン協議会代表理事、ドギーバッグ普及委員会委員長。食品のサプライチェーンから発生する食品ロス研究に携わり、出版、執筆、講演などを行う。近著に『増補改訂新版 食品ロスの経済学』(農林統計出版)他多数。

●情報は、FRaU2021年8月号発売時点のものです。
Artwork:Niky Roehreke Text & Edit:Chizuru Atsuta
Composition:林愛子

Official SNS

芸能人のインタビューや、
サステナブルなトレンド、プレゼント告知など、
世界と社会をよくするきっかけになる
最新情報を発信中!